エディの“いかにもツイてない”日常描写がツボ
──具体的には、どんなシーンがツボにはまりました?
まずはエディの“いかにもツイてない”という日常描写かな(笑)。
──もともとは正義感の強いフリーランスの記者。ところが宇宙開発を進める有力財団の人体実験疑惑を追及したのがきっかけで、仕事も恋人も失ってしまいます。
今回「ヴェノム」には、そうやって主人公が落ちぶれる様子がちゃんと描かれているんですよ。だからシンビオートに寄生されたエディがめちゃくちゃ破壊的な行動を取っても、観客側も「もっとやっちゃえ!」と感情移入できる。例えば、いきなりマニアックだけど、弁護士の恋人にフラれたエディが汚いアパートに戻って、変なビデオ見ながら瞑想するシーンがあったじゃないですか。
──はい。馴染みのデリの中国系のおばさんに勧められて……。
僕、あの気持ち割とわかるんですよ。
──へええ、ちょっと意外ですね。
いや、頭では理解してるんですよ。そんなことやっても、状況が変わるわけじゃないって。でも一度「なんで俺だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」的な思考パターンに入り込むと、つい、何かに頼りたくなっちゃう。なので余計に、本来はジャーナリストのエディが這いつくばってポーズをとってる姿に笑ってしまった。トム・ハーディの演技が、また絶妙にうまくてね。
──終始恨みがましい表情で、なんともいえないヤサグレ感でした。
もう理屈抜きで笑っちゃいますね。トム・ハーディは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」も「ダンケルク」も、わりあい無表情でハードボイルドな印象があったので。実はこんなに表現豊かでコミカルな役者さんなんだって、今回再認識しました。
──冒頭には、ミシェル・ウィリアムズが演じる恋人とのリア充生活が描かれているので、その後の落ちぶれ感がさらに際立ちます。
ギャップが半端ないですもんね。主人公が失恋した後の生活をじっくり描いてくれてるのも、僕的には「ヴェノム」に感情移入できたポイントだったと思う。たぶんシンビオートも、エディという男のそこに惹かれたんじゃないかな(笑)。今、話してるうちにそんな気がしてきた。
負け犬同士が不本意ながら協力してのし上がっていく
バディ・ムービー
──人間界では無敵の強さを誇るヴェノムですが、実はシンビオートの世界ではエディ同様、いろいろ事情があるみたいですからね。
そうそう。もっと言ってしまえば、どん底の負け犬同士が不本意ながら協力し、互いの力を利用してのし上がっていくバディ・ムービーだとも言える。そこがまた大きな魅力になってるんじゃないかと。物語中盤、エディのアパートに特殊部隊が攻めてくるところとか、アクション映画的にも素晴らしかったです。無意識に身体がビヨーンと変形して、気が付けば強力な敵が倒れているという(笑)。
──いきなり発動した能力に、自分自身が戸惑っているという。あれもSFアクションでは王道の、超気持ちいいパターンですね。“一心同体の凸凹コンビ”という意味では、岩明均さんの「寄生獣」における新一&ミギーを思い出す人も多いかもしれません。
確かに設定は似ている。それは僕も感じました。でもヴェノムのほうがずっと無反省というか……いつの間にか互いにジョークを言いあったりしてるでしょ。ああやって冗談を言い合ってくれると、観てる側も安心するんですよね。だからグロテスクな造形なのに、次第にかわいく見えてきたりする(笑)。「寄生獣」の場合、融合することへの葛藤とか痛み、罪の意識みたいなものが根底にあって、それが作品の面白さになっているわけですけど。うがった見方をすると、なぜ主人公のエディだけが、わけのわからない地球外生命体と融合できたのかって問題があるじゃないですか。ほかの被験者たちはみんな、内側から食い殺されてしまったというのに。
──言われてみればそうですね。
普通の人間なら、こんなグロテスクなものが身体に侵入してきたら拒絶反応を示すはずなんですよね。でもエディは適合しちゃう。シンビオートを本気で追い出そうとはしてなくて、むしろ心の奥底ではラッキーと思っていた気配もあるかもしれない(笑)。これは僕の推測ですけどね。そういうところは、結構僕自身にも重なるなと。
──重なるって、どういうことでしょう?
いえね、僕自身、昔から人にはあまり言えないような破壊衝動を抱えて生きてきたので(笑)。まあ、マンガを描くようになってからはそれを作品にぶつけられるようになりましたし。最近はアラフォーに近付いて、人間的にも多少丸くなったと思うんですけど。でも、不遇だった頃の内面は結構すごかったし。さまざまな怒りが創作の原動力になっているというのは、昔も今も、基本的には変わらない。
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10代の頃の鬱屈した気分をちょっと思い出した