コミックナタリー Power Push - 鶴ゆみか「もはや私は貴腐人です」
作者・鶴ゆみかとBL研究家・金田淳子がボーイズラブへの愛を叫ぶ
エロは抑えている(鶴)
金田 「貴腐人」では毎回多様なBL妄想が展開されていますけど、鶴さん個人としてはどういうカップリングがお好きなんですか?
鶴 誠実な男と、彼に反発しながらも惹かれるやさぐれ男、みたいなのが好きですね。1巻に収録されているカップリングだと、絵描きとそのモデルが好みです。
金田 「カラオケ女子会に行こう!」に出てくる2人ですね。攻めが受けに「骨格がきれい」って言うんですけど、これはまさにBLの第一歩ですよね。男がほかの男の身体つきに言及するときは、だいたい恋してるんですよ(断言)。
鶴 あはは(笑)。初対面でくびれとか身体の細さとかに言及するBLは多いですよね。
金田 たいていは攻めのほうが「髪サラサラだな」とか「まつげ長いな」とか言うけど、受けが攻めに「こいつガタイがいいな」というパターンもありますね! あとBLでよくあるセリフ代表が「月が見てるよ」(※8)。
鶴 あーー、あります! だいたい月が見てる(笑)。
金田 もうあらゆる同人誌で何万回と描かれてきてますよ。それと攻めが儚げな受けを見て「桜にさらわれそうだ……」(※9)と言うシチュエーション。
鶴 あるある!!
金田 この春は一体何万人の受けが桜にさらわれるんだ!!と毎年ドキドキしています。
鶴 金田さんがお好きなセリフとかシチュエーションはあるんですか?
金田 “路地裏”です。
鶴 それは、受けがチンピラに路地裏で襲われかけるやつですか?
金田 そうそう。でも私自身は完全に襲われてしまうパターンが好きなんです。
鶴 え、“お清め”が好きということですか?
担当編集 なんの話か全くわからなくなってきた(笑)。
金田 受けがチンピラに襲われそうになったり、襲われてしまったりしたところに攻めが現れて受けを助け、「自分はもう汚れてしまった……」と絶望している受けを優しく抱く、という展開は“お清めセックス”と呼ばれています。ギリギリ助けにきてほしい派閥と、チンピラに最後までヤられてから助けにきてほしい派閥がある。私はお清めが好きというよりも、寸止めだと「そんないいタイミングで助けに来れるわけないでしょ!」「むしろここからがお楽しみだろ!」と思っちゃうんですよ。
鶴 そこにリアリティを求めるんですね(笑)。
金田 そうですね。「貴腐人」には路地裏とチンピラの登場予定はありますか?
鶴 うーん、BL妄想は毎回展開していますが、エロは抑えているんですよ。エロまで入れてしまうと、腐女子以外の方はちょっと読みにくくなるんじゃないかなと。
担当編集 「単行本でそういうシーンを足してもいいのでは?」という話はありましたね。
金田 もし可能でしたらぜひ! もちろん路地裏がなくとも、今後の展開を楽しみにしています。
鶴 はい(笑)。バリバリ腐女子だという人にも、「腐女子ってこういう人たちなんだ」というのを今まで知らなかった人にも楽しんでもらえるよう、がんばります!
(※8)月が見てるよ:男同士でいい雰囲気になったときに、彼らの心の葛藤などを表す常套句。[ » 本文に戻る ]
(※9)桜にさらわれそうだ……:今にもどこかに消えてしまいそうな、はかない雰囲気をまとった受けに対して、攻めが漏らしがちな常套句。[ » 本文に戻る ]
この世のすべてを攻めと受けに変えてしまう腐女子4人の妄想コメディ。pixivに投稿した「ラブホ“腐”女子会のススメ。」が3万ブックマーク以上を記録し、ヤングマガジン サード(講談社)にて連載化。1巻には1~8話に加え、描き下ろしの「ラブホ女子会に行こう!(2)」なども収録されている。
鶴ゆみか(ツルユミカ)
日本アニメ・マンガ専門学校卒業。週刊少年マガジン(講談社)に連載された「ブラボー」でデビュー。過去作品に「ヒーローマスク」など。現在ヤングマガジン サード(講談社)にて「もはや私は貴腐人です」を、マイナビニュースで「まじょもじょ-ただいま修行中!?-」を連載中。
金田淳子(カネダジュンコ)
富山県生まれ。やおい・BL・同人誌研究家。ネットニュース番組「真夜中のニャーゴ」の金曜MCを務めている。二村ヒトシ・岡田育との共著「オトコのカラダはキモチいい」(KADOKAWA)では、やおい・BLという2次元側と、SMの女王、M男性などの3次元側との意見交換によって、男性の快楽について深く掘り下げている。