コミックナタリー PowerPush - ツール・ド・本屋さん
全国の書店に自転車でお邪魔 今日は地元・調布でPOP描き あだち充も迷惑
横山裕二が日本全国の書店を自転車で回り、手描きのサイン色紙を設置してゲッサン(小学館)の宣伝を行う雑誌内企画、「ツール・ド・本屋さん」。その模様をまとめた単行本1巻が、2月12日に発売された。
四国、東海道、沖縄などを舞台に、訪問した書店はすでに500店を超える横山。コミックナタリーでは旅で磨かれた飛び込み営業の手腕を披露してもらうべく、横山の地元、東京・調布市の書店で「ツール・ド・本屋さん」を実演してもらった。アポなしで書店に突撃するマンガ家の勇姿を、とくとご覧あれ。
取材・文/パリッコ 編集・撮影/唐木元
コミックナタリーでは旅の体験談を聞くにあたり、彼の地元である東京都調布市の書店をめぐりながらのインタビューを企画した。ガチンコ取材の顛末やいかに。
自転車漕ぎながら延々「あの人バカなんじゃねえの!?」って
──(前後にパニアバックが装着されたビアンキのロードバイクを眺めて)今日はよろしくお願いします。これが四国、東海道、沖縄の旅をともにした、あの自転車ですね。
はい。取材ということで、旅行と同じフル装備で来ました。今回のコミックスに収録されている3編のあと、さらに群馬と島根も回ったんですが、途中トラックの風圧でバッグのステーが歪んでしまって。今日は壊れたままです(笑)。
──このロープで固定されたバッグを目の当たりにすると、生々しいというか、自転車で何百もの書店を回った企画の壮絶さが伝わってきます。
もともと自転車好きだったこともあって、自転車で旅をする実録マンガの企画は、いつかやってみたかったんです。だけどゲッサンの市原編集長がそれを知って、「じゃあ1カ月で四国一周してきて!」と言い出した。真夏の四国ですし、タイムリミットもノルマの店舗数も決められて、ほんと、こんなにつらいことになるとは思わなかったですね。
──では道中、編集長には恨みを抱きながら?
もう自転車漕ぎながら延々、「あの人バカなんじゃねえの!?」って(笑)。
──企画を言い渡されるシーンでは負け惜しみっぽく、「修行」という言葉が好きだとおっしゃっていましたけど、ほんとに修行みたいじゃ堪らないですよね。
修行みたいのは好きなんですよ。「苦行」とか「悟り」とか、そういう世界は昔からなんとなく好きで。だからこそつらい旅を楽しんで乗り切れたという部分もあると思います。
画材だけで10kg以上。ときどき捨てたくなるんです
──しかし基本テント生活で、たまに宿に泊まれると身体を休める暇もなくマンガを描かなきゃいけないというのは、まさに修行みたいです。
ネームはまだしも原稿は、ちゃんと平らな場所が無いと絶対に描けないので。ただ、そういうのも嫌いじゃなかったりするんですよね。文豪が缶詰になって原稿を描くみたいな気分になって。自分の家みたいに誘惑してくるものもないし。
──旅しながら旅のことを描いていくというのは、事前にネームを切るわけにもいかないですよね。
そう、まったくの白紙なんですよ。実際沖縄に移動する船では事件らしい事件が起きなくて、いきなり本編とは関係ない読み切りを描いてしまいました(笑)。特に初期の頃はそういうガチ感をなるべく出していきたいなと考えていましたね。
──ペンやインク、色紙など、画材を持ち運ばなければならないのも、普通のツーリングとはだいぶ違う。
そうなんです。あれで10kg以上あるんじゃないかな。ときどき捨てたくなるんですよ、「紙って重いな……」って(笑)。
──さて、今日はそのガチンコツーリングの様子を垣間見せていただけるということで、まずはあそこに見えている本屋さんから行きましょうか。
全国の書店さんを自転車で巡り、宣伝用POP描きの旅に挑戦する横山裕二(35)。ゲッサンが誇る“看板”描き作家は、編集部から課される無理難題ミッションをこなしながら今日もどこか書店さんの店頭に!!
さらにどこにでも闖入する横山裕二は、書店さんだけでは飽き足らず……あだち充先生をはじめとする大物マンガ家さんにも突撃……!!!
記念すべき第1巻は「四国編」「東海道編」「沖縄編」を収録!
横山裕二(よこやまゆうじ)
1977年2月8日生まれ。山口県出身。2006年にビッグコミックスピリッツ増刊カジュアル(小学館)にてデビュー。ゲッサン創刊号(小学館)より、読者ページ「ゲッサンしてみる。」内企画としてマンガ家の仕事場を訪問レポートする「仕事場見たいし!」を連載。2011年8月より、自転車で全国書店を回る「ツール・ド・本屋さん」を開始した。