コミックナタリー Power Push - 「シティーハンター XYZ Edition」
獠がプロポーズ!? 幻のエピソードがアニメ化 小室×北条「Get Wild」語る対談もお蔵出し!
獠に「抱かれたい派」と「結婚したい派」が衝突!
──そういう大きな方向性が決まったところで監督の先名さんに担当が移っていったわけですね。
水崎 先名は「シティーハンター」が大好きで。この案件が入ってきて「やりたい人いる?」ってSkypeで社内に回したら、食い気味で返事が(笑)。
先名 私は今29歳で、TVアニメの再放送を夕方に何度も見ていた世代なんです。だから、獠さんは憧れの人なんです! しかも、タイミングも運命的で。私は疲れると朝マンガを読んで元気を出すんですが、このときたまたま読んでいたのが「シティーハンター」だったんです。これはもう自分が受けるしかないなって。
──獠の呼び方は「獠ちゃん」じゃなく「獠さん」なんですね(笑)。
先名 最初は「獠ちゃん」だったんですけど、やっているうちにどんどん「さん」とお呼びしたい気持ちに(笑)。みんなの中にそれぞれの「獠」がいますよね。本作の作画をメインで担当した梅木は、私と違ってリアルタイムでアニメを見ていた世代ではないですし。
梅木葵 私は「獠ちゃん」派ですね(笑)。今回の案件をきっかけに読み始めたらハマってしまって。即完全版を揃えました。
水崎 ほかにも獠の話になると食いついてくる人が多くて。これだけ好きな人がいれば絶対大丈夫だということで始めたんですけど……ファンが多いというのも、やってみるといろいろ厄介で。まず獠のキャラクターについてスタッフが衝突した。先名は「抱かれたい派」らしいんですが、当初原画をいくつか描いていただいた外部スタッフさんは「結婚したい派」で。それぞれ好きな獠が違って、みんな譲らない(笑)。
先名 私は、ちょっと情けなかったりギャグっぽかったりする二枚目半のところにキュンとするんです。たぶん「結婚したい派」の方は「カッコいい獠」が好きなんだと思うんですね。原画でもすごくカッコいい獠さんが上がってくる。その二面性が獠さんの魅力なのでどちらが正しいというわけではないですが……映像としてどう落とし込むかは難しいところでした。
水崎 絵をどの時期に合わせるかというのも、すごく議論になったよね。
先名 今回は「シティーハンター」30周年記念ではあるんですが、映像化する「獠のプロポーズ」というエピソード自体は「エンジェル・ハート」の特別編として描かれたものなんですね。でも「シティーハンター」のプロジェクトなので、私としては「シティーハンター」連載当時の獠さんを再現したいと思っていました。「シティーハンター」完全版でいうと、25巻から30巻あたりのイメージです。
──かなり具体的ですね。
先名 もちろん、どの時期もいいんですが(笑)。終盤はシリアスな話が増えてくることもあって、絵も重厚になっていくんですよね。その手前のこの頃が、ちょうどコミカルさがよく出ていて個人的にも好きな時期なんです。
梅木 なので、「エンジェル・ハート」の獠ちゃんの表情を見つつ、「シティーハンター」の頃の絵に落とし込んでいく、というようなことをやろうといろいろ試行錯誤しました。オトボケの獠ちゃんと真剣な獠ちゃんのギャップをきちんと拾ったり……。
水崎 ただ、北条先生の絵は、今もどんどん新しくなっていますから。あまり昔の絵を再現するといっても、お気に召すかどうかわからない。一方で当時の絵に愛着があるファンも多いだろうし。延々と議論が続いたんです。それで、どうにも結論が出ないから、最終的には北条先生に伺ってしまおうと。でも、実際にお時間いただいて話をしたら、先生がしばらくずーっと無言で(笑)。どうしようと思っていたんですが、最終的に「任せるよ」と言っていただいて、そこから具体的に絵についていろいろアドバイスをいただきました。「俺は明るい側のアウトラインは細く、暗い側は太く描いてる」とか「カラーのときはタッチ(影などの線)は入れてない」とか。
神谷明たち“オリジナルキャスト”だから表現できる会話の間
──北条先生の言葉を受けて、映像に変化はありましたか?
先名 「マンガを動かす」という狙いがあったので、最初はモノクロの線画で映像を作っていて。その線画の頃の名残で、カラーに移行した後も最初は鼻の影とかにタッチが入っていました。アドバイスをいただいて、より先生の画風に近づけられたと思います。
──着彩も独特ですよね。いわゆるアニメの塗り方とはまったく違う印象というか。
先名 「北条先生といったら水彩だろう」というのが入り口でした。もちろん今までのアニメも大好きなのですが、今回は根底に「以前までとは違うもの」を作りたいというのがあったので。
──既存のアニメ版とはどう向き合いましたか?
先名 意識しないようにするのが大変でした。自分自身に刷り込まれているので、どうしても引っ張られてしまう。たとえば、獠さんのジャケットの下のシャツも、最初はほとんど無意識に赤にしていたんですが、水崎や北条先生に「違うんじゃないか」と指摘されました。確かにアニメでは獠のシャツといえば赤なんですが、原作でその色はあまりない。一方で原作でもアニメでも印象的だったカラスやトンボはやはり外せないだろうと思って、しっかり入れています。
──キャラクターの声優陣には当時のキャストが揃っていますが、映像制作に声は影響しますか?
先名 普通はアニメの映像に合わせてアフレコを行うのですが「獠のプロポーズ」では、まず声を先に録音していて。やはり声を聞くと一気にイメージが膨らみましたね。会話の間やタイミングも声優さんたちが比較的自由に表現してくださって、実は最初に聞いたときは「ちょっと間が長いかな」と思ったんです。でも長年演じている神谷さんたちが「獠ならこの間」ということでやっているので、そのタイミングのまま映像を作ってみるとすごくリアルで。さすがだなと思いました。
──ここを見てほしい、という点は?
水崎 原作でずっと続いている獠と香のもどかしい関係についに決着がつく話ですが、相変わらずカフェの中で鈍感な2人が空回りしていたりする(笑)。でも、原作には、その堂々めぐりがカチッとハマる気持ちいい瞬間が描かれていて。それを映像できちんと再現できたと思うので、見て確かめてほしいです。
先名 「シティーハンター」は、獠と香がくっつきそうになっては離れるというような「繰り返し」が印象的な作品で、今回も構図など「繰り返し」を意識しています。ただ繰り返していく中でも、2人の心情はどんどん変化していく。そこの表現を作画の梅木が頑張ってくれました。
梅木 すれ違い続ける会話劇の中では、微細な心情の動きも大きな変化なんです。その心情の動きをちょっとした目の動きやハイライトで表現しようとしました。鼻筋ひとつとっても真剣なときとギャグっぽいときでは変わってきますから。
水崎 絵としてはアート系のドローイングアニメーションに見えると思いますが、その根底には実写、モーションキャプチャー、3DCGといった技術が詰まっています。技術にこだわりを持つ神風動画だからできた映像だと自負しています!
北条司(ホウジョウツカサ)
1959年福岡生まれ。1980年、週刊少年ジャンプ(集英社)にて読み切り「おれは男だ!」でデビュー。代表作に3人組の女怪盗を描いた「キャッツ♥アイ」、新宿で生きるスイーパー・冴羽獠を主役にした「シティーハンター」など。「シティーハンター」の世界をベースにしたパラレルワールド作品「エンジェル・ハート」を2001年より開始。同作は「エンジェル・ハート 2ndシーズン」のタイトルで、現在も月刊コミックゼノンにて連載中。
©北条司/NSP 1985