コミックナタリー Power Push - 「アルキメデスの大戦」
“役に立たないこと”がマンガの価値を高める 三田紀房が描く「ドラゴン桜」と対極の新作
5月6日に単行本1・2巻が同時発売された「アルキメデスの大戦」は、三田紀房が第二次世界大戦時の日本海軍を題材に描く歴史マンガ。海軍主計少佐として戦艦建造計画の不正を暴こうと活躍する、数学の天才・櫂直(かいただし)が主人公だ。さまざまな人間の思惑が交差するストーリーはどのような過程を経て誕生したのか。創作の裏側を聞いた。
取材・文 / 木村早苗 撮影 / 三木美波
「ドラゴン桜」は戦争マンガの代案
──このお話が生まれたきっかけからお教えください。
実は「ドラゴン桜」の前にやるはずだったんです。当時の担当者に戦争マンガを描いてはどうかと提案され、考えたアイデアでした。最初に興味を持ったのが「戦争という国家事業を今の金額に換算したら、国はどれくらいの費用を使ったか」という部分だったので、それなら戦艦大和の建造費用を計算したり、調達方法を考えたりする役人を主人公にしようと。でも、いざ動き出そうというときに、ほかの作品との兼ね合いでスタートが難しいと言われ、中止になってしまったんです。
── そうだったんですね。
新連載のスタート月もページ枠も決まっているからと代案を頼まれ、急遽提案したのが「ドラゴン桜」です。
── 阿部寛さん主演でドラマ化もされて、大ヒット作になりましたね。
なので、しばらくほかの連載に取り組んでいて、戦争マンガのアイデアも記憶から消えていたんです。それが昨年「砂の栄冠」が終わり、次作のアイデアを考えていたときに、国立競技場改修のニュースが出てきた。立替設計案をボツにした後でいくらかかるかわからないという話を聞きながら、ふと「戦艦大和を建造したときもこんな感じだったろうな、そういえば昔そんな話も考えたなあ」と思い出したんです。三島衛里子さんとの対談(参照:ヤングマガジン サード特集、三田紀房×三島衛里子が高校野球&戦争トーク)で話題に出したこともあって、そのアイデアを提案してみたらゴーサインが出て。それで徐々に動き出した感じです。
── 「ドラゴン桜」のスタートは2003年ですから、約12年前に考えていた企画ということですね。マンガは社会情勢や周囲の変化、影響なども受けやすいメディアだと思いますが、2003年の案を扱うにあたり感じたことはありますか。
僕がマンガ家になって28年ですが、初めてマンガって巡り合わせだなと思ったんですよね。人生のその時々に合う作品とやっていくものなんだな、と。今思えば、2003年にやってもきっと失敗したと思います。僕は神様とかはあまり信じないけど、そのときは「ドラゴン桜」をやりなさい、これはもう少し先だよという思し召しがあった気がします。
──では、お話自体も当時のネームをリメイクされたのですか?
いえ、当時の原本が見つからなくて描き直したので、設定はかなり変わっています。当時の内容だと読者にリアリティを感じさせる技術が足りていなかった気もしますしね。
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- 三田紀房 監修:後藤一信「アルキメデスの大戦(1)」 / 2016年5月6日発売 / 講談社
- 610円
- Kindle版 / 540円
- 三田紀房 監修:後藤一信「アルキメデスの大戦(2)」 / 2016年5月6日発売 / 講談社
- 610円
- Kindle版 / 540円
さかのぼること、1933年。前年に満州国樹立を宣言した日本と中国大陸を狙う欧米列強の対立は激化の一途を辿っていた。世界が不穏な空気に包まれていく中、日本の運命を左右することになる重大な会議──新型戦艦建造計画会議──がいま海軍省の会議室で始まろうとしていた。それは次世代の海の戦いを見据える“航空主兵主義”派と日本海軍の伝統を尊重する“大艦巨砲主義”派の権力闘争の始まりでもあった。
三田紀房(ミタノリフサ)
1958年1月4日岩手県北上市生まれ。1988年モーニング(講談社)にて「Eiji's Tailor」でデビュー。1997年に週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で「クロカン」、1999年には別冊ヤングマガジン(講談社)にて「甲子園へ行こう!」の連載を開始する。2作品とも高校野球の知られざる裏ワザを描いて話題となった。2003年、モーニングにて「ドラゴン桜」をスタート。東大入試をテーマに、具体的な勉強法を描いて大ヒット。2005年にドラマ化され、第29回講談社漫画賞および文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞した。またヤングマガジンで2010年から2015年まで連載していた「砂の栄冠」は平成27年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員会推薦作品に選出。2013年よりモーニングにて投資をテーマにした「インベスターZ」を、2015年からはヤングマガジンにて、戦艦大和を題材にした「アルキメデスの大戦」を連載している。