コミックナタリー PowerPush - ヤングマガジン サード
「じゃない方のヤンマガ」とは? 三田紀房×三島衛里子が高校野球&戦争トーク
1球1球のドラマを見守る人と、クールに宴会場を押さえる人
──三島さんから見る、三田先生の野球マンガの魅力はなんでしょう。
三島 私、「砂の栄冠」の整体の先生の話がとにかく好きで。学校指定のOBがやってる整体に行かないといけないんだけど、あんまりうまくないから自分で見つけたところに行きたい、っていう。
三田 ははははは(笑)。
三島 それでまた監督とモメるんですよね。あのエピソードがすごく好き。あと「このマンガ、ちょっと普通と違うな」と思ったのが、1巻冒頭の埼玉の夏の県大会決勝のシーンで、OB会長が宴会場の予約を、試合途中、8回あたりでするんです。で、だんだん劣勢になってくると「ローストビーフはキャンセルで……」「宴会場キャンセルできないかな……」って(笑)。あそこでもう「このマンガ、絶対ほかと違うんだな」って瞬時に分かりました。
三田 ああ、いいところに反応していただいて!
三島 結局負けて「じゃあ準優勝の慰労会ってことに」とか言って。自分も大学時代、部活のマネージャーをやってたんですけど。やっぱりあんな感じなんです。1日の試合の組み合わせを見て「今日で敗退かな」って。で、すぐに30人くらいの宴会ができそうな居酒屋を「今日になるか明日になるかわからないんですけど……」って仮押さえしたり(笑)。なのですごく共感しちゃって。マンガでは普通、「1球1球がんばれ……!」っていう感じでしか描かれないですけど、そこでやっぱりOB会長やマネージャーがそういう調整をしたりしていて、案外、1球1球を純粋に見守るっていう経験をあまりしたことがなくて。熱闘甲子園に出てくるようなドラマばかりじゃなくて、人間ってなんかもっとドライなんですよね。
三田 ええ、ええ。
三島 世間一般では夏の決勝で1球1球を見守ってますけど、そんなときに「宴会場をどうするか」って話をしているクールな人がいて。世の中って、何事もそういうふうにできてるんじゃないかって思うんです。なので新雑誌のヤングマガジン サードでは、そういう戦争モノを、自分なりに描いてみようと思っていて。
日常に作品性を持たせる「三島ワールド」
──新連載の「ヨーソロー!! ―宜シク候―」ですね。
三島 戦争のときでも、空襲受けて周りが火の海で逃げ惑ってる人がいる中で、次の日電車を動かすにはどうしたらいいか考えている冷静な人間がいたりもしたわけですよね。そういうことってあんまり語られたり、知ることが少なかったら、違う側面を知りたいんです。描いていく中で自分なりにそれを収集できるのが楽しい。
三田 戦争という一大関心ごとなんだけど、実はその中にも日常はある。4年も戦争してたわけですからね。実際の生活で4年間って言ったら、結構長いですよ。みんなごはん食べて、子供は学校へ行って。そこに作品性を持たせるというのは、三島さんならではというか、ひとつのワールドを作りつつあるんじゃないかと思いますよね。第1、2話を読ませていただきましたが、「いいとこ突いて来たな、また」って感心しましたよ。僕は戦争モノにも非常に関心がありますし。
三島 ありがとうございます。
──もしこの時代にテレビカメラがあったら、高校野球ではカメラが白球だけを追いかけているように、零戦だけを追いかけているかもしれない。でもそこに映らないところには、ものすごくいろんなバックヤードがあるということですよね。
三田 そうです。そういうことです。第1話で戸澤兵曹が出撃するときに、ベルトやマフラーなんかをどんどん装着していくシーンがありましたけど、その手順も細かく均等割りのコマで描かれていてね。なるほどねー、と思いましたよ。
三島 こういうお着替え、やっぱ描いてて楽しいんですよ(笑)。資料は白黒写真だから、何がどうなってるのかなかなか分からないんですけど……。手順やお手入れの仕方とか、そういうのを見てるのも本当に楽しくて。マフラーひとつとっても、巻き方が人によって違ったり、帽子の被り方もちょっと違ったり。軍帽のワイヤーを外して丸くして、ちょっとバンカラ風にしたりとか、個人でそういうアレンジをしていたり。
三田 ははは(笑)。
三島 あと先ほどのバッティングゲージのパイプの継ぎ目の話じゃないですけど、軍艦の中も溶接で付けてあるのか、鋲みたいなもので留めてるのかっていうのも艦によって違ったりしていて。アシスタントさんにも「この艦はリベットじゃなくて溶接で付いてるのが多めだから、あんまり丸いポッチは描かないで」って指示したり。
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ラインナップ
- 巻頭カラー
- とみすず「土俵を駈ける」
- 巻中カラー
- イナベカズ(原案協力:浅乃帆翔)「ロックミー アマデウス」
- 茂木清香「眠れる森のカロン」
- 三島衛里子「ヨーソロー!! ―宜シク候―」
- 朝霧カフカ(イラスト:鳥羽雨 メカニックデザイン:貞松龍壱)「ギルドレ」
- 平本アキラ「俺と悪魔のブルーズ」
作品紹介
「ドラゴン桜」の鬼才が久々に描く、涙と汗の高校野球ドラマ!
埼玉県西部、樫野市にある県立樫野高校では、学校創立100年の記念イヤーに野球部が夏の選手権・決勝戦にコマを進め、まさに甲子園まであと一歩! ナインも生徒も教師もOBも栄冠へ一丸となっていた……!
三島衛里子(ミシマエリコ)
1982年11月5日生まれ。大学在学中にデビューし、2008年よりビッグコミックスピリッツ(小学館)にて初連載「高校球児ザワさん」をスタート。高校の硬式野球部を舞台に、唯一の女子選手の日常を描き人気を博す。同作は第2回サムライジャパン野球文学賞大賞を受賞。2012年からはエレガンスイブ増刊もっと!(秋田書店)にて「私立ブルジョワ学院女子高等部・外部生物語」を連載。2014年よりヤングマガジン サード(講談社)にて、3作目の連載となる「ヨーソロー!! ―宜シク候―」をスタートさせる。
三田紀房(ミタノリフサ)
1958年1月4日岩手県北上市生まれ。1988年モーニング(講談社)にて「Eiji's Tailor」でデビュー。1997年に週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で「クロカン」、1999年には別冊ヤングマガジン(講談社)にて「甲子園へ行こう!」の連載を開始する。2作品とも高校野球の知られざる裏ワザを描いて話題となった。2003年、モーニングにて「ドラゴン桜」をスタート。東大入試をテーマに、具体的な勉強法を描いて大ヒット。2005年にドラマ化され、第29回講談社漫画賞および文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞した。2010年からはヤングマガジンにて、高校野球と金をテーマにした「砂の栄冠」を、2013年よりモーニングにて投資をテーマにした「インベスターZ」を連載している。