「とつくにの少女」×「魔法使いの嫁」|新アニメ制作記念!“人外×少女”を軸に物語を紡ぐ、2人のマンガ家が創作への思い語らう

創作でのこだわりから人外の“推しポイント”まで? お互いへの質問コーナー

──せっかくの対談ですので、ここからはお互いに聞いてみたいことを伺っていければと思います。まずはながべさんからヤマザキさんへ。

ながべ 物語を作るにあたっての工夫、こだわりを教えてほしいです。ヤマザキ先生は西洋の神話や妖精、または伝承などのモチーフをまず活かし、そこにキャラクターが対峙し、経験した人物たちがどう感じたか、のヒューマンドラマを描かれていると「魔法使いの嫁」を拝読した際に一番に感じました。そこで、ファンタジーの大定番である要素をどう物語や人物に落とし込んでいるんだろうなあと気になった次第です。

ヤマザキ ヒューマンドラマ……ヒューマンドラマになれているんですかね!? なっていればうれしいのですが!

ながべ なっていると思います!

ヤマザキ 正直自分でもどのようにファンタジーの“定番”を登場人物たちに当てはめているのか、よくわからない部分が多いです。とにかく物語を考えていると「こうだ」「この人はあれだ」「この展開にはあれが落とし込める」と脳が勝手にパズルのピースをはめることが多いです。逆にそういうのがぱっと出てこないときは本当に作劇が地獄のように難しいです(笑)。普通に神話や伝承の本を読んでいて、あ、この展開はこういった展開で使えるな、とストックしておくことも多いです。恐らくなんですが、自分はファンタジーを「この世ではありえないもの」とは考えていないので、普通に人間と対峙させてしまうがゆえにそのような作り方になってしまっているのかもしれません。季節の変化のような、すぐ傍らにある事象なので。

ながべ では“マンガ”で考えている技術やセオリーってありますか? 例えば、4ページおきに展開を作るとか、コマ数の調整とか、マンガを描くうえで意識しているテクニックなどがあれば知りたいです。

「魔法使いの嫁」第5話より(1巻収録)。

ヤマザキ 好き好きあるかもしれませんが、途中途中で少し笑えるかもしれないところを入れる……でしょうか。真面目な話のときは気が散るからずっと真面目にしててほしい、と意見をいただくこともあるんですけど現状が好きという方もいますし、私も現状で描くのが好きなのでその方向でいっています。あとは本当に基本的なことしか気を付けてないですね。コマは多すぎず少なすぎず、セリフは見づらいからできるだけ3行以内、フキダシ幅は横に広くとか。フキダシは縦長すぎると海外翻訳の時に字が大変なことになってしまうので。

ながべ ああ、なるほど。これはただの興味なのですが、マンガ、イラスト、そして小説も執筆されているヤマザキ先生ですが新たに取り組みたい分野などはありますか?

ヤマザキ その3つに手を出せたのでほぼ満足です(笑)。自分はもともと小説家になりたかったのですが、圧倒的に向いてなかったのでマンガに本腰を入れた口です。向き不向きを考えないのであれば、絵本とか、ゲームやアニメの脚本は面白そうだなと思います。

ながべ では人外が好きという前提でお話ししますが、人外の推しポイントはどこですか? 語れる限り語ってほしいです。

「魔法使いの嫁」イラスト

ヤマザキ 好きになるキャラに人外が多いというだけで、はたして自分が人外を語ってもいいものか……とは思うのですが、個人的にはやはり“異”なところでしょうか。人間と比較して、姿形が違う、考えが違う、言語が違う、生活が違う、文化が違う……だけどこれって人間同士と一緒なんですよね。国や土地が違えば上記の事柄は全部違うので。姿形が違って、人間と並べば“異”なのはわかりやすいので、だから好き、なんですかね? 人間からより離れれば離れるほど、意思疎通が難しいほどウッキウキしてしまいますが、だからといって中身が伴わないとそれはそれで首をかしげちゃうので、人外だから好きだ!とはならない。人外推しではありますが、大前提としてはやっぱり「いいキャラか」「面白い話か」に集約されてしまいますね!

