最長期連載と読み切りラッシュを終え雌伏のときを過ごした2010年代
- 2010年
- 「スペランカー アンソロジーコミック」(ジャイブ)に「スペシャルランカー」収録。
- 2010
~2011年 - 月刊ドラゴンエイジ(富士見書房)で「最近のデッド。」を連載。
- 2012年
- ヤングガンガン(スクウェア・エニックス)に「復讐のビワスズキ バス江」収録。
- 2012年
- Fellows!(エンターブレイン)に「ピーチボーイ」収録。
- 2013年
- コミックガム(ワニブックス)に「コス地蔵」収録。
──2010年代前半では「最近のデッド。」や「スペシャルランカー」といったパロディ作品を描かれています。そもそもデビュー作の「超兄貴」からそうですが、パロディものはお好きですか?
田丸 同人誌出身だから、パロディが板についてるんでしょうね。
田山 さっきの「モモモスモモモ太郎。」もそうだけど、田丸さんは近年割と昔話をいじる方向に行ってるんじゃない? それは話の発端が決めやすいからなの?
田丸 やりやすいのは確実にありますね。やっぱりパロディ体質なんですよ。
──ただパロディ元の世界観を借りて、いつもの田丸さんテイストに仕上がるのがいいですよね。「最近のデッド。」も10話あるけど“奴ら”になった生徒と先生のギャグが大半ですし。
田丸 だいぶ自由にやらせてもらいました。それでも「俺たちこそが『HIGHSCHOOL OF THE DEAD』だ」と言ったら大輔さんに「これはちょっと直して」と言われたけど。この作品は、当時mixiで知り合った大輔さんに「仕事しましょうよ!」とかワーッて言ってたからか、「パロディやらない?」と声をかけていただき描くことになったんです。あと編集部に「俺は原稿料が倍になってもいい仕事をした」と冗談で言ったら、原稿料が本当に倍になって「ラッキー」と思った記憶があります(笑)。
──ようやくいい思い出話が出てきましたね。「桃太郎」をモチーフにした「ピーチボーイ」はいかがでしょう?
田山 「ピーチボーイ」は原田さんがものすごい好きでね。
原田 今回初めて読んだんですが面白いですよね。
田丸 僕もこれ今回初めて読みましたよ。田山さんに「『ピーチボーイ』を収録したい」と言われたときは「いや、俺そんなの描いてない」と言ったくらい覚えてなかった。
一同 (笑)。
田山 「知らない」って断言してたよね。「桃太郎とおばあさんがヤッたなんて、そんな下品な!」って。
田丸 でも、短編集のゲラの画像を送られてようやく「俺が描いたわ」と思い出しました。
──途中から童貞と非童貞のどちらが強いかという話になりますね。
田丸 「刃牙(バキ)」でそういう話があるじゃないですか。あれがインパクトに残ってたからその話を描いたんじゃないかなあ。
田山 あと田丸さんが割と好きな空手家でマンガ原作者の故・真樹日佐夫先生も、何かのインタビューで「ケンカになった場合、絶対に童貞の奴よりヤった奴のほうが強いよ。精神的に優位に立てるもん」って言ってた。田丸さんにその話をした覚えがある。
田丸 うーん、覚えてない(笑)。
──個人的には2013年に描かれた「復讐のビワスズキ バス江」の、少しホロリとさせようとする雰囲気が印象的です。
田山 もう少し話が転がると、少年と(ブラックバスの)バス江の恋愛や友情の話にいくかなというところで終わるやつ。
田丸 「ラブやん」的な感じですね。これは、僕と友人がいつも集まっていたおもちゃのさいとうの店長にマンガを投稿させるためにみんなで作ったネタなんですよ。
田山 けっこう、さいとうさんにマンガを描かせようとしていたよね。組織暴力対ゾンビだったか、女子高生だったか。
田丸 そんなのもありました。「バス江」はそのうちのひとつで、「バス釣りのマンガでバスが復讐する『嘆きのフィッシュオン』というのはどうだ!」とか適当に挙げてたら「俺そんなん描かへん」と言われたので「じゃあ俺が描くわ!」となって。ただ描いたはいいけど、時間がなくて話が転がりきらないまま終わって「やべ」と思った作品です。
──最新作「コス地蔵」も昔話の系譜にあるものですが、これはどのような経緯で生まれたのでしょう?
田山 その当時のコミックガムの編集部に田丸さんの熱心なファンの方がいて、何か描いてほしいというので都合3回描いていただきました。なんで地蔵になったんだっけ? 「地蔵は描くのが楽だ」とか言ってたかな?
田丸 下描きがほぼいらないですからね。
田山 地蔵があそこまで生臭いっていうのは、どこから着想を得たんですか?
