アニメの劇伴にスポットを当てた音楽フェス「東京伴祭」高梨康治、林ゆうき、宮崎誠が思い描く“究極形エンタメ” (2/2)

エンタテインメントの究極の形なんじゃないか(宮崎)

──改めて「京伴祭」のお話を聞かせてください。昨年、無観客・配信のみで開催されましたが、これは“エピソード0”という位置付けなんですね。

 そうですね。まずは理解を得て、来年も続けられればいいなっていう、テストケースとして開催したというのが大きな理由です。宮崎さんでさえ、「劇伴のコンサートの野外フェスをやります」と言われても、すぐにイメージが結びつかないわけじゃないですか。「今後も京都で継続的にやります」って言ったときに、音楽をやってない教育関係の人だとか、役所の方々にそのまま説明しても絶対伝わらないと思ったので、「観ていただいて、いいなと感じたら協力してください」とお伝えしたんです。実際に観に来ていただいたら、「素晴らしいですね」って皆さん言ってくださって、思わず「やったぜ」と喜びました。

──ちなみに「京伴祭」の会場を、世界遺産である上賀茂神社にされた理由はなんでしょうか?

 京都で野外フェスをやるなら、神社仏閣でやりたいなって思ったんです。海外の方が観光で来られたときに行きたい場所でフェスをやることで、より関心を持ってもらえる。例えば「イタリアの〇〇ホールでコンサートがあります」っていうより、「コロッセオの中でやります」って言ったほうが絶対観に行きたくなるじゃないですか。なので、そういった海外のお客さんに来てもらえるようなところでやれたらいいなって。

──世界遺産でライブするなんて、なかなかないことですよね。「京伴祭」を経て、宮崎さん、高梨さんは何か発見はありましたか?

高梨 発見というより、むしろ「ああ、僕が帰るべきところだ」と思いました。“お茶の間にヘヴィメタルを”という僕の信念が、神社仏閣まで攻め込んだ。

一同 (笑)。

 神社でメタルを鳴らすという(笑)。

宮崎 僕はロックを中心に活動していますけど、やっぱりアニメの劇伴って本当に自由度が高いじゃないですか。エレクトリックなものもあるし……。

宮崎誠

宮崎誠

高梨 ジャズもあるし、クラシックもあるしね。

宮崎 今は3人ですけど、これが本当に大きなフェスの規模になったら、いろんな人のいろんな音楽が会場で聴けるっていうのは、もうチャンスでしかないというか。エンタテインメントの究極の形なんじゃないか、音楽フェスとしてすごくいい形なんじゃないかって思ったんですよね。やっぱり僕もロックミュージシャンっていうのが根っこにあるので、「ワンパンマン」とか、激しい曲を立て続けに演奏していたんですけど、「SPY×FAMILY」の家族シーンで使った曲のときに、心地よい風が吹いてきたんです。空が曇っていたのが、夕暮れっぽくなって……。やっぱそういうのって野外じゃないと味わえないじゃないですか。「FUJI ROCK FESTIVAL」に行ったときも、山の中で夕暮れを見たときってやっぱり感動する。あれも映像と一緒で、それさえも演出になるというか。野外ってそういう偶然がいい意味で音楽と一緒に合わさって感動できるというところがあるので、本当に可能性しか感じないなって、すごく思いました。

ダメでもいいから自分から作ってみて、始めてみることのほうが大事(林)

──いちアニメファンとしての実感なのですが、このゴールデンウィークは「東京伴祭」をはじめ劇伴作曲家のコンサートが複数あり、ヒットアニメのオーケストラコンサートなどの開催も増えて劇伴が目立つ機会が増えているように感じます。作り手である皆さんの実感としてはどうでしょうか。

高梨 僕も盛り上がっていると思う。昔よりもBGM扱いじゃなくなってきてる気がする。海外で売れているアルバムって、圧倒的に劇伴……サウンドトラックのアルバムなんですよね。海外に行くとアニメのサウンドトラックも普通に売れているなって思います。

──日本の雰囲気がようやくグローバルサウンドに近づいてきたみたいな。

宮崎 やっぱり日本のアニメが海外ですごく人気なので、その人気とともに日本での劇伴の認知度も加速していってる気がします。高梨さんがおっしゃったように、ここ近年で、海外からの人気がますます感じられるようになったし、海外からの仕事のオファーも増えてきているし、そこに日本が追いついてきたというか、その波がこっちまで派生してきてるっていう印象を受けます。

 例えばSpotifyにある、アーティストが使えるツール「Spotify for Artists」のフォロワーを見たりすると、ほとんど海外の方なんですね。僕は日本のアニメの劇伴音楽が、思ってる以上に海外で愛されてるっていうことを、日本人が一番知らないんじゃないかって感じました。それに対して危機感を覚えないとだめだなって思いますし、望んでいるだけだと物事は変わらないので、ダメでもいいから自分から作ってみて、始めてみることのほうが大事だなと感じています。「京伴祭」もそうやって始めてみたからこそ、周りの人たちが力を貸してくださって、アニメの公式サイドも応援してくださった。そういう流れを、作家自身が動いてできていることに意義がある。若い作家さんの未来を考えたりしながら、今ここにいるみんなで戦っているというか、「プロジェクトX」のような感じですね。なんかこう……少年アニメのような、無茶な敵に戦いを挑むじゃないですけど、夢に向かってチャレンジする感じが、少年アニメの劇伴を作ってる作家としては相乗効果があっていいんじゃないかな。

