コミックナタリー PowerPush - 「紡木たく PICTURE BOOK」
紡木たく7年ぶりの新作は絵本 氣志團・綾小路翔と紐解く紡木作品の魅力
とりあえず紺野くんの真似をした
──具体的にはどのような高校生活でしたか。
とりあえず紺野くんの真似をしてサッカー部に。当時はもう、ストレートタイプのジャージが主流になっていて、紺野くんのような裾がすぼまったジャージを履いてる奴はいなかったけど、どうしても同じ形のものが欲しくて。街中探しまわって同じようなシルエットの陸上用のジャージを見つけたんです。そうしたらヤンキーの部員の1人が「お前それ何だ」って、やけに固執してくるんですよ。
──ひとりだけ陸上用のジャージで目立っているから、生意気だと?
それが、どうも違う。「どこで買ったんだ」とつっかかってくるわけです。「これは陸上用のやつだから、もっと格好いいのを買ったほうがいいよ」ってあしらってたんですけど。そしたら今度は、僕がつけてた紺野くんと同じ14の背番号を「どうしても譲ってほしい」と言ってくるんです。普通は10番を欲しがるものじゃないですか。聞いてみたら同じように「瞬きもせず」を読んで、サッカーをやりに来たっていうから。それはそれで微笑ましくて、背番号を譲ることに。
──意気投合なさったんでしょうか。
いや、気恥ずかしい部分もあって、結局その子とは深い話をできずじまいでしたね。そのあと僕はバイクで停学処分を受けて、部をクビになってしまって(笑)。辞めるときにジャージもそのヤンキーの子にあげちゃいました。その後も彼は背番号14の男として、引退まで頑張っていたみたいです。
──「瞬きもせず」の世界を具現化させてやろうという考えで進学した人間が、まさかもう1人いたとは。
でも僕たちみたいな連中って、当時全国にはいっぱいいたんじゃないかな。出会わなかっただけで、もしかしたらうちの高校にだってもっといたのかもしれない。それくらい思春期の中高生にとって印象的な作品だったから。ちなみに、部活をクビになって即、美容院に輝哉のコピーを持ってパーマをかけに行ったりもしました(笑)。そんな外見の部分でも影響を受けましたが、それよりも何よりも紡木先生の作品って、ほかのマンガ作品とは圧倒的に違う、独特の優しさがあるんですよね。
観測者でなければ「瞬きもせず」は描けない
──優しさというのは。
紡木先生の作品て、読者に考えさせてくれるんです。必ずしも答えが用意されているわけじゃない。「こうすれば世の中うまくいく」なんてことも描いてないし、主人公たちが正しいというわけでもない。「ホットロード」で言うと、和希なんか同級生の男子からしたらめちゃくちゃ嫌な感じじゃないですか。
──ちょっと男子を小馬鹿にしていたり。
14歳くらいなら女子のほうが大人びてて当然だし、ましてや春山みたいな年上の男子たちと付き合ってるわけだから、同級生が子どもに見えるのはわかるけど。でも和希も和希で同級生の男子に「自分をナニ様だと思ってんの」みたいなことを言われてる。どっちが正しいか正しくないかなんて一切描いてないんですよ。ただ、もがいている人間を描写している。
──ありのままに。
そう。「こっちですよ」っていう正確な道標はないけど、ぼんやりとした灯りのようなものはある。だからそれを頼りに一生懸命考えて自分たちで答えを出すしかない。その答えは読み返すたびに変わるかもしれないけど、作品自体はいつの時代でもすぐそばで寄り添ってくれてる気がするんですよ。僕自身もそういう音楽を作りたいと思ってます。おこがましいかもしれないけど、紡木先生と僕は似ている部分があると一方的に感じていて。
──それはどういったところが。
紡木先生は学生時代、何かのド中心にいた人じゃなくて、ほんの一歩、いや、ほんの半歩離れたところから物事を見ていた“観察者”だったんじゃないかと思うんです。「ホットロード」も「瞬きもせず」も完全な渦中にいたら絶対に描けない。悪い奴らとか学園の中心人物を、すぐ傍から見てきたからこそ出来た作品だと思うんです。真っ只中にいないからこそ、観察する立場から「自分だけは必ず覚えておこう」って思うような景色ってあるから。
──さきほどおっしゃっていた、寂れた部室とか、放課後の教室とか。
うん。そういう景色を紡木先生はひとつも忘れていない。僕も決して青春の中心人物であり続けたわけではないし、そこから外れたところでイケてる人たちや部活をやっている人を眺めていた経験があるからわかるんですけど。
──それは意外です。
今も氣志團のメンバーやスタッフといるときは、ずっと見ている側ですよ。僕は壁の落書きとかでも、写真に撮って残しておこうっていうタイプなんですけど、周りにそういう人間がひとりもいない。みんなのことは俺が残しておくけど、俺が死んだら誰が俺のことを語ってくれるんだよっていう悲しさもあります(笑)。
──でもそういう人がグループにはひとりはいないと。
ある種、使命みたいなもので、その時代だったり瞬間を誰かに伝えていきたいっていう意識が強いんです。だから今後もし、紡木先生にインタビューに応じていただけるような機会があれば、ぜひ僕がインタビュアーを務めたいな。もう聞きたいことだらけだから。公開されるインタビュー文以外はすべて墓まで持っていくので是非に!
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紡木たく(ツムギタク)
1964年生まれ、神奈川県横浜市出身。1982年、別冊マーガレット(集英社)に掲載された「待ち人」でマンガ家デビューを果たした。当時弱冠17歳。1986年から別冊マーガレットで連載した「ホットロード」が大ヒット。長らくマンガ家としての活動が見られなかったが、2007年に描き下ろしの新作単行本「マイ ガーデナー」を発表した。そのほかの代表作に「瞬きもせず」など。2014年8月16日には「ホットロード」を原作とした実写映画が公開される。
綾小路翔(アヤノコウジショウ)
孤高の“ヤンクロックバンド”・氣志團の團長。1997年、千葉・木更津にて氣志團を結成したのち、2001年に“メイジャーデビュー”を果たす。自ら企画の大型野外ロックフェス、全国アリーナツアー、ロックバンドとしては最速での東京ドームGIG成功などを経て、NHK紅白歌合戦に2年連続で出場。結成15周年を迎えた2012年に地元・千葉で大規模な野外イベント「氣志團万博2012」を行い大成功を収めた。2014年9月には「氣志團万博2014 ~房総大パニック!超激突!!~ Presented by シミズオクト」を開催する。