戦闘機での空中戦やパイロットたちの青春を描いたスカイアクション映画の最新作「トップガン」、その待望の続編「トップガン マーヴェリック」が、5月27日に公開。究極の“リアル”を求め、コックピット内にIMAXカメラ6台を機内に搭載して撮影された超大作が、度重なった公開延期を乗り越えついに封切られる。ずば抜けた実力を持ちながらも常識破りな性格のために、昇進を拒み現役であり続けるパイロット、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェルは、ある日軍の上層部から呼び出され、「生還可能性が限りなくゼロに近い」という特殊な訓練に挑む若きエースパイロット候補生たちの指導を任される。そのメンバーの中には、亡き親友グースの息子・ルースターの姿があった。いまだ衰えない天才的な飛行技術を誇るマーヴェリックが、新世代トップガンたちとともに過酷なミッションに身を投じる様が描かれる。
コミックナタリーでは、「映像研には手を出すな!」で知られ、飛行機などのメカ描写に造詣が深い大童澄瞳にインタビューを実施。36年の時を越えてスクリーンに戻ってきた、映画史上ベスト・オブ・ザ・ベストの名パイロット・マーヴェリックと、教え子たちの物語を大童はどう観たのか? またメカ・飛行機好きの視点で、トムを筆頭に「トップガン マーヴェリック」制作スタッフたちが“本物”であることにこだわり抜いた空中戦描写の魅力を存分に語ってもらった。
取材・文 / 佐藤希撮影 / 清水純一
前作「トップガン」は戦闘機を描いた作品としてあまりに有名
──先ほど「トップガン マーヴェリック」をご覧いただいたばかりなので、新鮮なご感想を伺いたいと思います。率直ですが、ご覧になっていかがでしたか?
いやー……すごかったです……! F/A18スーパーホーネットにIMAXカメラを積んで撮影しているということと、俳優に直接カメラや照明をコントロールする方法をレクチャーしているということは前情報として知っていたので、そこに注目して観るとより面白かったです!
──今回お声がけする前から、「トップガン マーヴェリック」に期待されていたんでしょうか?
実のところ、あまり熱心には追っていませんでした。前作の「トップガン」は昔観たことがあるんですが、もともと僕にとっては「Danger Zone」(テーマ曲)の映画ね、という印象でしたし、戦闘機やパイロットを描いた作品としてあまりにも有名だったので。
──「トップガン」は大童先生が生まれる前の1986年に公開されました。どういうタイミングで前作と出会われたのか、気になります。
10歳ぐらいのときに、テレビで放送されていたのを観たんだと思います。「Danger Zone」が流れていて、当時は「やんちゃな人が主人公でバイクに乗ってるんだ」くらいの印象でした。僕あんまり詳しくないんですが、今作でもマーヴェリックがカワサキのバイクに乗っていて、しかも今一番新しいNinja H2でしたよね。ものすごい排気量のバイクだと思います。
──バイクにもご注目いただいたんですね。
前作についてはバイクと、戦闘機がカッコよかったなと思ったぐらい。当時はストーリーの大まかなところは一切覚えていなかったんですよ。でもちょうどその頃飛行機に興味を持ち始めて、前作のメイン戦闘機だったF14のプラモデルを1つ持っていました。今回のインタビューのために前作を見直すまで、「トップガン」チームが戦闘機や空中戦を描くことへの真摯さは、知らずにきたんです。
「自分でやる!」というトム・クルーズの姿勢に共感
──先ほど、俳優たちのトレーニングのお話が出ましたが、主演のトム・クルーズ自ら、水没した機体から脱出する方法や、飛行中のGに慣れる方法など、共演者たちのトレーニングプランを考案したそうです。
そうみたいですね。その点については、僕が言うのもおこがましいんですが、共感できます。映画部だった高校生から19歳ぐらいにかけて実写映画を撮っていて、自分の撮りたい映画を作ってもらうとか、他人に演じてもらうことにすごく力を入れていたので、自分以外の人たちをどう動かしていくかっていうことを考えていたんです。役者も高校生なので、本当は演技をしたくて映画部に入ってくれたわけじゃなくて、アニメ作ってみたいとか別に理由があったりしたんですが。最初のモチベーションが別のところにある人を、いい作品を作って、その人が本来イメージしていなかったような成長をさせるためにサポートする姿勢に共感します。
──プロデューサーのような視点ですね。
もちろん俳優さんたちはプロとしてやっているので、撮影に向かう執念みたいなものは持ち合わせていると思います。訓練プログラムのような普通に経験できないことをさせて映画をよりよいものにさせる、というプロデューサーとしてのトム・クルーズの姿がカッコいいなと思います。
──語弊があるかもしれませんが、いち俳優の立場としてはそこまで提案する必要も本来ないですよね。ですがトム・クルーズは「ミッション:インポッシブル」をはじめ、自分が関わる作品では製作者としての役割も担って、全力で取り組んできました。長年、世界のエンターテインメントシーンを引っ張ってきた彼に、大童先生はどういう印象をお持ちでしょうか?
