コミックナタリー Power Push - いがらし奈波「わが輩は『男の娘』である!」

女装マンガ家誕生のいきさつをセキララにつづった性春奮闘記

母も大絶賛のひきこもり期

──先にお話を作るとおっしゃいましたが、執筆前に文章で脚本をまとめていたんですか?

「男の娘」を目指し始めたのが2009年で、マンガを描き始めた頃がちょうど女装1周年だったんです。なので自分の過ごした1年ということで、ぜひとも春夏秋冬を過ごす「男の娘」の1年を描きたいと思い、担当と推敲を重ねながら絵にしていった感じですね。

──季節ごとに意識した主題はありますか。

春は彼女との生活模様を描くことで読者に「男の娘」の日常を見せて理解を深めてもらい、夏はデートに行ったりコミケに行ったり「男の娘」としてイベントに臨む様子を描きました。物思い耽る秋は「男の娘」になるまでの過去編を、冬はマンガへの挑戦と、親友ミヤちゃんのイベント「東京化粧男子宣言」について。濃くも楽しげな「男の娘」の1年です(笑)。

──ご自身で一番楽しく描けたのは。

オタク期を描いた1シーン。1コマ見ただけで禍々しいオーラが感じ取れる渾身の出来。

秋の過去編ですね。特に中学生時代にスポットを当てた、ひきこもりオタク期は個人的に最高の出来です。マンガのことには厳しい母も、オタク期の描写は大絶賛でした(笑)。

──有名マンガ家の親とは違う道を目指そうと、小学生でジャニーズJr.に入るも挫折してひきこもり。イケメンだったはずが、家でゲームばかりするオタク街道をまっしぐら。すさまじい人生ですね。

オタク期は延々「ときめきメモリアル」をやっていましたね。1日に3キャラクターを攻略したり、データを消してまたやったり。「ときメモ」ってすごくリアルで、自分のパラメーターが低いうちは女の子が見向きもしてくれないんですよ。勉強や運動を頑張るやつがモテる。現実ではダメな自分が、ゲーム内ではどんどん魅力的になっていくのが快感でしたね。

──病んでる、としか言いようが……。イラストは、その時期の写真などを参考に描いたんですか?

僕が個人的に思い描く、当時の自分のイメージですね。とにかく、本当にモテなかった……。中学ぐらいって顔よりも、サッカー部とかバスケ部のスポーツマンか、クラスで面白いこと言える一芸に秀でたやつがモテるじゃないですか。

──その頃、奈波さんにとって秀でてたものは。

もちろん「ときメモ」の攻略ですよ。モテるわけがない! ちなみに一番攻略にハマったキャラクターは如月未緒さんです。如月さん、その節は大変お世話になりました!

目指すは萌えのシュージン!

──1度は親と別の道を歩まんと考えていた奈波さんにペンを握らせ、マンガ道へと駆り立てた動機はなんでしょう。

三十路手前の未経験者が、絶対にマンガ家になると宣言する大胆不敵な1シーン。

特殊なものを普通に感じてほしい、という思いですかね。変な喩えですが、この世に猫人間がいたとするじゃないですか。その人を見て「うわっ猫人間だ!」と驚くか「ああ、猫人間ね」って思うかは、対象への理解だと思うんです。猫人間がウエイター、ウエイトレスをしてても普通なんだってことを描いたマンガが普及すれば、きっと周囲の反応は全然違うでしょう。

──世間に「男の娘」という存在を浸透させたい?

ひいては女装界全体の底上げ。女装に対する偏見を取り払い、オシャレの一環という認識を持ってもらいたいですね。ボーイッシュとか、マニッシュっていう感覚が理解できるなら、あと一息だと思うんですよ。

──今後は「男の娘」マンガ家、として活動していくのでしょうか。

女装をすることは自分にとって日常なので続けますが、マンガ家としては「男の娘」に限定せずオタク文化を愛するひとりの人間として、いろいろ挑戦していきたい。2次元文化やロリコンに風当たりが強い世の風潮も、どうにかしたいものです。大好きなゲーセン文化も最近下火なので、それも盛り上げていきたいと思っています。

──具体的に、今後描いてみたい作品のテーマなどありますか。

「男の娘」以前から描きたいと思っていた、萌えマンガに挑戦したいですね。目指すは萌えマンガのシュージン(バクマン。)です!

いがらし奈波

いがらし奈波「わが輩は『男の娘』である!」 11月27日発売 / 998円(税込) / 実業之日本社

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作品紹介

「男の娘」とは、女の子のように可愛い2次元の女装少年のこと。本来、3次元には存在しえない生物。この本は、無謀にもそんな次元の壁を越えようと日々努力する、もうすぐ三十路の、今でも「少年ジャ●プ」を愛読している、ひとりの男の物語である。話の主役、いがらし奈波は「キャンディ・キャンディ」の作者・いがらしゆみこの息子。母の遺伝子を引き継いで立派なオタクになった彼は、同棲中の彼女(コスプレイヤー)の留守中に服や化粧品をこっそり借りて、一人で女装を楽しんでいたのだが、やがて彼女に女装趣味がバレてしまい……!!

いがらし奈波(いがらしななみ)

いがらし奈波

女装を愛する「男の娘」として自身の体験を綴ったエッセイマンガ「わが輩は『男の娘』である!』でデビュー。タレント業も行いショー出演、司会、声優としても活躍する。女装コンテスト「東京化粧男子宣言」など、積極的に女装イベントを運営。母は少女マンガ家のいがらしゆみこ。