田丸 特に何も考えてなかったです(笑)。
──何も考えずにあんな地蔵が出てくる辺りがさすがです。これで短編集に収められた作品についてはすべてお聞きできましたが、その後、2015年の「ラブやん」連載終了以降はお名前を聞く機会が減りました。
田丸 その後は同人誌でたまに描くだけで、あとは趣味に生きてました。
田山 じゃあここ3、4年は商業誌でマンガを描いてない?
田丸 描いた記憶がないですね。TVアニメ「紅殻のパンドラ」のエンドカードを描いたくらいです。
──田丸さんは「ラブやん」終了時のインタビューで、次作について「まだ形はできてないけど、妖怪ものをやります」とおっしゃっていました。この作品はどうなったのでしょうか?
田丸 ネームを15、16ページくらいまでやってそこで止まったままです。萎縮しちゃって1回も出してないです(笑)。
田丸浩史のくだらなさは変わってない
──ここまで田丸さんのマンガ家人生を振り返ってきましたが、長年関わっている田山さんから見て、どんな成長や変化を感じられますか?
田丸 「むしろ初期より絵が簡素になってるよね」とか?
田山 自分でそれを言うか(笑)。成長と言っても、田丸さんのキャラは成長しないところがウリというか、剥き出しの幼児的な欲望と現実のギャップを客観的に描く面白さが田丸さんの魅力だと思うし。
田丸 子供みたいな理屈こねたりとかね。親に宿題をやるよう言われて「今やろうと思ってたのにー」とか言っちゃう感じ。
田山 (「ラブやん」の主人公・)カズフサの人間ができていたとしたらあまり読者の共感を生まないのかなという気がするな。読者の幼児的な部分を体現してくれるのが田丸さんのテイストだから。ただ年齢を重ねてもそういうのを維持していくのは大変だから、その辺は苦労されたのではないでしょうか。
田丸 でも人間、30を超えたら変わらないでしょ。
田山 そう? 田丸さんは妙に大人にならないよう努力してるんじゃないですか。
田丸 逆に大人になる努力をしてないかな。
田山 田丸さん的表現だと「50才児」として(笑)。今回短編集作るために自分が担当したもの以外の、例えば「モモモスモモモ太郎。」や「スペシャルランカー」なんかを初めて読んで「いや、この人のストーリーテリングのくだらなさは変わってないわ」と本当に感心しました。海外の小説家でオー・ヘンリーやサキといった奇妙な味の短編を書く人がいますけど、田丸さんは同じように「どこからこんな発想を」と思わせてくれる。奇譚……変わった話を描く名人だと思いますね。
──田丸さんは来年で50歳、デビュー30周年を迎えるわけですが。そこに特別な感慨はありますか?
田丸 「え、いつの間にこんな歳になったの!」というのが大きいです。30歳や40歳になったときとは違い、「50になるのに代表作があまりない! ちょっとヤバい」という思いもあって。
田山 代表作は「ラブやん」じゃないの?
田丸 そうですけど、もう少し大きい何かが欲しいなって。
──一ファンとしても、さらなるブレイクを望みます。これまで他メディアへの展開の話はなかったのでしょうか? 「レイモンド」はドラマCD化の話もあったと耳にしましたが。
田丸 少し聞いたことがあるような。
田山 たしか……倉田英之さんが脚本を書いて、政治家の鈴木宗男の元秘書のムルアカ氏がレイモンドをやるというアイデアがあると聞いていたけど。途中で流れた。
原田 連載当時にドラゴンエイジのラジオ番組があって、その中でドラマCDを作るという話があったんですけどね。
──特に「ラブやん」は15年も連載していたので、「全メディア黙殺」なんて帯に書かれながらも、実はアニメ化の話もあったのでは?
田丸 アニメ化の話も2、3回あったんですよ。それも世間の風潮のせいかやっぱり流れて。
──やはりロリ・オタ・プーの主人公では厳しいのでしょうか。「ラブやん」終了時に田丸さんがブログで「カズフサが熟女好きとか改変してもOKなので、アニメ方面からのご連絡お待ちしております」と書かれていたのを覚えています。
田丸 “ご連絡”来なかったですね。
田山 そもそもカズフサが熟女好きになったら、それもう「ラブやん」じゃない気もする(笑)。
田丸 来てくれたら、もう本当に「イエース」って言ってたのに。
──では30周年、もしくはその先に発表される次回作に期待します。
田山 次回作こそ大きく当たるものを、ですよね。
田丸 もう次回作は「ラブやん」みたいに流れるようなのは描きません! もっと狙ったやつを描きます。と言っても今のところまだ何も考えてないので……ちゃんとやります。
次のページ »
田丸浩史プロフ帳