コミックナタリー Power Push - 鶴ゆみか「もはや私は貴腐人です」

作者・鶴ゆみかとBL研究家・金田淳子がボーイズラブへの愛を叫ぶ

BL好きな女性・腐女子の日常やあるあるネタをコミカルに描く「もはや私は貴腐人です」1巻が発売された。ヤングマガジン サード(講談社)にて連載中の同作は、男性読者も多い同誌の中で異色の輝きを放っている。

コミックナタリーでは、「もはや私は貴腐人です」作者の鶴ゆみかと、BL研究家・金田淳子の対談をセッティング。1巻に収録されたエピソード「カラオケ女子会に行こう!」で取材したというパセラリゾーツ秋葉原電気街店にて、BLへの愛を語る腐女子会を開催してもらった。

取材・文 / 平松梨沙 撮影 / 三木美波

私の業と向き合わないといけない(鶴)

金田淳子 本日はよろしくお願いします。「もはや私は貴腐人です」(以下「貴腐人」)、楽しく読みました。私も腐女子歴30年を超える人間なので、今日はBLについてお話できるのを楽しみにしてきました。

鶴ゆみか ありがとうございます! いやー、まさかこんなマンガを出すことになるとは……。

金田 この連載の元になったのは、昨年10月に鶴さんがpixivで公開した「ラブホ腐女子会」レポマンガなんですよね。お知らせツイートが1万5000以上リツイートされるという人気ぶりでした。もともとマンガの題材にしたいと思ってこの腐女子会を行ったんですか?

「もはや私は貴腐人です」1巻より。

 いえ、全く。前の連載が終わってパーッと遊びたいなと思ったときに、友達が「ラブホテルに女子会プランがあるらしいよ」と教えてくれて。最近のラブホってDVDやBlu-rayが快適に見られる環境が整っていて、オタク同士で集まってアニメやライブ映像を鑑賞できるようになっているんですよね。

金田 ああ、私の周りでも、本来の目的ではなく日常的に女子会で使ってる、という方がいました。あとマンガ家さんだと、作中に描くときのための取材として入ってみたいというのもあるか。

 そうですね、あまり機会がないので(笑)。それで「そういえば我々は好きなキャラのコスプレ衣装とかも持ってるし、それを活用して楽しむのはどうだろう?」と盛り上がって、あんなことに。

金田 そして連載になったと。連載では腐女子たちの日常だけでなく、毎話、彼女たちの妄想の内容が劇中BLとして展開されます。椅子と机が突如学園BLを始めたりとか、夏目漱石の「こころ」のKと先生の知られざるラブロマンスが展開されたりとか。このBL妄想パートが、本当にガチですごい。最初、「もしかして、別名でBLマンガも描かれている方なのだろうか!? そんな人を見逃していたなんて!」と思いました。

1巻に収録された「『こゝろ』で貴腐人!」より。

 恐れ多い……。私、今まではずっと少年マンガを中心に描いていて、BLはあくまでいち読者として楽しんでいたんです。

金田 少年マンガが好きだったんですか?

 柴田亜美さんの作品などが大好きでした。そもそもマンガ全般が好きで、「とにかくマンガ家になりたい!」と思ってがむしゃらにやってきたんです。でもpixivに公開したレポマンガが話題になって、「読者が求めているものを頭で考えるのではなく、自分が好きなものや内面をマンガにするのもいいのかもしれない」と思うようになってきた感じですね。1回くらいこういう冒険をしてみようと。

担当編集 僕、鶴さんが当時この連載の打ち合わせをしているときに言ったこと、覚えてますよ。「そろそろ私は、私の業と向き合わないといけない」って。

金田 カッコいい!!

 カッコいいこと言いたかっただけです(笑)。恥ずかしい……。

「貴腐人」は素晴らしい啓蒙マンガ(金田)

金田 連載を始めてみて、読者の方の反応はどうでした?

 どうなんですかね。反響ありますか?

担当編集 もちろんありますよ(笑)。連載誌のヤングマガジン サードは青年マンガ誌なので、新鮮な気持ちで読んでくださっている方が多いみたいですね。「腐女子ってこういう人たちだったんだ」と。

金田淳子

金田 「腐女子」をオタク女子全般を指す言葉だと思っている人や、喪女(※1)のことと思っている人もいまだにいるようですね。腐女子についてだけでなく、本編のBL妄想パートで「受けと攻めとは何なのか」のようなBLの基本も学べる。素晴らしい啓蒙マンガです! 学校の図書館においてもいいくらいだと思いますが、この連載をしていて大変なことはありますか?

 担当さんにBL妄想シーンの原稿を見られるのが嫌です!

金田 あ、担当さん、男性だから? 

 そうです……。原稿を提出するときはテンション上がってるからいいんですけど、後からアドバイスされるのが苦手ですね。「面白いですね」とか「ここはこうしたほうがいい」「キャラがかわいいですね」とか、編集者としての意見を普通にいただけるんですけど……(笑)。

担当編集 僕としても、男だらけの編集部は避けてできるだけ社外で打ち合わせするようにしたり、気を使ってるんですけどね。

金田 初々しいなあ……。

 「あ、今わたし、腐女子だって思われてるんだ」という気分になると、いたたまれなくなりません?(笑) 腐女子だからしかたないんですけど。なんでしょうね、この感じ。

(※1)喪女:モテない女性のこと。[ » 本文に戻る ]

鶴ゆみか「もはや私は貴腐人です(1)」2015年11月6日発売 / 734円 / 講談社 / Amazon.co.jp
鶴ゆみか「もはや私は貴腐人です(1)」

この世のすべてを攻めと受けに変えてしまう腐女子4人の妄想コメディ。pixivに投稿した「ラブホ“腐”女子会のススメ。」が3万ブックマーク以上を記録し、ヤングマガジン サード(講談社)にて連載化。1巻には1~8話に加え、描き下ろしの「ラブホ女子会に行こう!(2)」なども収録されている。

鶴ゆみか(ツルユミカ)

日本アニメ・マンガ専門学校卒業。週刊少年マガジン(講談社)に連載された「ブラボー」でデビュー。過去作品に「ヒーローマスク」など。現在ヤングマガジン サード(講談社)にて「もはや私は貴腐人です」を、マイナビニュースで「まじょもじょ-ただいま修行中!?-」を連載中。

金田淳子(カネダジュンコ)

富山県生まれ。やおい・BL・同人誌研究家。ネットニュース番組「真夜中のニャーゴ」の金曜MCを務めている。二村ヒトシ・岡田育との共著「オトコのカラダはキモチいい」(KADOKAWA)では、やおい・BLという2次元側と、SMの女王、M男性などの3次元側との意見交換によって、男性の快楽について深く掘り下げている。