「青春×機関銃」で知られるNAOEの新作「東京エイリアンズ」。同作は平凡な男子高校生・郡司晃が、同級生・天空橋翔と地球外生命体の戦闘を目撃してしまったことから、地球人と宇宙人の戦いに巻き込まれていくバトルアクションだ。
コミックナタリーでは3巻の発売を記念し、NAOEにインタビューを実施。「青春×機関銃」連載中から打ち合わせを始めていたという「東京エイリアンズ」の成り立ちや、連載開始までの試行錯誤を聞いた。「青春×機関銃」ともつながるキャラクター誕生秘話も。また、「青春×機関銃」で主人公・立花蛍を演じたことをきっかけに、NAOEと親交の深い小松未可子が3巻に寄せた感想も掲載している。
取材・文 / 佐藤希
主人公は平凡な日常を過ごす高校生の郡司晃。偶然乗り込んだ電車の中で同級生・天空橋翔と、地球外生命体(エイリアン)とのバトルに巻き込まれてしまったことをきっかけに、晃は警視庁内の宇宙人管理組織・AМO(Alien Manegement Organization)に勧誘される。かつて警察官として殉職したと聞かされていた父・晃雄がAМOの特別機動隊に所属していたこと、凶悪な進化型宇宙人ハクギンによって殺されたことを知った晃は、これまで知らなかった父の素顔を知るため特別機動隊に入ることを決意。高い戦闘力を持つ謎めいた天空橋とともに、未知の力を持つ地球外生命体との戦いに身を投じていく。
CHARACTER
郡司晃
正義感が強く、心優しい普通の高校1年生。警察官だった父親を幼少期に亡くし、親戚の家で暮らす。将来は父と同じ警察官を目指していたが、父の秘密を知りAМOに所属することを決める。行動の読めない天空橋に振り回されがち。
天空橋翔
晃と同じ高校の同級生で、イケメン、成績優秀、運動神経抜群なハイスペック男子。AМOの特別機動隊に所属しており、高い戦闘能力を誇る。謎が多く、クールでミステリアスだが、天然な行動で郡司を翻弄することもしばしば。
マンガ家としての基礎を作った「青春×機関銃」
──NAOE先生がデビュー作「青春×機関銃」を発表したのは2011年ですので、今年でちょうど画業10周年ということになりますね。おめでとうございます!
いやー、本当にあっという間ですね! 正直「もうそんなに経ってたんだ」って思います。
──NAOE先生が本格的にマンガを描き始めたのはいつ頃なんでしょうか?
小さいときからマンガを描くのは好きだったんですけど、本気で描こうと思ったのは10代後半のときでした。兄たちの少年マンガをたくさん読んでいましたし、久保帯人先生の「BLEACH」や、髙橋ツトム先生の「地雷震」のような作品に影響を受けていて、私の中では「これがマンガだ!」という思いが強いです。逆に少女マンガは数えるほどしか読んだことがなかったですね。
──ハードな作風の物語に惹かれていたんですね。持ち込み先にスクウェア・エニックスを選んだのはどういう理由からだったんでしょうか。
コミティアでいくつかの編集部に持ち込みをしたんですが、その中でスクエニさんが印象がよかったんです。そこで編集さんとお話して、スクエニさんでお願いしたいと思いました。
──担当編集さんの印象がよかったんでしょうか?
他社の編集さんはみんな作品をけっこう褒めてくれたんです。そのときスクエニで対応してくださった編集さんが、後々担当してくださる方なんですけど、文句を付けてきたんですよ。自分では自信があったシーンを「ここ、なんか微妙じゃない?」って。それで「えっ、そういう考え方もあるんだ!」と思い、ここの人たちに見てもらったらもっと違うものを書けそうと感じたことがきっかけでしたね。なんだかドМみたいな理由なんですけど……(笑)。
──いえいえ(笑)。NAOE先生にとって初連載作となった「青春×機関銃」ですが、高校生×サバイバルゲームという物語の着想が気になります。
元担当さんに「なんか巷でサバイバルゲームが流行ってるね。それで描いてみたら?」って言われたのがきっかけでした。私が全然やったことないですよって言ったら、担当さんは「じゃあやってきてくださいよ」って(笑)。それで体験しに行ったんですけど、いろいろあって「もう二度とやらんわ、こんなもん!」って思うほど、サバゲーとの出会いは最悪でした。
──何があったか、聞いてもいいですか……?
前日に食中毒になっちゃって一睡もできなかったんです。でも予約しちゃってるし、友達も一緒に来てくれることになってるしで、無理を押して参加したら現地が大雪でして……(笑)。
──確かに最悪ですね……。
はい(笑)。でも一応体験したので、とりあえず読み切りだけは、とがんばって描きましたが、ネームがなかなか通らなくて。これはいろいろ知識をつけなきゃ、と秋葉原のミリタリーショップに通いました。店長さんとすごく仲良くなってお話しているうちに、お子さんもいらっしゃるような大人である店長さんがとても楽しそうにサバゲーをやっている姿が印象に残ったんです。それまでは主人公を高校生にしようと思っていたんですけど、サバゲーって大人がやってるから面白いんだと思い、急遽設定を大人に変更して読み切りを描き直しました。そのときはまっつん(松岡政宗)とゆっきー(雪村透)が主人公だったんですよ。
──連載では高校生の立花が主人公となりましたが、どういう経緯で変わったんでしょうか?
