コミックナタリー PowerPush - ツール・ド・本屋さん

全国の書店に自転車でお邪魔 今日は地元・調布でPOP描き あだち充も迷惑

経験を積んで「あっちにいい寝場所ありそう」みたいな鼻が利くように

──道中ではこれでもかというくらい様々なトラブルが起こりますが、横山さんとしてはそれを待望しているところがあるんでしょうか。

いやー、実際にトラブルが起きると、つらいものはやっぱりつらいです(笑)。ただどんなにつらいことがあってもネタにできるというのは、救いではありましたね。それと「事故と怪我だけはしない、させない」という約束を編集部と僕とで交わしていましたので、そこだけはしっかりと注意していました。

──なるほど。でもわざわざお墓の脇にテントを張ったりなさっていましたね。あれはTwitterのフォロワーが何か面白いことを期待しているのに応えてしまった感じでは?

墓場を宿泊地に選んだシーン。とても正気とは思えぬ行動だ。

あれは初日の夜だったので、どこにどういう風にテントを建てていいのか本当にわからなかったんですよ。平らで迷惑のかからなそうな場所を探していたら、墓場に行き着いちゃったという。まあネタにもなるしいいか!って。

──平地を求めていたら行き着いたのが墓場だったと。

だいぶ経験を積んだので、いまでは「あっちにいい寝場所ありそう」みたいな鼻が利くようになりました。

エッセイマンガのつもりが、途中から「これって旅マンガだな」

──マンガ家に必要なスキルとは思えませんが(笑)。ちなみにご自身の旅をマンガ化されるにあたって特に意識した点などは?

最初の頃は本当に、毎回手探りで描いてたんですよ。だから四国編に関しては「いま思うとあれも描いておけばよかったなぁ」って部分がたくさんあるんです。それはその地方のことをどんどん描いていきたいなってことで、最近は強く意識しています。

──地方のことというのは、具体的に言うと。

沖縄編では書店員に桜の開花情報を教えてもらい、公園を観光。2月で七分咲きという、沖縄の土地柄が現れたシーンだ。

例えば、いまは島根編を描いてる最中なんですけど、土地の人から地元の神話を聞いたりするんです。そういう地方色ある要素はどんどん取り入れていきたい。あとは出会った書店員さんの描写を増やしたいと思ってます。始まった当初は自分が主役だったんですよ。それがだんだん、旅先で出会った人とのやりとりや、旅をした土地自体にスポットが当たるようになってきて。

──自分の思ったことを綴るエッセイマンガというより、旅マンガという側面が強くなってきたわけですね。

ええ。もともとエッセイマンガは好きでしたし、そのつもりで描き始めたんですけど、途中から「そうか、これって旅マンガなんだよな」って。それに出会った人たちや、その土地の人たちに喜んでもらいたいなという気持ちも強くなってきて。

──といったところで3軒目です。何か出会いがあるといいですね。

「ツール・ド・本屋さん」in 調布市「ブックスとみざわ」

前出の2軒とはまったく異なるタイプの個人経営店。店先にはなんと、野菜までが並ぶ営業努力っぷり。

店の奥には金魚の水槽がずらり。親戚の家に来たような懐かしさに包まれつつ、話し好きなご主人に企画の説明をしたところ、快諾!

本日3枚目のPOPを描き終え、どこか誇らしげにご主人に披露する横山。

「うれしいなぁ、いい場所に飾らなきゃ!」とご主人。「あの店は行った?」「あとあの駅前にも本屋あるよ」と調布界隈にある他店舗の情報まで親身に教えていただいた。

全国の書店さんを自転車で巡り、宣伝用POP描きの旅に挑戦する横山裕二(35)。ゲッサンが誇る“看板”描き作家は、編集部から課される無理難題ミッションをこなしながら今日もどこか書店さんの店頭に!!
さらにどこにでも闖入する横山裕二は、書店さんだけでは飽き足らず……あだち充先生をはじめとする大物マンガ家さんにも突撃……!!!
記念すべき第1巻は「四国編」「東海道編」「沖縄編」を収録!

横山裕二(よこやまゆうじ)

1977年2月8日生まれ。山口県出身。2006年にビッグコミックスピリッツ増刊カジュアル(小学館)にてデビュー。ゲッサン創刊号(小学館)より、読者ページ「ゲッサンしてみる。」内企画としてマンガ家の仕事場を訪問レポートする「仕事場見たいし!」を連載。2011年8月より、自転車で全国書店を回る「ツール・ド・本屋さん」を開始した。