ながべ うんうん。

ヤマザキ 話がそれましたが、強いて言うなら個人的最大の推しポイントというなら、「わかりあえそうでわかりあえない」ところかなと。どこかですれ違っていて、隣にいるけど見えてるものは違うし、それはもうずっと平行線で交わることがない。交わらず、混じらず、修正されない“個”であり続ける、というのが大好きです。それでも一緒にいる人外と、人がね! 好きです! お互いほだされそうでほだされない、永遠に違う生き物であり続けるところがね。結局のところ、自分は「人外」を語るのに「人間」という存在が欠かせないです。だって人間がいるという前提の「人外」ですからね。なので、あんまり人外単体……バックボーンなどが何もわからない状態で興奮するということはそんなにないです。できれば思考・嗜好や言動などをちゃんと知ってから推したいといいますか。と思えば、外見だけで「カ、カッコいい(かわいい)ー!!」となる場合もままあるので、とにかく推せる人外に出会うのはハプニングのようなものというか……。

ながべ そうなんですね。ちなみに人外好き的に猫耳はどう思いますか? ありですか、なしですか? 獣か、亜人か、人外なのか。解釈を教えてください。

ヤマザキ 猫耳がどのようについているか、顔の系統はどうか、猫耳以外にヒト耳もついているか、生活様式はどうか、人間ではなく獣の思考っぽいか……などいろいろ個人的に気になる項目があります。「人類とは猫耳以外で異なる場所があるか?」がメインかもしれません。現人類にただ猫耳だけついているものを人外とするのは個人的にはほぼ「なし」ですが、場合によっては「全然あり」もあるので、けっこうキャラクター次第ですね。

ながべ なるほど。

ヤマザキ 例えば、生活様式が野良猫・ネコ科準拠であれば「獣」、人類とか別で文化的な生活を行っているなら「亜人」、明らかに人類とは一線を画す思考や生活・違う生命っぽいなら「人外」だとか。猫耳、というか獣耳は人によってジャッジが変わりますから、人それぞれに自由で、人それぞれ素晴らしく、苦手なものはそっと離れよう……のスタンスで行こうと私的には思っています。

ながべ お教えいただき、ありがとうございます。最後に、自分は人外が好きすぎてモチーフに率先して描いているのですが、逆に人間の造形の魅力ってどの辺でしょうか? 人間を描いていて面白くないのでぜひ教えてください。

ヤマザキ えっ、自分も人間は苦手ですよ!(笑)

ながべ (笑)。

「魔法使いの嫁」第2話(1巻収録)より。

ヤマザキ 強いて言うなら絵を描くこと全般が苦手なんですが、魅力、魅力………。私は「あっ、うまく描けた!!」がモチベーションになることが多いので、好きなパーツを自分なりのフェチズム全開で描きます。目とか、髪とか、腰のラインとか、表情とか。それぐらいですかね。なのでスランプになると、とことんスランプにはまります……。

──では次はヤマザキさんからながべさんへの質問タイムです。

ヤマザキ ながべさんは作画が大変に早いとお聞きしたのですが、ネームやプロット、下書き、線画など苦手な部分、または得意な部分はあったりしますか?

ながべ まさにネームとプロットが苦手ですね……! 飽き性なのもあり、時間をかけて物を作ることが億劫な性格なのであれやこれや考えているうちに進捗が進まず、結果別のことに意識が行きがちで。演出・物語の進行・思惑、それらを意識し構成するネームは画力だけでは補えない分野なので、たぶん純粋に慣れていないこともあり苦手かな、と………。

ヤマザキ 私もネームには難儀するのでよくわかります。では自分の中で、制作上「これだけは譲れない」というこだわりはありますか?

