コミックナタリー Power Push - 「3×3EYES」高田裕三×「火葬場のない町に鐘が鳴る時」和夏弘雨

WEBマンガで繋がる、ベテランと新鋭の創作論

原案に冥奴様は出てこない(和夏)

「火葬場のない町に鐘が鳴る時」に登場する冥奴様。

和夏 ありがとうございます!小説とかマンガを投稿するE★エブリスタというサイトに載っている小説が原案なんですが、実はそちらには冥奴様は出てこないんですよ。

高田 ええええ!?

和夏 ゾンビは出てくるんです。主人公の勇人や、勇人の幼馴染の咲っていう主要キャラの名前とか、勇人が田舎町に帰ってきたときに、その町は自分の知っている町ではなくなったっていう設定は同じなんですが、アレンジさせていただきました。

高田 そうなんですね。いや実は1話目に冥奴様が出てこないのが惜しいなって思っていて。2話目で出てきた冥奴様を見ると、読むのを止められない。スティーブン・キングの「呪われた町」を思い出しました。上巻を読み始めてしまったら、下巻まで読まないと気持ちが悪い。こんなにマンガが上手い人がいままでどこで何をやっていたのかと……。

和夏 とんでもないお言葉をいただいてしまいました。長い間日銭を稼ぐような生活をしていまして……。ヤンマガで新人賞を受賞したのですが、その後連載を取れなくて、真面目に働こうと花屋に勤めたんですよ。でもその花屋も潰れてしまいまして、マンガ家さんのアシスタントになって、紆余曲折あって今に至ります。

高田 興味深いですね。花屋さんのネーム描けばいいんじゃない?

和夏 実はもう描いていて、何度もボツになりました(笑)。あ、そういえば中学生で進路に悩んでいたとき、ヤンマガを読んでいたら「3×3EYES」の欄外にアシスタント募集が毎週載っていて、親に「高田先生のアシスタントになって生きていく!」って宣言してましたね。だけど親に説得されたのと、阪神大震災の影響で、堅実に生きていこうとそのときは諦めましたが……。そんなことがあってあまり自分がマンガ家だっていう意識が薄くて。

高田 僕も同じです。自分のことを町工場のおじさんって思っています。対談前に作品を読ませていただいたらすごくちゃんとしたマンガで、「マンガ家さんと対談しなくちゃいけない、緊張するなあ」って思いながら来ました。

和夏 うわあ、滅相もないです。ヤンマガ海賊版に投稿されるコメントには、勇人が無茶しすぎって意見が多くて。自分がこの場にいたらこうするだろうなって思って描いているから、自分自身を無茶な奴だと言われているような……(笑)。

高田 うん、キャラクターになりきってないとお話って描けないですよね。中途半端にキャラになってネームを描いたときは、作者の視点でお話が進んじゃって……。でもそれじゃあ、ただのあらすじですからね。

1人で週刊連載をやるって相当ですよ!(高田)

──ヤンマガ海賊版はコメントを投稿しやすいですよね。読者からのコメントに関してはうれしい意見も厳しい意見もあると思うのですが、どのように付き合っていますか?

和夏 ここがダメって書かれたら、そういう表現やめようって思っちゃうこともあるんですけど、それも違いますしね。

高田 僕の時代はファンレターが主流だったので、よかったと思っています。ポジティブな気持ちがないと、手紙を書いて、封筒に入れて、切手を貼って送らないんですよ。……いや、ありましたけどね、すごい意見も(笑)。ネットは逆に、ある表現に対して1人が厳しい意見を言っても、その裏で200人くらいはその表現が好き、だけど黙っているかも……っていう風にイメージしてます(笑)。好きな人は別に言わないから。

対談の様子。手前が和夏弘雨、奥が高田裕三。

和夏 そうですね。ただせっかく「ここ面白かったです」「続き読みたいです」って書いてくださってるのに、それを読まないのは失礼なので、コメントはこれからも見るんだろうなと思います。

──おふたりともヤンマガ海賊版で週刊連載をされていますが、どういった仕事の流れで執筆されていますか?

和夏 仕事の流れはWEBでも紙媒体でもそんなに変わらないと思います。編集者さんとネームの打ち合わせをして、作画してという流れです。

高田 僕は1カ月分のネームを1度に全部切ります。だいたい50ページ前後になるんですが。作画は前半と後半に20数ページずつ分けて編集者に渡しています。

和夏 1カ月分のネームを1度に切る理由をお伺いしても?