松岡は職業がホストで成人男性という設定なんですけど、なかなか読者に共感を得られるように描けなくて大苦戦してしまいまして。いっそ主人公を女子高生にしたほうが描きやすいかな?と思い、立花蛍というキャラを登場させました。当初は小さいロリっ娘という設定だったのですが、たくましい女子高生になったなあ……と。
──そうだったんですね。その後サバイバルゲームは挑戦されましたか?
めちゃめちゃ行きました! だんだん面白くなってきて、休日に会う大人の友達のような人たちができてから毎回楽しみで、積極的に行くようになりました。
──サバゲーをきっかけに新しい交流も生まれたんですね。「青春×機関銃」はNAOE先生のデビュー作でもあり、先生のキャリアの中で最長連載作となっています。たくさん思い出が詰まっているかと思いますが、先生にとってどういう存在ですか?
マンガ家として活動していくうえで、どうやって連載を続けていくか、アシスタントさんにはどうやって指示を出すか、など本当に基礎を学べた作品です。すべて初めての経験だったので、マンガ家としての背骨を作れた気がしました。締め切りは守らなきゃいけない、とか大事なことも……。
──(笑)。初連載ということで、苦労される場面もあったかと思います。
2015年にTVアニメにしていただいたときは、仕事量の面で少し大変だったなという記憶がありますね。ほかにもあると思うんですが、記憶から消してしまったかもしれません(笑)。でも連載はマラソンのように続けていかないといけませんからね。体調が悪いときや、自分の気持ちが乗ってないときは多少つらかったと思いますが、基本的には「連載を続けられていてうれしい」という気持ちが勝っていて、そこまで苦しいと思ってなかったですね。
「東京エイリアンズ」でアクションは描かないつもりだった
──「青春×機関銃」の連載終了から、わずか半年という短さで「東京エイリアンズ」が始まりました。「東京エイリアンズ」の企画はいつ頃から始まっていたんですか?
「青春×機関銃」が終わる2年半ぐらい前だったと思うんですが、私から編集さんに「次は何を描いたらいいですかね?」って聞いていたんです。特に何が描きたいかは決まっていなかったんですけど、アクション要素がないものを描きたいと思ってました。
(担当編集) NAOE先生は「ご近所にいる宇宙人とのハートフルな人情ものを描きたい」っておっしゃってましたね。
──アクション要素のある物語は「青春×機関銃」で描き切った、ということだったんでしょうか。
あのマンガを「アクションマンガ」と言っていいものか(笑)。私が思うアクション作品って、血が出て人が死ぬ、というものだったのでおこがましい気持ちが……。「青春×機関銃」では人は死なないですからね。でも、もちろんカッコよく描きたいと考えて連載していました。「描き切った」というよりは、ちょっと違うジャンルを試してみようかなって気持ちがありました。
──2巻の巻末では「東京エイリアンズ」の打ち合わせの模様がマンガになっていましたが、そのときもNAOE先生はアクション要素のない物語を希望されていましたね。
はい、でも主人公2人のコスチュームを描いたときに、担当さんに「こんな恰好をしてる人が戦わないっていうのはちょっと……」と言われてしまって(笑)。
──確かに戦闘服のようなコスチュームでした。
完全に無意識でしたね(笑)。でも、ああいうテイストの服を描きたかったので、じゃあやっぱりアクション要素を入れるほうがいいのかなということで、方向性を変えていきました。
(担当編集) やはりNAOE先生はアクションシーンが持ち味なので、そこを生かしていただきたいなと思ったので。
──最初はどういうストーリーをイメージされていたんですか?
ストーリーというより、テーマを先に決めていました。最初は「高校生のラブコメもの」が描きたいって言ってたりもしましたが(笑)。なんとなく「宇宙人と地球人の温かな交流」というテーマができたらキャラクタービジュアルをいろいろ作って、「これはどうですか?」と担当さんにめちゃくちゃ聞いていましたね。でもなかなか決まらず、長い間ふわふわしてました。
──バトルアクションの方向に舵を切ってからは、ストーリーはすぐに決まったんでしょうか。
今読者の方に読んでいただいている1話は、最初とは全然違うものなんです。主人公の郡司くんが高校生じゃなくて警察官という設定で、性格ももっとダウナーな感じでした。交番勤務してる郡司くんと、今とあんまりビジュアルの変わらない天空橋でネームを作って、編集長に見せる段階まで行ったんですが、やっぱりこれじゃないと思い始めて、改めて作り直しました。
──具体的にはどう変わったんですか?
もっとコメディ要素が少なかったですね。郡司くんがおばあちゃんに化けている宇宙人と出会うという流れは同じなんですけど、ちょっと暗いかなと言われたので、主人公を明るくしようとしたのが現在の1話です。あのまま変えていなければ、けっこう雰囲気が違う作品になっていましたね。郡司くんは明るいというより、不幸さが目立つキャラになりましたが……。
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ファンの声で出来上がった郡司と天空橋