週刊少年チャンピオン50周年 対談連載第4回 武川新吾(週刊少年チャンピオン編集長)×沢考史(週刊少年チャンピオン前編集長)|編集者の言うとおりに描いてくる作家はダメ!理想は「打ち合わせと違うじゃないですかァァ~!!!」

表現のいい・悪いをAIで判断する機械があったとしても、俺はいらない(沢)

──また板垣巴留先生のトークショーの話に戻ってしまうんですけど、そこでは巴留先生が「沢さんには少年誌としての表現について教わった」「中学2年生くらいの子に読ませることを考えて、と言われた」と話してました。

 タケは違うかもしれないけど、俺の考える少年誌のターゲットは中学2年生ですね。

──ちなみにそれを受けて、一緒に登壇されていた、当時の担当だった松山さんが「沢さん自体が中学2年みたいな感じだからね」とも言ってました。

 失礼な奴だな(笑)。

月刊チャンピオンREDの創刊号となった、2002年10月号。

武川 沢さんは2002年にチャンピオンREDを創刊したとき、「熱くなれ少年心!」っていう標語を作ったんですよ。「少年」に「心」を付けた。REDの3号目(2002年12月号)の表紙にも「日本の少年誌」って大きく入れていましたし。

──REDって雑誌名には「少年」と入ってないですけど、考えとしては少年誌というか、少年心を持った人に向けた雑誌という感覚なんですね。

 リアルな読者は少年誌とは違ってきますけど、そうですね。

武川 REDって実は、マンガのセリフの漢字にルビがついているんですよ。そこは少年誌と同じです。

 そのわりにあとがきでは難しい漢字を使っちゃってたから、すごく恥ずかしいんだけど(笑)。

武川 僕は入社してすぐヤングチャンピオンに配属されて、週刊少年チャンピオンに行くまでに、途中でREDを経験したのがよかったなと思っているんですよ。「そうか、(実際の少年ではなくて)少年心をターゲットにするっていう感覚でいいんだ」というのがわかったので。

──この対談連載では「『BEASTARS』はチャンピオンだったからこそ生まれた作品」という話が何度も出てきましたよね。

 本当に最初からすごかったから、どこに載っていても話題になるような作品ですよ。ジャンプで始まってたら、(単行本の)初動がもう少し有利に進んだかもしれないけど(笑)。

「BEASTARS」8巻より。草食動物と肉食動物が共生する「BEASTARS」の世界では、食肉はタブーとされている。しかし裏市と呼ばれる場所では、非合法ながら肉が売られており、時には肉食動物がほかの動物を襲う事件も発生する。

──チャンピオンは少年誌ではありますが、性描写、暴力描写について寛大なイメージがあるんですよ。「BEASTARS」がチャンピオンらしいと言われるのはそのあたりが1つの原因なのかなという気はします。ヒロインのハルが男女のつきあいに奔放だったり、ストリップ小屋で働いていて体を売るキャラがいたり。ほかにも肉食動物がほかの動物を食べる設定や、事故で腕がもげるといった刺激的なシーンも、チャンピオン以外の少年誌だったら載らないのかも、という。

武川 それがそもそもなんでアウトなのってことですよ。「少年誌だからアウト」っていう前提・ルールだけではないんです。まずは1話の中で、その描写によってどんなドラマやメッセージ性を伝えられるかっていう判断をさせていただきたい。そのあとで、それが不快感を与える可能性があるとか、社会的に問題があるいうことになれば当然、しっかり考えさせていただきますけど。ストリップが出たらアウト、腕がもげたらアウトっていうことではなくて、その回でその要素が入っていることによるプラス面、素晴らしさをまず考えたいなという気持ちがあります。これは沢さんに教わったことだと思いますよ。

──「これが出ているからダメ」という単純なものにしたくはないということですね。

武川 僕ら編集者は添削係じゃないですから。

 マンガを機械に通して「これはOK」「これはダメ」っていうのをAIが判断するみたいなものがあったとして、ほかの出版社がその機械を持っていたとしても、俺はいらないです。

──過去に「少年誌的にこれはアウト」という判断だったことはあるんでしょうか。

 酒鬼薔薇聖斗の事件があった頃にミステリものを連載していて、生首が出てくるシーンはコマを白黒反転にしたことがあります。作家さんにはもちろん許可をいただきました。やっぱり悲しい気持ちになる人がいるのかなって。(店員に)すんません、ラフロイグもう1杯! あとは……「範馬刃牙」で、ピクルが烈海王の足を食べるじゃないですか。

──あれ? 食べるシーンがアウトってことはないですよね、載っていましたから。

「範馬刃牙」13巻より。かつて恐竜と戦っていた野人・ピクルは、自分を襲ってきた相手しか食べないという習性を持つが、その圧倒的な強さゆえに、現代では戦いを挑む者がいなかった。ピクルに餓死の危機が迫る中、烈海王は「自分が餌になってもいい」という覚悟を持って彼に挑み、敗れる。

