「とんがり帽子のアトリエ」|前代未聞の“超豪華本”を大解剖 白浜鴎の魔法のような作画動画もお届け

魔法使いに憧れる普通の女の子・ココを軸に、少女たちの成長を描く王道ファンタジー「とんがり帽子のアトリエ」。本作のカラーイラストや原画を原寸サイズで収録した、前代未聞の“超豪華本”が制作された。

コミックナタリーでは原画集と最新5巻の発売を記念し、制作裏話や作品の成り立ちなどに迫る原作者・白浜鴎のインタビューを実施。さらに白浜の作画風景に密着し、連載中のモーニング・ツー(講談社)の表紙イラストの下描きからペン入れまでの過程を捉えた作画動画もお届けする。

取材・文 / 増田桃子 撮影 / 佐藤類

1点1点を手作りで製本!「とんがり帽子のアトリエ」前代未聞の“超豪華本”を大解剖

「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”
1.表紙
キャラクターはもちろん、背景の装飾にも白浜の描き下ろしイラストを使用。B4サイズのハードカバーで、特殊な印刷を用い金色まで美しく再現された。
2.カラーイラスト
単行本のカバーイラストやモーニング・ツーの表紙など、カラーイラスト8点を収録。透明のフィルムに人物、紙に背景のみを印刷することでキャラクターの裏に描かれた背景まで堪能できる。
3.複製原画
超高精細な原寸サイズのモノクロ複製原画を約40点収録。それぞれの原稿には、白浜による手書きの解説が用意された。トレーシングペーパーを使用することで、解説を楽しみながら原画の美しさを味わえる。
4.ラフ・ネーム&キャラクター設定集
主人公・ココの母親のモデルとなるキャラクターが登場する、連載前に執筆したネームや、作品の構想などが描かれたラフスケッチを多数掲載。「とんがり帽子のアトリエ」の世界がどのように誕生したのか、そして本作に対するこだわりを刮目して見よ。

注文はこちらから!

白浜鴎インタビュー

「未だかつてない本を作ったな」と言われた

──「とんがり帽子のアトリエ」の“超豪華本”が発売されるということで、現物を拝見したのですが……こんな豪華な画集は、なかなか見たことがないです。

担当編集さんが、販売部の人から「未だかつてない本を作ったな」と言われたそうです(笑)。

「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。

──このような画集を作ろうと思ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。

画集については、読者さんや書店員さんから「出してほしい」という声をいただいていました。ただ「とんがり」はまだ4巻までしか出てないですし、カラーイラストもそれほど点数がない。じゃあ、作るとしたらどういうものなら読者のかたに喜んでもらえるだろうかと、担当編集さんと相談したんです。それなら、作るとしたらマンガ原稿メインですねと。そのときマンガの複製原画を原寸で見られたら楽しいんじゃないか、という話になったんです。原画サイズの画集って海外ではときどきあって、私も何冊か持っているんですが、それができたらいいなと。

──キャラクターを透明のフィルムに、背景を紙に印刷して、重ねると完成原稿になるというアイデアもすごいです。

背景を別でちゃんと描いているのにほとんど人物に隠れてしまうので、以前から「いつか載せたいね」という話はしていて。今回それを見てもらえるチャンスなんじゃないかと思い担当さんに相談してみたら「フィルムに刷るのはどうですか」と提案していただいて。こういう形で実現したのはすごくありがたいです。

ア「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。

──なぜ人物と背景を別々に描かれるんでしょうか。

デザイナーさんがそのほうが楽というか、後からレイアウトを変えられてデザインしやすいだろうなと思って。一枚絵だと、こっちを動かすと背景の山が隠れてしまう、こっちを動かすとタイトルが見せにくい、みたいなことがあるので。

──なるほど。デザインのことまで考えられてるんですね。

イラストレーターをやっていたからだと思います。あとは、後々もしグッズを出していただけることがあったら、使いやすいように描いておいたり(笑)。

──流用できるようにと。背景までしっかり描きたいっていう気持ちもあるんでしょうか。

「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。

それもあるのですが……描かなきゃよかったって思うこともあります(笑)。キャラクター描いただけじゃ終わらなくて、まだ背景がある、裏表紙もある……って。描き始めたときは楽しいんですけど。

複製原画には全部手書きでコメントを

──カラーの次は複製原画ですが、トレーシングペーパーに手書きの解説付きという。

どんなふうに原稿を作っているのか、作り方が見えたほうが面白いなという話になって。「読み応えのある複製原画集」にできるのではと思ったんです。そうしたら、担当さんが前に美術展のカタログでトレペを使ったものを見たことがあったそうで、トレペで解説を書くという形になりました。

ア「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。

──すごく面白い見せ方だなと思います。

全部手書きでめちゃめちゃ大変でした。漢字の間違いを指摘されて後から修正したり……(笑)。だいたいは本編で説明できていない部分の解説を入れてます。設定を考えるのはすごく好きなので決まっているけど、作中には出てこないってことがけっこうあって。例えばココが暮らしていた麓の村では、山から降りてきた旅人が防寒具を売り、軽装を買って街へ下りて行くんですが、売られた防寒具を直して次に山を越える旅人に売って生計を立てている設定だったり。描けなくてもどかしいんですけど、物語の本筋とは関係ないので削っています。描きすぎると物語が読みにくくなってしまうので。

──そういった裏設定が楽しめるわけですね。画材や技法に関する説明も多いです。

そうですね、画材や技法について聞かれることが多かったので、お答えできればと思って書きました。普通のつけペンのほかにも、マッキーとか白インクのボールペンとかもよく使います。面白い絵が描けるように画材を選ぶのですが、マンガは効率も大事なので、速くて楽なことを取り入れてます。