「自分でやる!」っていう気概とリーダーシップを感じています。過去の映画でも、イギリスの大型輸送機の側面にへばりつくようなアクションシーンを見せていましたけど、そういうところで本人がやってるから周りが付いてくる、っていう影響は確実にあると思っていて。
──主演が自ら動く姿で、共演者やスタッフにいい影響を与えていくということですね。
そうですね。撮影のために行われた訓練プログラムも実際に軍隊で行われているような、プロ仕様のもの。映画の内容に大きく影響するものか、と言われればもしかするとそうでもないかもしれませんが、訓練のおかげで軍人としての心構えや、本編の中で繰り返されていた「生きて帰る」という執念が、役者たちの表情に表れているのではと感じました。
マーヴェリックは依然として“バケモノ”
──トム・クルーズ演じるマーヴェリックは、天才的な操舵技術に加えて戦闘センスにも優れている人物です。前作はやんちゃなプレイヤーとしての側面が目立っていたんですが、今回は生徒たちを導く教官として、トップガンに復帰しました。
前作から何十年も経っているという設定ですが、依然としてマーヴェリックが“バケモノ”であることを貫いているところがすごいですよね。本当の空戦を知っている老兵のような描かれ方がセオリーとしてあるかなと思っていたんですが、そうじゃない。訓練中も教え子たちを力でねじ伏せるような飛び方に気迫がありました。あとは、単純に大人になってるなと感じました。
──具体的にはどういうところでマーヴェリックの変化を感じたんでしょうか?
グースの息子・ルースターとのやり取りですね。彼とマーヴェリックの関係って、構造としてはすごく面白くて。マーヴェリック自身、前作で描かれた通り父親を亡くしていて、父の死に縛られていざというところで体が動かないみたいなシーンもありましたよね。公にはできない父親の死の真相を知ったことで、マーヴェリックは力を取り戻すんですが。ルースターも父であるグースを失っているので、マーヴェリックに近い部分もある。
──そう考えると、ルースターは前作のマーヴェリックに通じる部分がいくつかありますね。
はい。マーヴェリックは父親の死を過去に経験しているからか、家庭を築くことがままならない人物のような描き方をされているんですが、そんな彼が今作では“父親”にならざるを得なくなるんですよね。ルースターや、教え子たちを導く父親になれるのかと葛藤を抱えるマーヴェリックの成長を描いているという点でも、前作と続けて観ると、また価値のあるものになるんじゃないかなと思います。
──なるほど。ちなみに、ルースターのキャラクターについてはどういう印象を持たれましたか? 考えが先に立ってしまって、なかなか行動ができない、という性格が強調された人物でしたが。
幼さがあるというか、どうしても2番手になってしまっていると感じました。確かに腕はあるけど、彼自身の抱えている闇が、自分自身のポジションを作ってしまっているというか。高圧的でグイグイ行く人間をどうしても突破できない。そういう面はすごく人間的ですし、おそらく観客が一番親身になれるキャラクターではないのかなと思います。もしかしたら観客が、ではなくて僕が、なのかもしれないですけど(笑)。
──(笑)。ルースターは「セッション」などで知られるマイルズ・テラーが演じていますが、特徴的な口ひげも含めてアンソニー・エドワーズ扮するグースにそっくりだなと感じました。
似てますよね! 近付けようと思うと普通はヒゲを生やすくらいしかできないと思うんですけど、輪郭もそっくりで。役者のチョイスが素晴らしいと思いました。
──ちなみに、前作のマーヴェリックを彷彿とさせるような自信家のハングマン(グレン・パウエル)や、凛とした女性パイロット・フェニックス(モニカ・バルバロ)などトップガンメンバーでも個性的な人物が多数登場しますが、お気に入りは?
フェニックスがすごく勇ましくてカッコよかったですね。実際のトップガンって、最初の頃は女性の戦闘機パイロット自体が禁止されていたそうなんです。93年頃にそれが撤廃されて、女性パイロットが出てきたと知ったんですけど、その事情が物語に幅を作っていました。ちょっと気弱なボブと思いがけずコンビを組むことになるんですが、彼女がチームを率いる能力も素晴らしいし、ボブもいいキャラクターなので素敵なコンビですよね。
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アニメでしか観たことがなかった描写が実写で観られた