コミックナタリー Power Push - 柳内大樹「新説!さかもっちゃん」
デフォルメとリアル絵が交錯する実験作 龍馬愛に溢れた入魂のギャグマンガ
アツくて真っ直ぐな不良マンガ「ギャングキング」で、ヤンキー層のみならずマンガ読みまでをもうならせている柳内大樹。彼が週刊ヤングジャンプ(集英社)で挑戦したのは、坂本龍馬を題材にしたギャグマンガだ。しかも、デフォルメされた2等身キャラとリアルタッチのキャラが交錯する、かつてない形式。コミックナタリーでは、この新しい試みに挑戦する柳内にインタビューを敢行。彼がいかに試行錯誤しつつ作品を生み出しているか、たっぷりと語ってもらった。
取材・文/坂本恵 編集・撮影/唐木元
魂を込めないと売れないと思ってます
──そもそも、なぜ龍馬を題材にマンガを描こうと思ったんですか? 最近の龍馬ブームに便乗……?
いやいや、本当に昔から坂本龍馬が好きで。僕は坂本龍馬の生まれ変わりじゃないかと信じてたくらいですからね(笑)。小学生くらいの時からマンガ家になりたかったんですけど、その時から「絶対将来龍馬のマンガ描いたるねやー!」と思ってたんですよ。授業中に龍馬の絵とか描いたりして。
──小さい頃からずっと描きたいと思ってたんですね。
そうですよ。それなのにこの龍馬ブームで、なんか便乗したみたいになって……。例えば僕が高校生のときの夏休みに、うちの親父が「これ使い切るまで旅してこい」って10万円渡してきたんですけど、迷いなく高知の桂浜に行きましたよ。でもすることもなくて、ずっと龍馬の銅像眺めてました(笑)。それほど好きなのに、「さかもっちゃん」はギャグマンガなんで、龍馬ファンにはふざけてると思われてるみたいで。僕、そいつらより断然龍馬のこと好きな自信ありますけどね!
──好きだから描く、という気持ちは重要だと思います。
「さかもっちゃん」に限らずですけど、マンガ描くときには感情に嘘はつかないようにしてますね。自分が感じてる以上のことは描いたりしないです。キャラクターにもすごく感情移入する。だから僕、恥ずかしい話ですけどネーム描きながら泣いてしまうこと多いですよ。感情こもりすぎて(笑)。
──感情を込めて描くことを大事にしてるんですね。
そうですね。作画に関しても、感情がこもってる表情って時間がかかるんですよ。「さかもっちゃん」で言ったら、リアル絵のところは特に。大ゴマなんて、ホントは作業としては楽なはずなんですけど。こんなこと言ったらサムいですけど、魂というか、気持ちを込めてやってますね。
──気持ちを込めると、丁寧になる?
いや、逆ですね。「ギャングキング」の初期の絵って、ペンタッチがすごい丁寧なんですよ。“後撫で”をきっちりしてる感じ。今はそうじゃなくて、感情をぶつけるように、ジャッ、ジャッと描く。たまに線が2重になったりはしますけど。でもそっちのほうが伝わると思うんですね。描く前からすごい気合入れますもん。
──キャラクターにも作画にも、とにかく魂を込めて。
そうじゃないと単純な話、売れないと思ってます。そう言うといやらしい感じがしますけど。例えばエロマンガの人は、エロが本気で好きであればあるほど売れると思うんです。メッセージ性のあるマンガなら、たぶんその人の真面目な部分が試されるんですよね。そこに濁りがあればあるほど人気なんか出ないと思うんです。僕は人気出たいんで、真面目に悩みますね。
──人気が出るということには結構執着しているタイプですか?
しますね。商業誌ですから。よく編集のせいにしたり、読者のせいにしたり、文句言う人いますけど、だったら同人誌に行けよっていう話ですよ。自分で商業誌を選んでるわけだから、自分だけかっこつけたってしょうがないんです。まず人気だと思ってますね。一番いいのは、人気出つつ、自分の好きな作品が描けることですけどね。僕、なんのためにマンガ描いてるかって言ったら、自分の共感者を増やしたいんですよ。共感者が増えると、たぶん僕が楽しいはずなんです。例えば、「ギャングキング」で主人公のジミーがおばあちゃんに席を譲るシーンがあるんですけど。もし僕の地元の不良が「俺もジミーみたいになりてえ」って言って、僕のばあちゃんにたまたま席を譲ったりしたら……とかね。うれしいじゃないですか。一緒のこと考えてほしいんです。
──デビュー当初から結構人気というのは意識されてたんですか?
気づいたのは10年くらい前ですかね。デビューして5年くらいは、「関係あらへん、読者のボケー」とか、「編集なんかぶっ飛ばしたるわー」とか思ってました。そういう気持ちも大事は大事なんですけどね、編集さんの言うこと、昔よりは聞くようになりました。新人の頃のほうが聞いてなかったですね。だから当時の迷惑かけまくった編集さんには恩返ししなきゃと思ってます。
──今は、自分の満足のために描くというよりは、人にもっと読まれたいということですね。
そうですね。でもうれしいことに、「ギャングキング」の6巻以降、自分の描きたいもんで人気出てくれてるんですよ。だから今は理想的な形ですよね。「さかもっちゃん」も好きなように描かせてもらってるので、あと人気が出てくれたら、もっと僕が楽しいはず(笑)。
あらすじ
坂本龍馬19才、剣術修行の旅に出る! 4コマギャグとリアルマンガで「新説!」の名に違わぬ新しい龍馬をゆる~く楽しく、格好よく描く、幕末青春ギャグストーリー。勝海舟、吉田松陰、岡田以蔵に高杉晋作……有名人多数登場!! こんな龍馬、見たことねェ!!!
柳内大樹(やなうちだいじゅ)
1975年生まれ、富山県出身。1995年、ヤングマガジンエグザクタ(講談社)にて「別天地」でデビュー。その後、ヤングキング(少年画報社)にて代表作「ギャングキング」を連載。現在単行本累計760万部突破の大人気作品に。2010年1月、斬新なアイデアとマンガ技法をもとに、週刊ヤングジャンプ(集英社)にて「新説!さかもっちゃん」連載開始。新しい坂本龍馬像、新しい幕末青春マンガを執筆中。