コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第7回 やまもり三香「ひるなかの流星」「椿町ロンリープラネット」
カッコいい男性キャラの研究
三白眼のせいで、「すごく怒っている顔?」と……
──かわいくておしゃれな絵柄に惹かれる読者もたくさんいると思うのですが、特にこだわっていることはありますか?
うーん……古くならないようにがんばるつもりではいます。谷川史子先生のように昔からずっとかわいい絵の作家さんっているじゃないですか。かわいくて、味があるような絵を描いていけたらいいなと。流行もあるので、うまく消化して取り込んでいきたいです。
──男子のルックスのバリエーションも豊富ですよね。髪型が違うだけ、とかではなく顔立ちもいろいろで。特に今回の暁さんは今までにはないタイプの顔。
今回は三白眼を描こうと思って(笑)。1話目で「おかえり」って言ってるシーンを、なちやんが手伝ってくれていたんですが、「キラキラしたトーンを貼って」と言ったら暁の目つきを見て「でもこれ、すごく怒っている顔だよね?」と(笑)。「え、ふみはときめいてるの? 怒られて泣きそうになってるんじゃないの?」みたいな。
──(笑)。確かに暁は冷たそうな、怖そうなカッコよさですよね。
「ひるなか」のときの獅子尾とか馬村はモテる顔を意識していたんですけど、今回はそういうのを無視して(笑)、描いたことのないものを描いてみようと。
──かなりチャレンジングな。
そうですね。目をちっちゃくすると、顔のバランスがとりづらい。最近やっと慣れてきた感じはあるんですけど、まだ気を抜いたら面長になったりするシーンもあるので気をつけています。
苦しみながら作った話は反響も大きいんです
──「ひるなかの流星」という人気連載を終えて、ご自分の中で変化はありましたか。
私自身は全然変わっていないんですけど、周りの反応が変わったなあとは思います。戸惑う時もありますが、ありがたいですね。(その前の連載の)「シュガーズ」は淡々としたオムニバスだったんですが、「ひるなか」は最後までどっちとくっつくかわからないような怒涛の展開になっていったので、作品ごとにファンになってくれる層が違うのかなとは思いますね。「椿町」ではちょっとジジくさいような、ほのぼのとした恋愛を描いてもいいかなあと思っていて。お互いに「この人しかいない」と思えるような。
──「ひるなか」はうまくいったり、いかなくなったり、かなり浮き沈みの激しい作品でしたから。
そのたびに私もすごく落ちたり、「ひゃー!」って盛り上がったりしていました。
担当編集 やまもりさんはかなり物語に気持ちが入ってしまう作家さんなので、「ひるなか」の時は別れの場面とか、描いていてつらそうでしたよね。
つらかったですね。つらいことを描き続けるのが苦しかったです。別れ話は描くのも読むのもつらいですよ。あまり自分のキャラをカッコいいとかかわいいとか思わず、ドライに描いているつもりなんですけど、心情を描くときには、自分の中にある感情を取り出さないといけないので、そこはつらいですよね。ネームが全然進まなくなる。楽しい展開だと次にこれやらせよう、とか考えられるんですが、別れ話だと「どうせ終わるしな」みたいになってしまって。でも苦しみながら作った話は、その分、読者さんからの反応が大きいんですよね。「あの時の話は思い出に残っています」みたいな感想をいただいたりする。「シュガーズ」の藍くんが別れる時の話とか。すっごくつらくてネームが全然進まなかったんですけど、あれが好きですと言ってくれる方が多くてうれしかったです。
──やはり伝わるものがあるんですね。
仲良しのマンガ家は、お互い高め合える、友達兼ライバル!
──今回「ブックパス」のキャンペーンでマーガレット、別冊マーガレットの作品がたくさん読み放題になるので、やまもり先生のお好きな作品についてお聞かせください。
いくえみ綾先生にはかなり影響を受けていますね。「バラ色の明日」「プレゼント」に収録されている「おうじさまのゆくえ」という短編が初めて触れたいくえみ先生の作品で。中学1年生の時にCookieで読んだんですが、「りぼんとは全く違うジャンルのマンガだ!」と衝撃だったですよ。「男の子が主人公なのにお面白い!」みたいな。
──恋愛ものですが、最後は特にラブラブで終わるわけでもなく。
ですよね。「なんだこのリアルな男の子は!」と。バカっぽく見えるけど、考えてることが生々しくて。少女マンガのヒーローってもっとカッコよくてキラキラしているものだと思っていたので驚きました。過去に付き合っていた女の子たちが出てくるんですが、その中の1人のことを「さみしいときに利用しあう べんりなあいてとなりつつあり…」と書いてあって。その時は意味がわからなかったんですけど、成長してくるとなんとなく2人の間に何があるのかが想像できて「あ、そっか、そういうことか……生々しいな」と(笑)。「りょうじょく」っていう言葉がひらがなで出てきたのも後から意味がわかりました。
──影響を受けたのはどんな部分ですか。
ストーリーラインもコマ割りも……モノローグってこういうふうに入れるんだ!とか。中3になって初めて描いてみたマンガは、いくえみ先生のマンガを隣に置いて描いていました。教科書みたいなものでしたね。かなり読みあさって、「かの人や月」も大好きでした。
──アルコさんの「銀河」(「アルコ 恋愛女子短編集 ラブレター」所収)からも影響を受けられたそうですね。
はい。留学していたこともあって、一時期マンガから離れていたんです。20歳くらいの時に、「そろそろ、何かしないとな……」と思って、またマンガを描いてみようかと、とりあえず別マを買いに行ったんですよ。今のマンガはどうなっているのか見てみようと思って。そこにアルコさんの「銀河」が載っていて、「うわあああ!」と。いくえみ先生以来の衝撃でした。かわいくてときめいて、純愛っていいなあと思いました。サラッとしているのにちゃんと見せ場があって、読後感がとてもいい。
──ほかにもお好きな作品はありますか?
