コミックナタリー Power Push - 渡瀬悠宇
バカが付くほどの真面目さ発覚 熱い冒険ロマン、『凛花』で待望の再始動
完璧なキャラクターが好きではないんです
──ご自身がお好きな映画や小説も、そうした戦うことをモチーフにしたものが多いんでしょうか。
なんのために生きてるのかとか、観てて自分の人生を考えさせられる作品が好きですね。「ロード・オブ・ザ・リング」や「インビクタス」とか。困難を乗り越えて答えを出す過程が描かれているところに惹かれるんですよ。
──そうした「足りない何かを手に入れる」とか「困難を乗り越える」といったタイプの作品が好きなのは、自身の作品づくりにも投影されている?
自分や自分のマンガに関する欠点を、どう変えてどう高めたらいいか……常日頃すごく考えているので、その姿勢は表れていると思います。マンガの世界観には否が応でも作者の態度みたいなものが出てしまうと思うので。私も私なりにこれまで生きてきて、子供のときも悩みがあったけど、そういうのを越えてなんとかやってきた。自分も読者さんに対して「困難を乗り越えて答えを出す」ことの意味を見せたいんですよね、作品を通して。それを伝えたいだけで今マンガを描いてるな、と思います。
──「ふしぎ遊戯 玄武開伝」は敵も含め登場人物たちそれぞれがみんな弱さを抱え自分の居場所を探していて、そこが読者の共感を呼ぶ魅力の1つかなと思ったんですが、そういったところにも渡瀬先生の姿勢が出ているんでしょうか。
もともと完璧なキャラクターが好きではないんです。完璧だと面白くないし、ちょっと欠けてるくらいがいい。人間味を出したいのもありますし、読んでて共感しやすいと思うんですよ。そうでないとなんか美形で、特殊な能力も持ってるキャラなんて「あー、そうですか」で終わっちゃうじゃないですか。遠いところにいるっていうか。
読者に伝えたいセリフは、正面を向いて言わせる
──作品に込めたそういうメッセージを伝えるために、何か工夫してることはありますか?
キャラクターに重要なセリフを言わせるときは、「アラカン」でも「櫻狩り」でもそうだったんですけど、正面を向かせて描きます。読者さんのほうを向いてセリフを言わせるんですよ。
──あえて、そういう構図を。
あえて意識してます。さらに、キャラクターの名前をセリフには入れないようにするんです。「アラカン」だったら、4巻で引きこもってたアラタにお母さんが「お母さんはどんなことになろうと味方だよ!」って声を掛けるシーン。「櫻狩り」だったら蒼磨の「有難う、生まれて来て呉て」とか正崇の「御自分を赦してあげて下さい」っていうセリフとか。
──なるほど、言われてみれば確かにそうですね。
たぶん現実で引きこもって外に出られなくなってる人は、こういうことを言ってほしいんじゃないのかなあって。読んだら安心するだろうな。そしたら出てこれるんじゃないのかなって思って描きました。読者さんが読んでハッとなって壁を越えてくれたら、すごくうれしい。作品を描いて世に出したことで、役に立てたなあと思うんです。
連載を再開する渡瀬悠宇「ふしぎ遊戯 玄武開伝」は、これまでのあらすじが誌面で丁寧に説明されているので初めて読む人でも楽しめる。このほか西炯子「娚の一生」スピンオフシリーズ、 岩本ナオの読み切り「夏の桜」、水城せとな「失恋ショコラティエ」、田村由美「猫mix幻奇譚とらじ」など、見逃せない作品揃いの全22本を掲載。
渡瀬悠宇(わたせゆう)
大阪府出身、3月5日生まれ。1989年少女コミック(小学館)掲載の「パジャマでおじゃま」でデビュー。1998年に「妖しのセレス」で第43回小学館漫画賞受賞。代表作は「ふしぎ遊戯」、「思春期未満お断り」、「櫻狩り」など。現在週刊少年サンデー(小学館)にて、「アラタカンガタリ~革神語~」を連載中。