 あそこで烈を食べないピクルはピクルじゃないから、食べるのはいいんです。ただ、最後に1ページ足してもらって、烈がベッドで目を覚ますと足がないっていう絵を描いてもらったことはありました。そこは俺がちょっと気になったというか……編集長としての感覚で、このほうが作品にとっていいことだと思って。

──確かに足を食べたシーンで終わると残酷な印象が強く残ったかもしれません。

武川 急遽直してもらったはずだし、担当の横井もそれを板垣先生に伝えるのは勇気がいることだったと思いますよ。

 言わなきゃいけないときに勇気を持って言うのは大事ですから。だけど本当に強いマンガ家は、俺たちが何か言ったって、彼らなりの答えを持ってるわけですから、こっちも安心して意見を言えばいいと思いますよ。

──結果的に、その後に追加された部分は名シーンになっていると思います。

武川 作家が考えたものに何かを投入するのは、やはり非常に勇気がいるんですよ。投入したことで……刃牙風に言うなら、毒になる可能性もあるけど、それが裏返る可能性もある。この場合は結果オーライだったと思います。

チャンピオンには、ほかの3誌は目じゃないマンガを作る力は全然ある(武川)

 すみません、最後にもう1杯だけいいですか?

──沢さんが完全にできあがる前に、今後の週刊少年チャンピオンに期待することを伺いたいんですが。

 読者は馬鹿じゃないから……いや、読者は賢いから、畑も見るんですよ。そこに生えてくる作物だけじゃなくてね。そのうえで「ここで育つものは応援したい」という気持ちがあると思いますよ。

──畑が雑誌、作物がマンガだと。

武川 雑誌の風土の話ですね。

 「この畑に生えた時点でバツ」「この雑誌でこれやってもつまんないだろ」みたいなこともあると思うんですよね、本当に。逆に「この作品はここで連載してたからこそよかった」ってのもあると思うし。読者は畑を見て、畑ごと愛してくれるっていうのがあると思うんですよ。週刊少年誌という1畳の畑が4つ並んでいるとしたら、うちは収穫はまだ少ないけど、でも畑の良さ、できたものの良さっていう勝負でははっきり言って負けてないと思ってますから。そんで5年後、10年後はわかんないですよ! 意外とすごい1畳になっているかもしれないですよ。収穫量がやけに伸びちゃったりして。

武川 ほかの畑はお米を作っている中で、僕らは砂糖を作っているってこともあるかもしれないですからね。人間、甘い物が欲しくなる瞬間もあるだろうと(笑)。

 地球温暖化でほかの畑が全部枯れていく中で、うちのサトウキビだけがすごい勢いで育つってこともあるかもしれないしさあ。

──ほかの畑が枯れるとか言わないでください(笑)。

武川 沢さんがおかしなこと言い出す前に、そろそろ終わったほうがよさそうですね(笑)。

──武川さんからも最後にまとめの言葉をいただきたいんですが、これまでサンデー、マガジン、ジャンプの各編集長と会われてどのようなことを感じましたか。

武川 週刊の少年マンガ雑誌という大きなものに対しての考え方は、皆さん同じようなものなんだなと思いつつ、やはり各雑誌ごとにキャラクターはあるんだなと。各雑誌の違いに刺激は受けつつ「チャンピオン、意外とそのままでいいじゃん」というようなことは思いました。

──講談社で「漫画編集者のための教科書」という本をもらってましたけど、あれをマネしたらマガジンになっちゃうわけですしね。

武川 もちろんあの本を読んで「なるほど」と思うことはありますけど、「それがマガジンのやり方なんだな」って思うだけで、我々は我々のままです。

──51年目、あるいは60周年、70周年目にむけての抱負をいただけますか。

 ここはせっかく取材してもらってるんだから、「おまえら待っとけ、おまえらチャンピオン読め」ぐらい強気なことを言っておくべきだよ。

──(笑)。

武川 チャンピオンには、ほかの3誌は目じゃないマンガを作る力は全然あると思っています。この対談でほかの編集長の皆さんと「僕たちは伴走者だ」と言ってましたけど、本当は「チャンピオンが最初にゴールしてしまうぞ」ぐらいの気持ちです。これはほかの皆さんもそんなふうに思ってるんじゃないかなと思いますけどね(笑)。チャンピオンは現在創刊50周年事業をやらせていただいてますけど、「過去に50年やっている」っていう大切さもありますが、それよりも大事なのは未来のことです。これからもどんどん面白いマンガが生まれて、読者の皆さんを魅了できるのではないかと思います。

左から武川新吾、沢考史。