羽柴麻央先生の「イロドリミドリ」は、マンガ家になってから出会った作品ですが、とても衝撃的でしたね。ザ・マーガレットにカラーで載っていて。いくえみ先生、アルコ先生に続き、3度目の衝撃ですよね。「なんてこった!」みたいな。ほんわかしているのに、衝撃のラストで。「どうやったら思いつくんだ!」と。物悲しくて、すごく余韻が残る終わり方。「心が 小さく震えた」っていうモノローグがあるんですけど読んでいて「私の心も震えたよー!」と。興奮冷めやらぬ状態で思わず携帯からファンレターを出しました。
──なんと! 直接ですか。
「やまもり三香っていうマンガ家なんですけど……面白かったです!」って。アルコさんにもファンレターを出しました(笑)。あとは、いま連載中の作品だったら、安藤ゆき先生の「町田くんの世界」も好きですね。
──ちょっと大人っぽいマンガですよね。ラブがてんこ盛り、とかではない。
でも確実に読んでよかったな、と思えるマンガなんですよ。淡々と進んで行くんだけど、面白い。ちゃんとその世界の中で生きている人の生活を見ている気分になります。読むたびにいいなあって思います。ずっと取っておきたくなるようなマンガ。ほかには、いがりペコさんの「大魔王のセツナ」、星川ハチさんの「A.【アンサー】」も。いがりさんの描く女の子って、まっすぐなんですよね。男の子もすごくカッコいいし。こういうマンガを描く人はすごく性格がいいんだろうなあと思ってしまう。いち読者として楽しめます。「A.【アンサー】」を読んだ時は、「新しいマンガが来た!」と思いましたね。本当に面白くて、この先どうなるんだろうなって。
──そうやって連載陣から刺激を受けていらっしゃるんですね。
そうですね。私も面白い話を描きたくなってきます。最近マーガレットの作家さん、みんなすごいですよね。ひろちひろさんも絵がすっごくうまいなあと思って読んでいます。
──「ヒロイン失格」の幸田もも子先生、「ギャルジャポン」のシタラマサコ先生、「日々蝶々」の森下suu先生は、単行本にもよくお名前が登場しますね。しょっちゅう会っていらっしゃるとお聞きしました。
なちやんとはさっきまで一緒にいました(笑)。
──マンガ家さん同士、どんなお話をなさるんですか?
主にマンガの話ですね。これからどうしていきたいか、とか。
──同じ道を歩く同士でわかり合えることが多そうですね。
そうですね。お互い高め合える、友達兼ライバルみたいな……クサいことを言ってしまいました(笑)。みんなに聞かれたら「お前そんなこと思ってんのか!」とか言われそうですね。でも幸田は「俺は好きだぞ! 熱いな!」とか言いそう(笑)。
──「幸田」と呼び捨てにするくらいの仲良し!
呼び名がみんな苗字なんです。なちやんは違うんですけど、お互いシタラ、幸田、やまもり。かなり性格ががっちり合っていて、会うとずっとふざけてますねえ。ものまねをしたり、似顔絵を描いたりして。仕事の前なのに、それで体力使っちゃうんですけど。
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- 第1回 河原和音
- 第2回 咲坂伊緒
- 第3回 神尾葉子
- 第4回 中原アヤ
- 第5回 森下suu
- 第6回 あいだ夏波
- 第7回 やまもり三香
- 第8回 水野美波
- 第9回 幸田もも子
- 第10回 宮城理子
- 第11回 佐藤ざくり
- 第12回 椎名軽穂
- 第13回 小村あゆみ
- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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やまもり三香(ヤマモリミカ)
10月8日生まれ。石川県出身。天秤座A型。 2006年にザ マーガレット(集英社)にて「キミのクチビルから魔法」でデビュー。 主な作品に「シュガーズ」など。 2011年から2014年にはマーガレット(集英社)にて「ひるなかの流星」を連載。全12巻で累計170万部を突破する。2015年5月、同誌にて「椿町ロンリープラネット」の連載がスタート。
2016年1月22日更新