コミックナタリー PowerPush - ヤングマガジン サード
「じゃない方のヤンマガ」とは? 三田紀房×三島衛里子が高校野球&戦争トーク
高校野球の監督も戦争の指揮官も、キャラが立ってる
──三田先生も戦争モノに関心があるということですが、その興味はどのあたりに向いてるんでしょうか?
三田 僕はね、作戦好きなんですよ。太平洋戦争っていっぱい作戦があるんです。で、作戦を立ててはことごとく失敗してる。その中には、これはおかしいなっていう作戦も結構あるんですよ(笑)。なんでこんなことしちゃうのかってところに興味が沸くんですよね。
三島 ええ、ありますね。
三田 大本営に作戦課というのがあって、いわゆるトップエリート、海軍大学校と陸軍大学校から来た頭のいい奴らが作ってるにも関わらず。まあうまくいった作戦なんて、真珠湾攻撃くらいで、あとは全部失敗しているわけですから。
──戦争に興味があるというと、軍事オタクか、飛行機や機材が好きとか、装備好き、武勇伝好きとかいろいろいますが、三田先生は作戦好き、と。
三田 ああ、あとは人物好きもね。なんとか中将とか。
三島 私もそれ分かります! 高校野球で言えば、監督ってあんまり変わらないじゃないですか。選手は3年で入れ替わっちゃいますけど、監督は「ああ、高嶋さんいるな」とか「前田さんまた変なことやってんな」って感じで。それと同じで、戦争も指揮官のキャラが立ってたりするんですよね。年齢的にも監督さんたちと近いかも。
──高校野球の監督と、戦争の指揮官が似てるんですね。
三田 監督なんてキャラクターの宝庫ですもんね。
三島 指揮官もキャラ濃いですよ。現場主義の腹割って話せるタイプもいるし、兵学校の成績はいいけど保守的で出世だけうまいタイプもいるし。
──第2話でも司令官の山口多聞が出てきますが、彼はどういうキャラですか?
三島 ああ、山口多聞は、割と人気がある人ですね。結構太ってて、猛者キャラというんでしょうか。
「ドラゴン桜」の影でお蔵入りになった幻の戦争モノ
──三田先生は戦争モノを描こうとされたことはあるんでしょうか?
三田 前に、戦争を題材にしたマンガを作ろうという企画を立てたんですよね。最初に調べたのは戦艦大和は一体いくらかかったんだろうっていうことでした。戦争って、国家事業なわけですよ。国の資産をつぎ込んだ、いわゆる公共事業ですよね。道路や橋を作るのと同じ感覚なんです。で、戦争するって言ったときに、軍艦だ、空母だ、って用意して。
三島 ええ。
三田 はっきりした資料はないんですけど、戦艦大和は当時のお金でだいたい60億。いまだと恐らく100倍くらいだから、まあ6000億ですよね。税金それだけ突っ込んで船1隻作って。結局何に使ったかっていったら、沖縄戦に行って、片道でドンと沈んで。
三島 そうなんですよね。
三田 たった1回で6000億吹っ飛んでるわけだから。その費用対効果たるや。で、構想していたマンガのストーリーをざっくり説明すると、大本営のトップエリート集団みたいなのが、何にどれだけ使って、どれだけの成果を得たのかっていうことを計算するっていう。どれほどの金があったらアメリカを相手ににどれくらい持つのか、とか、ヤバくなったらどうやって負けたらいいのか、とか。もちろん架空の設定ですけどね。で、主人公を東大の数学科を出た秀才にしたら面白かな、と。
三島 すごく読みたいです。
三田 連載する直前まで行ったんですけど、雑誌のほうからストップがかかっちゃって。当時かわぐちかいじ先生の「ジパング」が連載されていて。太平洋戦争モノが2作は、ひとつの雑誌にいらないだろうということでね。それで企画自体がボツになっちゃったんですけど、その代わりに始まったのが「ドラゴン桜」なんですよ。
三島 へー! すごい話。
三田 まあ結果的にヒットしたのでよかったんですけどね。
──いつかそのお話も読みたいですね。そろそろ時間ですが、三島先生、最後に三田先生に聞きたいことはありますか?
三島 あ、そうですね。……三田先生のマンガで、見開きでいきなり例え話に出てきた魔物が本当に出てきたりするじゃないですか。「砂の栄冠」の「ネコまっしぐら」(※註釈)とか。あれってどうやってアシスタントさんに指示されてるんですか?
三田 そんなに細かくは言わないですね。意外とざっくり。「ネコまっしぐら」は「猫をいっぱい、ベンチに走って行くように描いて」っていう感じで。
三島 あはははは(笑)。鉛筆ラフは描かれるんですか?
三田 ええ、ざっくりとですけどね。逆にスタッフの子に楽しんで描いてもらったほうが、いい絵になりますから。スタッフも、何ページも細かいものを描くより、見開き描いたほうが楽しいじゃないですか。
三島 なるほど。あの例えがビジュアライズされてくるのはいつも楽しみです。今日はありがとうございました。
三田 こちらこそ。「ヨーソロー!!」も楽しみにしています。
(註釈)ネコを被った樫野高校野球部のメンバーが、純粋な野球部員をアピールするために全力疾走でベンチに戻る様。
ラインナップ
- 巻頭カラー
- とみすず「土俵を駈ける」
- 巻中カラー
- イナベカズ(原案協力:浅乃帆翔)「ロックミー アマデウス」
- 茂木清香「眠れる森のカロン」
- 三島衛里子「ヨーソロー!! ―宜シク候―」
- 朝霧カフカ(イラスト:鳥羽雨 メカニックデザイン:貞松龍壱)「ギルドレ」
- 平本アキラ「俺と悪魔のブルーズ」
作品紹介
「ドラゴン桜」の鬼才が久々に描く、涙と汗の高校野球ドラマ!
埼玉県西部、樫野市にある県立樫野高校では、学校創立100年の記念イヤーに野球部が夏の選手権・決勝戦にコマを進め、まさに甲子園まであと一歩! ナインも生徒も教師もOBも栄冠へ一丸となっていた……!
三島衛里子(ミシマエリコ)
1982年11月5日生まれ。大学在学中にデビューし、2008年よりビッグコミックスピリッツ(小学館)にて初連載「高校球児ザワさん」をスタート。高校の硬式野球部を舞台に、唯一の女子選手の日常を描き人気を博す。同作は第2回サムライジャパン野球文学賞大賞を受賞。2012年からはエレガンスイブ増刊もっと!(秋田書店)にて「私立ブルジョワ学院女子高等部・外部生物語」を連載。2014年よりヤングマガジン サード(講談社)にて、3作目の連載となる「ヨーソロー!! ―宜シク候―」をスタートさせる。
三田紀房(ミタノリフサ)
1958年1月4日岩手県北上市生まれ。1988年モーニング(講談社)にて「Eiji's Tailor」でデビュー。1997年に週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で「クロカン」、1999年には別冊ヤングマガジン(講談社)にて「甲子園へ行こう!」の連載を開始する。2作品とも高校野球の知られざる裏ワザを描いて話題となった。2003年、モーニングにて「ドラゴン桜」をスタート。東大入試をテーマに、具体的な勉強法を描いて大ヒット。2005年にドラマ化され、第29回講談社漫画賞および文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞した。2010年からはヤングマガジンにて、高校野球と金をテーマにした「砂の栄冠」を、2013年よりモーニングにて投資をテーマにした「インベスターZ」を連載している。