コミックナタリー Power Push - 「夜廻り猫」

深谷かほるインタビュー

人生うまくいかない人が、簡単に絶望しないために

能力がある人は他人に厳しい

──個人的には98話が好きです。50歳でバツ3で定職なしの女性に対して、遠藤が珍しく慰めっぽいことを言ってる回ですね。

第98話

第98話

自分に自信が持てない女性のもとに、同窓会のお知らせが届く。

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この女性は自分の境遇に対してそんなに深刻に気にしてる感じでもないし、遠藤も若い人を相手にするのとは違って「あなたもそう思いませんか」ぐらいの感じで言えたんでしょうね。

──この「もし失敗のない人生だったら視野は広がりようがない」とか、「努力が報われた幸運な人は得てして狭量。不運・理不尽を知る者をこそ友としたいと思いませんか」っていうセリフとか、「遠藤は過去に何があったんだ」と思いました(笑)。

こう書いてるってことは、私もそう思ってるんでしょうね(笑)。自分の努力で道を切り開いた人って、その人にたまたま欠けてるものが少なかったという自覚なしに、若い人に「結果が出ないなら努力すればいい」とか言いがちじゃないですか。能力がある人は他人に厳しいですよ。

──こういう人生のつらさや人の優しさを描いた回が多いですよね。僕はもうある程度歳を取っているので、自分の経験と重ねてすごく響くんですが、若い方からの反応っていうのはどうですか?

私も若い人にはわからないんじゃないかと思ってたんですけど、少数ながら好意的な反応がありますね。こないだ中学2年生の男の子から「ごめんなさい」っていうリプライがきたんですよ。なんだろうと思ったら「すごく好きなので勝手にアイコンに使ってます。単行本買うから許してください」って。

──かわいい(笑)。若い人にも作品が響いてるんですね。

その子のアカウント見に行ったら、友達にも宣伝してくれたりしたので、「じゃあ全然許すよ」って言っておきました(笑)。

「遺書として残したい」って言われたんです

──Twitterでいろんな方がマンガをアップされてますけど、Twitterって仕事とかの合間に軽い気持ちで見ることが多いし、いろんな話題がどんどん過去に流れていくものだから、読み流されるマンガが多いと思うんですよ。そんな中、「夜廻り猫」に対する反応を見てると、「何回も読み返してます!」とか「画像を保存してお守りにしてます!」と言っている人が多い印象です。

そうみたいですね、ありがたいです。

──読者の反応で、印象に残ったものはありますか?

単行本化の話が全然なかった、まだ初期の頃なんですけど……「ぜひ単行本にしてほしい、私の子供に遺書として残したい」って言われたことがあります。

──遺書ですか。

深谷は趣味で「夜廻り猫」グッズを自作している。写真は粘土に描いたイラスト。

遺書って言うと若い方には誤解されるかもしれないですけど、別に暗いことを言ってるわけじゃなくて。「生きてると大変だけど、捨てたもんじゃないと思える場面がきっとあるはずだ」「そうそううまくはいかないけど、簡単に絶望しないように」「それをこのマンガから受け取ってくれるはずだ」って考えてくれたみたいで。

──「子供に伝えたいメッセージが詰まってる本なんだよ」と。

そういうことを作品から感じてくれたんだなっていうのを、「遺書にしたい」という短い文章から感じました。

──確かに、いろんな人に「これ読んで!」って薦めたくなる作品だと思います。

ありがたいことです。反応がなければ続かなかったし、本にもならなかったと思います。本当に皆さんに育ててもらった作品ですよ。これまで知らなかった人も、単行本化をきっかけに目を通していただきたいですね。

──最後に変な質問をしますが、もし深谷さんが遠藤に「心で泣いておるな」って話しかけられたらどうします?

うーん……。まずは「猫が喋った!?」ってびっくりしたあと、「私、弱ってるのかな」って悩んじゃうでしょうね(笑)。

深谷かほる「夜廻り猫(1)今宵もどこかで涙の匂い」/ 2016年6月30日発売 / KADOKAWA
「夜廻り猫(1)今宵もどこかで涙の匂い」
1080円
Kindle版 / 1000円

ひとり泣くものに寄り添う夜廻り猫の遠藤平蔵。
「泣く子はいねが~~」。涙の匂いのするところに現れる夜廻り猫の遠藤平蔵。
老若男女、犬猫問わず、涙する人とともに呑み、笑い、ときに励まし、ときに見守り、いつも彼だけはそっと寄り添う。
「む。涙の匂い」。今夜の夜廻り猫はあなたの元を訪れるかもしれない。
Twitterで連載中の話題作がついに書籍化!
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深谷かほる(フカヤカオル)
深谷かほる

2015年10月よりTwitter上で「夜廻り猫」を掲載開始。当初、毎夜1話ずつ更新された「夜廻り猫」は瞬く間に多くの共感を得る。代表作に「エデンの東北」「ハガネの女」「カンナさーん!」などがある。