ハイファンタジーってどうなんだろうという迷いがあった
──では改めて「とんがり帽子のアトリエ」についてお話を伺えればと思います。まずは描き始めたきっかけ、経緯について教えてください。
昔から構想はあったんですが、友達と絵を描いていたときに、本人は普通に描いているつもりでも、知らない人から見たら絵を描くのって魔法みたいだよねっていう話になって。「絵描き=魔法使い」じゃないですけど、魔法使いを仕事として描いたら面白いんじゃないかなって。担当さんにその構想を話したらすぐに「やりましょう」と言ってもらえて、短編とかで試さなくていいんですかと(笑)。私としてはまだちょっと自信がなくて、まだ早いかなと思ってたんですけど……。
──ご自身の中では迷いがあったんですね。
ファンタジーはもともと好きで、描いてみたいっていう気持ちはあったんです。その時期、ファンタジーの注目度が高くてヒット作もたくさん出ていたんですが、どちらかというと転生ものだったり現代の地球が舞台だったりするローファンタジーが多かったので、ハイファンタジーってどうなんだろうっていう迷いがあったんですよ。でも思った以上に受け入れてくれる人が多かったのがうれしかったです。
──ここまで人気になると予想していましたか?
いや、全然思ってませんでした。やっぱり読んでくれる人が多いと作品としてもできることが増えるので、ありがたいです。ちょっと先を見据えて伏線を貼ったり、長いスパンで物語を展開させたりできるので、より面白いものが作れるんじゃないかなと思います。
──イラストレーターとして活動されていたかと思うのですが、なぜマンガ家に転身しようと思ったのでしょうか。
マンガに拘っていたわけではなくて、小説でも映画でもよかったんですけど、絵1枚じゃたりない、みたいなところがあって。物語を作りたいと思ったときに、自分のスキルで始められるのがマンガだったのかなと思います。マンガ家の知り合いがいたのも大きかったと思います。よく「アメコミで仕事ってどうやってやるの?」って聞かれるんですけど、なんてことはなくて、持ち込みに行っただけなんです。
──白浜さんはアメコミのヴァリアントカバーもよく手がけられていますが、持ち込みがきっかけなんですね。
それも身近に経験者がいたから、「やってみよう」と思えたんです。
【お知らせ】シカゴで開催中のスター・ウォーズセレブレーションで、担当させていただいたARTFXアーティストシリーズのコンセプトアートが発表されました。『レイ-光の継承』『カイロ・レン-影を纏う- 』です。詳細はコトブキヤさんをチェックしてね!トレーラーも公開されてて心臓バクバクです…! pic.twitter.com/PuBnGH2l2i
— とんがり帽子のアトリエ5巻5/23発売・白浜鴎 (@shirahamakamome) 2019年4月13日
──とはいえ、実力がないと成立しないことですもんね。
もちろんそのときのための訓練を普段から積んでおくのは大事ですね。普段からやっていることじゃないと本番でもできないなと思うので、ラクガキとかもペン入れまでするようにしてます。
海外は思いついたことを全部やる、チャレンジ精神がすごい
──もともとファンタジーがお好きということですけど、どんな作品がお好きだったんですか?
私が中高生ぐらいの頃に「ロード・オブ・ザ・リング」と「ハリーポッター」が全盛期で、大好きでした。マンガだと少女マンガのファンタジーが好きで、紫堂恭子先生、山岸凉子先生、萩尾望都先生、中山星香先生とか、よく読んでましたね。絵がすごくきれいだったのと、お話もちょっと幻想的で。魔物と戦うみたいなゲームっぽいものよりは、文学っぽい感じがして好きでした。
──絵柄では特に影響受けた作家さんはいますか。
山田章博先生や清水玲子先生の真似をしてましたね。浦沢直樹先生、大友克洋先生も好きだし、やっぱり描き込みの多い作家さんが好きで。もちろん萩尾望都先生や山岸凉子先生からも影響を受けてます。
──先程の持ち込みのお話にもありましたが、マーベルコミックなどのお仕事もされていますよね。やはりアメコミの影響は大きいですか。
そうですね。アメコミは1枚の絵としてどう美しいか、みたいなアートっぽいところがあって、そこがすごく好きです。画面も映画のような構図が多くてカッコいいですし、思いついたことを全部やるみたいな、チャレンジ精神がすごくて。日本のマンガって視線誘導とか動線とか、技法が確立されていて良いところもあれば、それが崩しにくくて一種の縛りに感じてしまうこともあるんです。でも本来マンガって自由なんです。アメリカのマンガや、バンド・デシネを読むとそれを思い出させてくれる。取り入れたいと思ったところはよく真似してます。
──真似してよかったことはありますか?