林ゆうき

林ゆうき

劇伴界の「LOUD PARK」みたいになったらいいな(高梨)

──最後に今後どういったフェスにしたいかを、皆さんにお伺いしたいと思います。

 個人的なところでは、生まれ育った京都に恩返しができるようなフェスにしたいというのと、海外に持っていけるコンテンツになって、オリジナルはもちろん、フェスとして世界中を順繰り回れたらいいなって思っています。例えば国際的に有名なハリウッドの作曲家、ハンス・ジマーさんが、世界ツアーで自分の作品を伝えられるっていうのはイメージできると思うんですけど、日本のコンテンツで、アニメでそれができるという可能性を示せたら、僕は自分が劇伴作曲家になった意味があるのかなって感じますね。

高梨 こういったフェスがあることによって、次の世代の人たちも「このフェスに出たいな」と思って育っていく。目標にするときがあると思うし、もしかしたら来年「僕も出たい」という人がいっぱい現れるかもしれない。この劇伴音楽の世界自体に夢を残すことになるので、そこはでかいんじゃないかな。

高梨康治

高梨康治

宮崎 現実的にアニメの劇伴というジャンルを、もっともっと大きくするには、僕らは何をしたらいいのかなって考えるようになりました。さっきもお話しさせていただいたように、こんなに自由度が高いジャンルなのに、やっぱりまだ世間の認知度が低い音楽で、そんなことないのにどうしても敷居が高いと思われてしまう。もう少し何か架け橋になるような、そのきっかけややり方を見つけられたらなって思います。

──ゆくゆくは野外で複数ステージで、レジェンドの方から若手の方まで一緒に観られるようになると面白いですね。

 Aステージでメタル、Bステージでダンスミュージック、Cステージでカリンバソロとか(笑)。

高梨 いろんなタイプの人が出演できるといいですよね。

 そうですね。毎年やれれば、「今年は誰が出るんだろう?」って予測する楽しみも増える。

高梨 そうね、ほんとそれ。どんどんそういうふうになっていくと思うし、将来的に劇伴界の「LOUD PARK」みたいになったらいいな。

左から高梨康治、林ゆうき、宮崎誠。

左から高梨康治、林ゆうき、宮崎誠。

プロフィール

高梨康治(タカナシヤスハル)

音楽家。ロックを音楽的原点とし、ハードロックとオーケストラを融合した重厚かつ華麗なサウンドを得意とする。音楽制作集団・Team-MAX主宰。和楽器をフィーチャーしたロックユニット「刃-yaiba-」のリーダーを務める。2013年、2014年、2017年、2020年、2021年、2022年にJASRAC国際賞を受賞。自身がパーソナリティを務めるWebラジオ番組「アキバ鋼鉄製作所」を隔週で配信している。代表作に「NARUTO–ナルト– 疾風伝」「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」「FAIRY TAIL」「ゾンビランドサガ」「ゲゲゲの鬼太郎」第6期、「美少女戦士セーラームーンCrystal」シリーズ、「フレッシュプリキュア!」「スマイルプリキュア!」「地獄少女」「ログ・ホライズン」「地球へ…」などがある。

林ゆうき(ハヤシユウキ)

1980年生まれ、京都府出身。元男子新体操選手、競技者としての音楽の選曲から伴奏音楽の世界へ傾倒していく。音楽経験はなかったが、大学在学中に独学で作曲活動をはじめる。卒業後、hideo kobayashiにトラックメイキングの基礎を学び、競技系ダンス全般の伴奏音楽制作を本格的に開始。さまざまなジャンルの音楽を取り込み、元踊り手としての感覚から映像との一体感に重きを置く、独自の音楽性を築く。代表作に「僕のヒーローアカデミア」シリーズ、「ハイキュー!!」シリーズ、「ガンダムビルドファイターズ」シリーズ、「ONE PIECE FILM GOLD」「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」「デス・パレード」「ポケットモンスター」「SHAMAN KING」「風が強く吹いている」などがある。

宮崎誠(ミヤザキマコト)

1981年生まれ、埼玉県出身。音楽ユニット・(K)NoW_NAMEのメンバー。13歳でギターを始め、22歳から本格的にギタリストとして活動を開始。その後ロック、ポップスを中心にさまざまなジャンルの楽曲を精力的に手がけ、作曲家としての活動を本格化させる。バンド系から打ち込み系まで流行を押さえたサウンドで幅広く対応し、オリジナルサウンドトラック制作では、ロックをベースに壮大かつ繊細なオーケストレーションを得意とする。代表作に「ワンパンマン」シリーズ、「SPY×FAMILY」「RPG不動産」「サクラクエスト」「Fairy gone フェアリーゴーン」などがある。また「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」エンディング主題歌「STEEL -鉄血の絆-」、「Re:ゼロから始める異世界生活」のオープニングテーマ「Redo」などの作曲を担当している。