マガジンとチャンピオンの似てる部分はリアリティの程度(栗田)
──武川さんのマガジンに対する印象は?
武川 すごく抽象的な言い方で大変恐縮なんですけど、新しいことを教えてくれる近所のお兄さんっていたじゃないですか。多少悪いこと、ちょっとエッチなこと、ひょっとしたら親に怒られてしまうかもしれないなってことを。そういう憧れのお兄さんが教えてくれる「こういう世界ってあるんだ」っていうのを、誌面ですごく上手に出されているマンガ雑誌という印象です。子供の頃からジャンプを読んでたんですけど、どこかしらで「マガジンも面白いな」って頭が切り替わる時期があったんですよ。
──僕も武川さんとほぼ同世代なんですが、確かにマガジンがジャンプの発行部数を抜いた90年代後半からマガジンも読み始めて「これまでジャンプしか読んでなかったけど、こっちにも面白いマンガいっぱいあるぞ」と感じました。
武川 「金田一少年の事件簿」「はじめの一歩」「BOYS BE…」とかですよね。僕はサッカーをやっていたので「シュート!」をすごく読んでいて、主人公のトシのマネをしてずっと左足でシュートを打つ練習をしてましたよ。
──チャンピオン編集長が“幻の左”を練習していた時代があるんですね。今「マガジンは親には怒られるかもしれないことを教えてくれる」というお話がありましたけど、4大少年マンガ誌でヤンキーものといえば、マガジンとチャンピオンというイメージです。
栗田 チャンピオンのヤンキーマンガだと「Let'sダチ公」とか読んでましたよ。マガジンとチャンピオンさんの似てるところって、リアリティの程度だと思ってるんです。ジャンプさんとサンデーさんはマンガの中に超能力が出てもいいというか。マガジンやチャンピオンでは出ちゃだめとは言わないけど、そこに何かしらの理由がないと「なんだよそれ」って言われてしまうような、現実をベースにしたリアリティなんですよね。マガジンとチャンピオンはそういう風土だから、現実を捉えたヒーローの1つとしてヤンキーっていうものがありえたんでしょう。僕が子供の頃、「ヒーローってどういう人なの?」って聞かれるとヤンキーだったんですよ。昔のヤンキーってスポーツもできて女にモテて、バイク走らせてカッコいいみたいな、なんでもできるような存在だったから。
──90年代のマガジンは「疾風伝説 特攻の拓」「カメレオン」「湘南純愛組!」といったヤンキーマンガのヒット作が多く生まれましたね。
栗田 その3本は同時期に連載してたんですけど、それぞれ特徴が違うんですよね。「特攻の拓」は不良同士の抗争にリアリティがありました。ヤンキーの面白さっていうエッジがものすごく立ってるのが「カメレオン」。当時のヤンキーって面白くて、だから女にモテたみたいなところがありましたから。もう1つの「湘南純愛組!」は逆に女の子を意識して、モテるためにカッコよくなきゃいけないってことでファッショナブルな作風にどんどんなっていくという。
武川 3本とも本当に90年代を代表するヤンキーマンガですよ。しかもヤンキーマンガが3つ載ってたらどれか1つは自分好みのヒーローに当たりますよね。
栗田 でも当時のアンケートを調べると、その3つ全部に丸つけてあるのが多いんですよ(笑)。マガジンって昔からジャンルが被ってるマンガを載せるんですよね。野球やサッカーが2本載ってたりとか。
武川 サッカーマンガで言うと「Jドリーム」と「シュート!」は同時期でした。
──普通は「もう『ONE PIECE』があるからジャンプで海賊ものは避けよう」みたいな考えになると思います。でも今の話を聞くと、ヤンキーマンガ好きな人はほかのヤンキーマンガも好きということだから、同じジャンルの作品を載せるのは間違ってないということでしょうか。
栗田 樹林さんが勝手に打ち立てた“3本理論”っていうのがあるんですよ。同じ雑誌の中で3本読んでるものがあるなら、60ページ立ち読みするのはめんどくさいから買うはずっていう。だからあらゆるジャンルを3本ずつ載せろって言われてましたよ(笑)。例えば真島ヒロさんっていう天才ファンタジー作家さんが「RAVE」を始めた1999年には、同じくファンタジー系作品の「GetBackers-奪還屋-」とか「SAMURAI DEEPER KYO」が始まってるんですよね。
武川 確かにそこは「今までのマガジンとはちょっと毛色が違うものが連続して始まったな」という感覚はありました。
「『とにかく抗争を入れろ』っていう指導、どういうことだよ」(武川)
──その後、マガジンからヤンキーものが減った理由は何かあるんでしょうか?