「とつくにの少女」第4話(1巻収録)より。

ながべ 絵の構図ですかね。僕は空白を意図的に描くのが好きで、その空いた空間にはどういった意味があるのか、人物の立ち位置に感情を加えるのがマンガの“枠”で区切られた世界だからこそできる表現だと思うので、そこをこだわっています。

ヤマザキ ありがとうございます。ではどうしても仕事をする気が湧かない、あるいはそのようなときにする「いつもの行動」などはありますか?

ながべ とりあえず簡単な部分を描きます。例えば「1コマだけ描く」「人物だけ描く」「吹き出しだけ描く」みたいな「あっ、楽勝だな」って思う作業を先にしてしまう。やる気はやってから起きる……というと意味がわからない……けど確かにそうなので、簡単なタスクからこなしてエンジンをかけるようにしますね。

ヤマザキ なるほど。先程の質問の打ち返しになってしまうのですが、私もながべさんの人外推しポイントが知りたいです。

ながべ 語るかあー……。

ヤマザキ (笑)。

「とつくにの少女」イラスト

ながべ まず姿がいいですよね、時に人間骨格だったり、時に4つ足だったりそもそも姿が歪で多種多様。想像を超えるビジュアルが生物であり彫刻のような存在だったり、その不気味さがいいんですよね……。次に常識ですよね。これは異文化コミュニケーションに通ずる部分があると思うのですが、例えば愛玩動物を食料として食べる。愛玩動物側も食べられることが当然に思っている。「カンビュセスの籤」(藤子・F・不二雄)に近いんでしょうか? 一方では常識と思っていることが別の国では異端に思われる。その文化の違いが生むやりとりがたまらなく好きですね。

ヤマザキ うんうん。

ながべ あとは寿命ですよね。長寿でも短命でもいい。同じ時間を生きられないことが生まれた瞬間に確定する無常さがいいですね。そこに今まで存在しえなかった違和感に近い新たな感情を生み出してくれーと。語ればキリがないですが、やっぱり僕は外見や外的特徴に重きを置きますね。動物の特性に近いというか、形には意味があるといいなあ、と思います。

ヤマザキ ながべさんは人間の言葉を操らない人外と人間とのやり取りをお描きになるのが果てしなくうまいな、と思っていて。

ながべ ありがとうございます!

ヤマザキ 人間の言葉を操る人外と操らない人外、自分が描く描かないにかかわらず、好みとしてはどちらがお好きですか?

「とつくにの少女」イラスト

ながべ 僕はどっちもいいなと思います。言葉を扱えばコミュニケーションがひとまずは取れますし、そうでなければどうにか交流しようと試行錯誤する手探り感がまたドラマになりそうで。でも物語としては、言葉を扱わないほうが“異物”感が強く出て、人とそうでないものの差が強く出て描きやすくて、好きだなと思います。

ヤマザキ では動物モチーフの人外として、好きなジャンルはありますか?

ながべ 全部……?

ヤマザキ (笑)。犬、猫、鳥、爬虫類や両生類、海洋哺乳類、昆虫など……動物ではないですが、ロボやアンドロイドなどでもいいのですが。

ながべ 人じゃなければなんでもいいです。

ヤマザキ (笑)。

──ながべさんの人外愛が存分に伝わってきました(笑)。それでは最後に、作品を応援してくれている読者の方にメッセージをお願いします。

ながべ いつもご拝読ありがとうございます。僕の作品はなるべく説明やセリフを排除または省略していまして「ここはどうなっているんだ?」と思われる箇所も多いかと思います。そこをあえて読者に想像の余地を残してありますので意図的な空白をぜひ楽しんでもらえたらと……!

ヤマザキ いつも応援いただき、本当にありがとうございます。くねくねと曲がりくねるストーリーですが、その先にはいつも何かがあるはず。楽しみにしていただければ幸いです。今後ともよろしくお願いします!