たくさんあります。コマ枠の周りに装飾を配置するのは、バンド・デシネを参考にしました。回想シーンとかでガッツリとタッチを変えたり、そもそも塗りとか画材が変わったりもする。コマの中でアニメーションみたいに連続して動くのも多く見られる技法です。すごろくみたいに描かれたマンガもありますよ。ページがまるごとすごろくになっていて、その通りに読んでいくとお話が進むっていう。
──本当に自由ですね。
すごろくもいつかやってみたいですし、紙をめくったら後ろから何か出てくるみたいなのもいいですよね。子供の頃、アドベンチャーブックがすごい好きだったので、右の道を行く人は62ページへ、みたいなのとかもやってみたいです。2倍描かなきゃいけないけど(笑)。
物語を運ぶだけじゃない、鑑賞できるコマ割りに憧れる
──絵自体の美しさはもちろん、構成やコマ割りにもこだわりを感じます。
決めゴマじゃなくても、スクリーンショットを撮って壁紙にしたいと思えるかどうかは意識してます。大友(克洋)先生の「AKIRA」が、渋谷で壁に飾られていたじゃないですか(参照:「AKIRA」渋谷PARCOのアートウォール企画が最終章に、過去最大サイズで登場)。マンガの一部ですけどアートとしても成立していて。単純に物語を運ぶだけじゃなくて、鑑賞できるコマ割りにはすごく憧れます。
──そう言えば「とんがり帽子」でも連載開始当初、絵がつながっているコマ割りが話題になりましたよね。
アニメーションだと上から下へパンするカメラ割りってよくあるので、あんなにたくさんの方に見てもらえるなんてびっくりでした。
──ギミックがありつつも、普通に読めるところが素晴らしいなと。
無理に変わったことをやらなきゃとは思っていなくて。入れられそうだったら入れようかなという程度で考えています。逆にちゃんとストーリーを読んでほしいときは、逆にスタンダードなコマ割りになってると思います。
──マンガとして読みにくくなってしまっては逆効果ですからね。
やりすぎるとくどいんですよ。もともと描き込みが多いので、好きな方でもストレスがかかるというか、見ていて楽しいけど疲れるということもあると思います。変わったことをやりたいなと思ったらそれ以外の部分は読みやすく、という意識で描いてます。
カードゲームを作るのは超大変!
──単行本5巻も本日発売されました。画集もそうですが、装丁もすごく凝っています。
そうですね。私は「これはこうしてほしい」っていうポイントがいっぱいあるので、密に連絡が取れる方がいいなと思って、マンガの装丁の経験はない方だったんですけど知り合いのデザイナーさんにお願いしました。その方だからこそこだわれるっていうのがあります。
──デザイナーさんとはどんなやり取りをされるんですか?
最初にどんなデザインにしたいか相談して、それに当てはめて素材を描くことが多いです。デザイナーさんから「こんな絵素材が欲しい」という依頼が来て、それに合わせて描く。今回の画集で言うと、表紙にあるフラッグも模様も狼も全部描きました。けっこう大変です(笑)。
──5巻では、さらに特装版にカードゲームが付属するということで。これも全部イラストを描き下ろされたとか。
もう大変でした! こんなに描くことになるとは(笑)。担当さんがカードゲーム好きな人なので、デザインも凝りに凝ったものになりました。カードの裏面で断ち切りを工夫してデザインしないと表面がわかっちゃうとか、プレイする人ならではの目線でかなり指摘してもらって(笑)。
──かなり本格的なカードゲームですもんね。
「ラブレター」っていうカードゲームを元にしているんですが、ゲームを作るのもすごく大変だったと思います。カード1枚変えただけでゲームバランスが崩れてしまうので。でも私もプレイするのを楽しみにしてます。作家仲間と前に「ラブレター」で遊んだんですけど、その時もすごく盛り上がったので、「とんがり」バージョンでも早く遊びたいです。
──カードデザインもかわいいので、持っているだけでもうれしいアイテムだなと思います。
コレクションしてもいいし飾ってもいいし、自由に楽しんでいただけたらうれしいです。