コミックナタリー PowerPush - 裏サンデー
マンガ家と編集者が二人三脚で創る 掟破りなWEBマンガ界の理想郷
小学館の新進WEBマンガサイト・裏サンデーが猛威を振るっている。個人サイトで作品を発表していたアマチュア作家を起用し、ビューアを必要としない簡潔な構成や容赦ないランキング掲出で、一躍国内WEBマンガサイトのトップクラスに躍り出た。
その裏サンデーからいよいよ単行本レーベル「裏少年サンデーコミックス」が創刊される。コミックナタリーはこのタイミングで、サイトの立ち上げ時から関わった「モブサイコ100」のONEと「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」の戸塚たくす、そして編集者の石橋和章と小林翔を招集。これまでの経緯を聞く座談会を企画した。
取材・文/唐木元
最初のメールから「話わかってる感」が異常でした
──裏サンデーという、かなりパンクなWEBマンガサイトが小学館から誕生した経緯を伺おうと思いまして、今日は編集さんに加え、最初期から参加されているマンガ家さんおふたりにもおいでいただきました。サイトオープンは2012年4月ですが、準備はいつ頃から始められたのですか。
石橋和章 さかのぼると去年の7月ですね。僕は「神のみぞ知るセカイ」と「マギ」の両方を抱えていて一杯いっぱいだったんですが、人事異動のタイミングで「神のみ」の担当から外れることになった。それでWEBマンガに着手する余裕ができたぞ、と。
小林翔 僕はそのときの人事異動でサンデーに来たんです。もうひとり梅原という編集がいるんですが、この3人で「WEBマンガ面白いよね」って意気投合して、「3人いれば何かできるんじゃない?」という話になった。
──もともとサンデーには「クラブサンデー」というWEBマンガサイトがありますよね。
石橋 ええ。だから最初は「クラブサンデー」のリニューアル案として上司に出したんです。それもかなり劇的な、まず絶対通りそうにない案を。
小林 僕が先陣をきって暴れる役で、「こんな現状じゃ全然ダメだ!もっと良いシステムにできるはずだ!!」って批判しまくるんですよ。それで上司がうんざりした頃に石橋が現れて……。
石橋 ケンカ寸前のところで僕が「待て待て」って止めに入る。で、小林をひとまず追い払ったあとで「あいつの態度も悪いけど、言ってることは一理あります」って懐柔するんです。それを何度か繰り返してたら「もうお前らで勝手にやればいいよ」って言ってくれたので、「じゃあ別サイト立ち上げます!」って。
戸塚たくす 酷い(笑)。策士すぎる。
──そのときにはもう作家さんにコンタクトを取っていたんですか?
石橋 「神のみ」から外れるとわかった日にすぐさま、たくすさんとONEさんにメールを出しました。それ以前からコンタクトしたくてうずうずしてたけど、担当する余力がないのに誘うのは無責任だと思って、我慢してたんです。
たくす 最初のメール、覚えてますよ。去年の春ごろは企業のWEBマンガ勧誘が活発で、僕にも何件かお誘いが来てたんです。それでONEさんとも「どうします?」と相談し合っていたところだったんですけど、サンデーからのメールは他社さんのと違っていて。
ONE だいたい皆さん、既存の「ワンパンマン」の連載化か、他のマンガ家さん作画によるリメイクを提案してくるんです。もしくは連載目指してネーム作って行きましょう、みたいな。ところが石橋さんはいきなり「うちで新作を連載してください」って。
たくす 話わかってる感は異常でしたね。大抵の場合は、すでにアクセスを集めてるタイトルが欲しいだけなんですよ。でも石橋さんは、僕やONEさんという作家が欲しいんだ、という態度をはっきり示してくれた。
石橋 僕自身「ワンパンマン」も「オーシャンまなぶ」も大ファンだったので。ほんとは僕に連載を決める権限なんてないんですけど、「連載取れます」って断言してましたね。それは通せる自信あったんで。
いまどきスマホで読めないとか、わけわかんない
──裏サンデーはその革新的にシンプルなサイト構成でも話題を呼びましたが、そのアイデアはどこから。
小林 作家さんはみんな自分のサイトでアクセスを集めているWEBマンガのエキスパートなんだから、彼らから意見を聞いて学び取ろう、というのでサイト立ち上げ前に何度かミーティングを開きました。
たくす やりましたね。僕ら言いたい放題で。画面遷移をシンプルに、とか、ビューアはいらない、とか色々と。
石橋 これまで出版社がビューアを導入してきたのは、作家さんを保護するため、というのが理由でした。それを作家さんが要らないと言うんだから、いよいよほんとに不要なんですよ。
たくす あとランキング。既存のはちょっとオブラートに包まれた、ふんわりしたランキングでした。でも僕は、多少傷ついたとしても、自分の作品に対する読者の評価が具体的に分かる、ガチのランキングの方が燃えると思っていて。コメントも、批判上等なんで、ダイレクトに書き込めて反応が見れるようにしてください、って。
ONE コメント掲示板と、あとイラスト投稿とかできたらいいのでは、と提案しました。それは住人作りみたいなのが大事だと、サイトを運営してきてわかっていたので。経験上。
たくす あとスマホ! いまどきWEBマンガなのにスマホで読めないとかわけわかんないです。でも正直、ここまで話を聞き入れてくれるとは思ってなかったので、感動しました!
ONE(わん)
自身のサイトでWEBマンガ「ワンパンマン」を公開。となりのヤングジャンプ(集英社)で村田雄介を作画担当に迎えたリメイク版「ワンパンマン」、およびONE自身が執筆する「魔界のオッサン」を連載中。裏サンデーで執筆中の「モブサイコ100」1巻が2012年11月16日に発売された。
戸塚たくす(とつかたくす)
自身が執筆したマンガ「オーシャンまなぶ」をWEBサイトで公開。名古屋大学の大学院(工学)からDeNAに入社した後、マンガ原作者に転向する。裏サンデーでは、阿久井真が作画を担当する「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」の原作を担当。同作の単行本1巻が2012年11月16日に発売された。