高田 ネームは、描き始めるまでにHPを貯めないとなかなか描けないんです。1カ月に4本マンガのネームを描くって、HPを貯める時間がもったいないので、描けるときにバーッと描いちゃいます。1週間に1本マンガをあげるって、恐ろしいスピードなんですよ(笑)。

和夏 確かに(笑)。僕はいまアシスタントさんをお願いしていなくて、全部1人で描いてるんですけど……。

高田 えっ、1人で週刊連載をやるって相当ですよ!

和夏 あはは。というのは、僕はこの連載で初めてデジタルでマンガを制作するようになって。僕自身、デジタルのアシスタントをした経験がないので、指示出しとか設備の導入とかで迷っていて。

1話目は全てアナログ、3話目は全てデジタルです(和夏)

高田 これまではアナログで描いてらっしゃったんですか?

和夏 はい、完全アナログ人間でした。でもアナログで描いたものがデジタルだとどういう表現になって出てくるかわからなかったんですよ。自分のイメージ通りになるかわからなくて困って、連載が決まってからデジタルを覚えました。

高田 すごい!

「火葬場のない町に鐘が鳴る時」の2話より。

和夏 実は「火葬場~」の連載は急に決まったので、1話目は全てアナログで、Gペンで描きました。2話目からキャラのペン入れだけはアナログでやって、それ以外をデジタルでやったんですよ。ただそれもちょっと大変で。3話目から完全にデジタルに移行しました。

高田 ええ、3話目でデジタル移行?

和夏 人間、背水の陣になればなんでもできるもので、なんとか描けるようになりました。デジタルになったら、できあがりのイメージが湧きやすいです。あと、机が散らからない(笑)。

高田 トーンカスが出ないからね(笑)。僕はアナログなので散らかってますねえ、トーンカスは吸い込むと体に悪いんじゃないかと思いながら仕事をしています(笑)。

ヤングマガジン海賊版

「世界にあふれる海賊版の面白さだけマネしたい」「とびきり面白い作品ばかり集めたい、マンガ界に不敵な波風を立てたい」のコンセプトで1986年から1995年まで刊行されたヤングマガジンの増刊号。マンガ雑誌・ヤングマガジン海賊版の記念すべき第1号の表紙を手掛けたのは大友克洋。

「攻殻機動隊」「3×3EYES」「工業哀歌バレーボーイズ」など数々のヒット作品を生み出した伝説のレーベルである!

その「伝説のレーベル」が今、E★エブリスタ×ヤングマガジン編集部の手によって、WEBコミックレーベルとして堂々復活!! 投稿小説作品のコミック化で、今までにない異端な面白さを追求していく!!

ヤングマガジン海賊版はこちらから

スマホからも楽々読める! ヤングマガジン海賊版のアプリが登場

高田裕三「3×3EYES 幻獣の森の遭難者(1)」2015年6月27日発売 / 650円 / 講談社 / Amazon.co.jp
高田裕三「3×3EYES 幻獣の森の遭難者(1)」

不老不死の術を持つ三只眼吽迦羅の少女・パイと、その不死身の守護者・无となった少年・八雲。パイの「人間になりたい」という願いをかなえるため、共に冒険の旅に出る。だが、それは人類を滅亡へと追い込む破壊神との、永く激しい戦いの始まりであった。そして……すべてが終わった最終回から12年──、パイと八雲たちの新たな冒険の幕が上がった!コミック3300万部の大ヒット作の正統続編が、完全新作で登場!!

漫画:和夏弘雨 / 原案:碧海景「火葬場のない町に鐘が鳴る時」2015年6月27日発売 / 講談社
「火葬場のない町に鐘が鳴る時(1)」 / Amazon.co.jp
「火葬場のない町に鐘が鳴る時(2)」 / Amazon.co.jp

人口6000人、山あいの小さな町・みとず町。その田舎町では夕方6時になると不協和音の鐘が鳴り響く。その音が聞こえたら、夜明けまで決して外に出てはいけない。だが、10年ぶりに東京からこの町に戻ってきた勇人は、この掟を知らずに破ってしまう。そこに現れたのは、冥奴様と呼ばれる得体の知れない化け物だった。PC&スマホマンガ雑誌・ヤンマガ海賊版発のサスペンスホラー!!