コミックナタリー Power Push - 柳内大樹「新説!さかもっちゃん」
デフォルメとリアル絵が交錯する実験作 龍馬愛に溢れた入魂のギャグマンガ
柳内流ネーム術を公開
──「さかもっちゃん」は変わった形式の作品ですが、マンガを作っていく上で何か特別なやり方はあるんでしょうか?
僕の場合はまず文章で書くんですよ。とにかく言いたいこと、描きたいことを全部。その中からマンガにする部分を選んでいくんですよね。とにかく言いたいことが多くて。今喋っててわかるように、よく喋るでしょ、僕(笑)。
──言いたいことをいったん全部吐き出して、そこから削る作業をしていくんですね。
そう。で、第2段階はコマ割りだけを考える時間。その文章の横に、小さなページを描いて、コマに割っていくんです。コマの大きさもこの時点で考えたり。ここは見開きでドカンと、とかね。ここで顔の向きとかも描き込んでいく。特に人物のアングルを考えるのは、このやり方が迷いなくできますね。ぼんやりやってると、いつの間にか同じアングルばっかりになってたりするんですよ。ここまで考えた後に、ネームを描きます。担当さんに見せるのはこの段階。
──文章でプロットを書く人は結構いると思いますが、そうやってひとつひとつの部門に分けて考えていく人は珍しいと思います。
だから原稿になるまでに4度手間くらいかかってるんですけど、このやり方にするようにしてから、ネームが1日でできるくらい早くなったんですよ。迷いがないんです。人間って物事をたくさん同時にできるほど頭良くないのに、ストーリーもコマ割りもセリフも一度でやろうとするから、結局ネームに3日間とかかかったりする。一見めんどくさそうに見えるけど、このやり方のほうが早いし、気に入った感じで描けるんですよね。
──柳内流ネーム術、ですね。
そんなとこですね。
──ほかにも制作上でこだわっているところはありますか?
史実に残ってない部分を、あり得るかも、という考えで話を作っていくことですね。史実に残ってない部分って、残ってないからこそ本当のところどうだったかはわからないじゃないですか。そうじゃないという証拠もない。例えば、坂本龍馬と高杉晋作が出会うシーン。この時期にすでにふたりが会ってるっていうのは一般的にはおかしいんですけど、会おうと思えば会える距離にいたっていう史実があるから、会っててもおかしくないよね、っていう。“史実に残ってなさ”っていうのをきっちり調べるんです。
──ギャグマンガなのに、意外とちゃんと調べてるんですね。
そうですよ。監修の方もいらっしゃって。ちゃんと調べてるから、6ページなのにすごく時間かかってるんですよ。なのに今イチ適当にやってると思われがちなのが残念です。真剣なギャグマンガなんですよ、これは!
──きっちりしてる中に、斬新な設定もいろいろありますよね。例えば、龍馬がインド人女性と出会うというのも。
これも史実に残ってないからあり得るという。まあ、常識的にあり得もしないんですけど(笑)。でも実際に会ってないという証拠がないわけですから、創作できるんです。ま、「新説」ですからね。これ、魔法の言葉です(笑)。
あらすじ
坂本龍馬19才、剣術修行の旅に出る! 4コマギャグとリアルマンガで「新説!」の名に違わぬ新しい龍馬をゆる~く楽しく、格好よく描く、幕末青春ギャグストーリー。勝海舟、吉田松陰、岡田以蔵に高杉晋作……有名人多数登場!! こんな龍馬、見たことねェ!!!
柳内大樹(やなうちだいじゅ)
1975年生まれ、富山県出身。1995年、ヤングマガジンエグザクタ(講談社)にて「別天地」でデビュー。その後、ヤングキング(少年画報社)にて代表作「ギャングキング」を連載。現在単行本累計760万部突破の大人気作品に。2010年1月、斬新なアイデアとマンガ技法をもとに、週刊ヤングジャンプ(集英社)にて「新説!さかもっちゃん」連載開始。新しい坂本龍馬像、新しい幕末青春マンガを執筆中。