──読者の疑問に答える形にもなってると。

はい。あとは友人にヒアリングして気になることを質問してもらったり。自分では当たり前だと思ってることを、疑問に思ってくれてたりするんですよ。全然重要じゃないことも書いてありますけどね。「よごれ」とか「端の線がキレイに引けるとテンションあがる」とか「トーンの貼り忘れ」とか(笑)。ボツにしたセリフがそのまま残っているコマもありますね。

──そういったのを見るのもまた楽しいです。

原稿を見ないとわからないことってけっこうありますから

原稿は、かなり原本に近い形で印刷してもらいました。どんな原稿用紙を使っているのかなども、わかると思います。

──原稿用紙のメーカーがページによって違いますね。これはデリータの135kg。

いろいろ試してみたんですけど、これが一番描きやすいですね。「とんがり帽子のアトリエ」はアナログでしっかり塗るので、少し厚めの紙がいいんです。

──画集の紙自体も、原稿用紙っぽいですね。

担当さんから「ほぼ同じ紙を選びました」と聞いて……もう、なんか怖いです(笑)。

──こだわりがすごい……。複製原画としても、かなり精密に印刷されていますよね。

そうですね。下描きの消し忘れとかもめっちゃ残ってますし、修正液でインクが滲み出てるところも描き損じも……全部出てますね(笑)。ちょっと恥ずかしい。

──通常の印刷では白く飛んでしまう部分ですもんね。

はい、マンガの原稿はそこまで印刷されないことを前提で描いているので……。原稿を見ないとわからないことってけっこうありますから。

──あと、これはびっくりしたんですが、3枚の原稿が横一列につながっているページ。扉とその後の見開きページが1枚の絵になっているんですね。

「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。
「とんがり帽子のアトリエ」4巻より。

これは単純に描いているときにやってみたくなって、でも単行本だとその形では収録できないので、今回お見せできてよかったです。「とんがり帽子のアトリエ」には、他にも少しずつ「遊び」を入れているので、「ここってもしかして?」みたいなのを探していただけると、新しい発見があるかもしれません。

──145ページのトレペには、原稿が印刷されてます。

「とんがり帽子のアトリエ」3巻より。

これはボツコマですね。雑誌や単行本には収録されてないコマです。ネームと原稿ではこっち(複製原画)だったんですけど、実際にはトレペに刷られたほうのコマが載ってます。画集にはここだけ載せましたけど、ちょいちょいありますよ。単行本収録時に変えたコマとかもありますし。

──マンガを描き始める人が読んだら、かなり勉強になりそうです。

少しでも参考になればと思って、いろいろとコメントを書きました。読者さんは普通にコレクションとして楽しんでもらってもいいですし、絵を描く人には技法的な面で楽しんでいただいてもありがたいなと思います。私自身そういう本が好きなので、自分が欲しいものを作ったみたいなところはありますね。世の中のすべてのマンガでこういう本を作ってほしいくらいです。ほかのマンガ家さんの描き方とか超知りたいです。

──個性が出そうですよね。全然考えてないって人もいるかもしれないですし。

逆にびっしり書かれる人もいそうですし。ぜひ第2弾、第3弾と続いてくれたらいいなと思います。

キャラクターは、まず欠点から考える

──最後はネームやラフ、キャラクター設定などのページです。

「とんがり帽子のアトリエ」“超豪華本”より。

このココのお母さんのもとになったキャラクターが出てくるネームはマンガ家デビュー前に描いていたもので、ペン入れする予定もなかったので、ネームというよりもラクガキって感じですね。

──キャラクターデザインも今とはだいぶ違いますね。

5、6年前なので、ここからはだいぶ変わりましたね。ココも髪の毛が長かったり、初期のキャラクター設定ではメインキャラに男の子もいました。

──実際に描いてみて、今の形に落ち着いた感じですか。

話を組み立てていくうちに固まってきましたね。最終的にはネームを描いてから決まります。やっぱりストーリーによって出てくるキャラクターも変わってきますから。このお話だからこの子たちですけど、違う話だったら全然別のキャラクターになっていたと思います。

──キャラクターはどうやって考えるのでしょうか。

まず欠点から考えますね。その子の駄目なところを作って、でもこんないいところもあるよっていう要素をどんどん足していくんです。そうすると自分の中でも思い入れができるというか。キャラクターが悪口を言われたら庇いたくなるような友人になっていくので。そのあとは友達のエピソードを人に話すみたいな感じで考えますね。

──モデルがいることもありますか?

「とんがり帽子のアトリエ」1巻より。

けっこうありますよ。キーフリーやオルーギオは、学生時代の先生がモデルです。何人かミックスされてたりしますけど。美大の先生は濃い人が多くて、面白い先生がいっぱいいるので……(笑)。

──衣装の設定もとても細かいところまで決まっているんですね。どこまで考えているものなのでしょう。

ココの衣装の設計図みたいなのは、フィギュアを作ってもらうときに必要で描いたものなんです。一応インナーとかは考えてましたけど、ローブは後付けかな(笑)。以前、フランスの方にコスプレの衣装を作っていただいて着させてもらったんですけど重かったので、実用的というよりはシルエットありきのデザインですね(笑)。マントが帽子のラインの延長になるような、全身が「とんがり帽子」の形のラインになるようなイメージでデザインしました。

──では、5月23日から画集の2次受付がスタートするということで、これから注文される読者さんに一言お願いします。

詰め込めるものを全部詰め込んだので、楽しんでもらえたらいいなと思います。けっこう恥ずかしいところもあるんですけど、正直に誤字もミスも残しました(笑)。じっくり見ていただいて、買って損はないと思っていただけたらうれしいですね。