栗田 単純に、現実でヤンキーと呼ばれる人たちがヒーローじゃなくなっちゃったということだと思います。今、ヤンキーをヒーローとして描くのは嘘くさくなるというか。
──さっき「マガジンはヤンキーもののイメージがある」とは言いましたけど、今のマガジンでヤンキーものは「東京卍リベンジャーズ」1本だけですよね。
栗田 そうですね。「東京卍リベンジャーズ」の和久井健先生はそこらへんの、嘘くさくならない描き方みたいなものを気をつけたうえで、カッコよく描こうと思っていらっしゃると思いますね。
武川 とてもカッコいいマンガだと思います。
栗田 「東京卍リベンジャーズ」はヤンキーであることがカッコいいんじゃなくて、男として生き様がカッコいんだっていうふうに描いている気がするので、昔のヤンキーマンガとはちょっと違う気がします。昔はヤンキーがケンカや抗争してるだけでもカッコよかったんですけどね。月刊少年チャンピオンで「クローズ」「WORST」をやってた頃にはもう、ヤンキーものって「ヤンキーだからカッコいい」ではなくて「男としてのカッコよさとは」っていう意識に変わっていってると思いますよ。
武川 抗争っていうのは昔のヤンキーマンガでは重要な要素だったんですけどね。週刊少年チャンピオンの8代目編集長で、秋田書店の現社長の樋口(茂)さんはそういう作品が大好きな編集者だったので、二言目にはとにかく「抗争を入れろ」って言ってたそうです。
一同 (笑)。
武川 「『抗争を入れろ』っていう指導、どういうことだよ」って思うんですけど(笑)。でも確かにヤンキーとか抗争というものにリアリティがなくなっている時代に、「東京卍リベンジャーズ」は男としての生き方、男気を磨いていくようなヤンキーマンガだと思います。
──主人公のタケミチは、最初はケンカが強いわけでもない冴えないフリーターですが、好きな女の子を救うために暴力や権力に立ち向かって成長していき、不良たちからも認められていきます。
武川 ドラケン(龍宮寺堅)とか、主人公のまわりを固めるキャラクターのビジュアルもすごく素敵だし、タイムリープという今風の要素もうまく使って、カッコ悪いことをやりながらカッコいいことを実現していきますよね。
栗田 そうなんですよ、カッコつけてないんですよね。すごく泥臭いことやってるんですけどそれがカッコよく見える。
武川 そんなタケミチに影響されてほかのキャラクターたちの考え方とか未来が変わっていくわけじゃないですか。「人の考え方が変わっていく」というのは物語の醍醐味だと思うんですよ。見開きでKOシーンを描くよりも、人の気持ちが変わる瞬間をどういうふうに描けるかどうかという部分のほうが大切だと思うんですよね。それをしっかりやられているマンガだと思います。
「チャンピオン読者に読んでほしいマガジン作品は……」(栗田)
──武川さんは「東京卍リベンジャーズ」9巻に帯コメントを書いてましたよね(参照:週チャン編集長も激賞、和久井健のタイムリープバトル「東京卍リベンジャーズ」9巻)。編集長が他誌作品に帯コメントを寄せるって珍しいことだと思うんですが、あれはどういう経緯で?
武川 ラジオ番組の「よゐこのオールナイトニッポンPremium」にゲストとして呼ばれて、そこではもちろんチャンピオンの話を中心にさせていただいたんですけど、「違う雑誌のマンガって読んでますか」と聞かれたので、「東京卍リベンジャーズ」の話をさせていただいたんです。それをたまたま和久井先生と担当さんが聴いていたみたいで、編集部に後日「帯をお願いできませんか」と電話がありました。
栗田 「東京卍リベンジャーズ」の担当から、「チャンピオンの編集長にコメントをもらったらどうでしょう?」って言われたときは「おまえはバカなのか」って言いましたよ(笑)。でも「バカのふりして頼んでみろ」って言ったら「受けてくれました」って。
武川 もちろん自分の雑誌のマンガが一番面白いという気持ちは持ってますが、やっぱり面白いものは面白いですし、何より主人公の花垣タケミチを応援したいという気持ちがあったんですよ。
──最初にお話に出た「お互いの雑誌には嫉妬しない」という部分にも繋がりますね。
武川 そうですね、少年マンガ界全体が盛り上がってくれれば。
栗田 僕にチャンピオンさんから「帯書いてくれませんか」って話が来たら受ける自信がないです(笑)。
──では仮の話でいいんですが、栗田さんがチャンピオンのマンガで帯を書くならどの作品ですか?
武川 無茶振りですね(笑)。
栗田 個人的には石黒正数先生が大好きなので「木曜日のフルット」もいいんですけど、帯を書くとしたらさっき話に出た「六道の悪女たち」ですかね。さっきも言ったような、「なぜかかわいい、なぜかカッコいい」とか「かわいく見えてきた、なんでだ?」みたいなことを書けばいいのかな(笑)。
武川 変に誉めてくださるよりも、そういった純粋に思っていらっしゃることを書くのが、一番伝わると思います。でも本当に「六道」は、マガジンさんのラブコメが好きな人にも機会があれば読んでもらいたいですね。どんな反応を示すのか想像がつかないですけど(笑)。
──逆に栗田さん、マガジンの作品でチャンピオン読者に薦めたい作品ってあります?
栗田 面白いと思って載せてるので、基本的には全部薦めたいですよ(笑)。
──もちろんそうだと思いますし、1つ挙げたときにそれ以外の作家さんが見たら気まずいというのもわかるんですが、そこを雑誌同士の親和性などを考えて、あえて1つ挙げるなら……。
栗田 「東京卍リベンジャーズ」を読んでくれてるタイプのチャンピオンさんの読者、という前提だと安田剛士さんの「DAYS」とかになるのかな。この作品もキャラクターがすごくカッコいい考え方をしています。安田さんって人間の描写にむちゃくちゃ気を使ってるし、試合でも意味なくシュートが決まるんじゃなくて、等身大でがんばってその積み重ねとしてちゃんと点が入るんだっていう部分がものすごくうまく描けていて。スポーツ好きじゃない読者にも、毎日ちゃんと生きてるカッコよさみたいなのが伝わるのではないかと。
武川 「DAYS」はサッカーマンガなんですが、競技に寄らず、人に寄っていますよね。11人でサッカーをやっているんだけど、そこで戦っているフィールドプレイヤー1人ひとりにしっかりとしたドラマがあり、一生懸命やってるんだっていうのを丁寧に描いていますね。
栗田 そういう意味だと親和性があるというか、チャンピオンに載っててもおかしくない。あげないですけど(笑)。
武川 (笑)。
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「SNSマンガとは違うギアの重さの作品も必要」(武川)