コミックナタリー PowerPush - 宮下裕樹「東京カラス」
「モンジュ」宮下の新作は都市伝説もの コザキユースケのキャラをリメイク
「正義警官モンジュ」でブレイクした宮下裕樹の新連載「東京カラス」が、5月19日発売のサンデーGX6月号(小学館)より始まる。高校の都市伝説研究会を舞台に、会長代理の大島田、謎のカラス女、珍妙なしゃべる犬の2人と1匹が都市伝説の謎に迫るヒューマンコメディだ。
この作品はもともとワニマガジン社のフルカラーコミックrobotで、コザキユースケが発表した未完の作品。その設定とキャラクターを受け継ぎ、宮下がオリジナルストーリーで新たな息吹を吹き込むという。作品の深部に迫るべく、作者の宮下裕樹と担当編集者であり現編集長の小室ときえを直撃した。
取材・文 / 山脇麻生 撮影・編集 / 唐木元
夢は原案担当者と金で揉めること
──連載初回のゲラ、拝見しました。まずは作品が誕生したいきさつからお聞きできればと思うのですが。
小室 本当は昨年末ぐらいに宮下くんの新連載を始めたかったんです。だけど少年画報社で「リュウマのガゴウ」の連載が始まったばかりで忙しそうだったので、「次はSFでいきたいね」なんて漠然とした話だけしていて。
宮下 いざ「具体的な話を」っていうときに、こういう話がやりたいという資料的な意味でコザキさんの「東京カラス」を持って行ったんです。もともとオカルトが好きでしたし、連載中から「都市伝説なら現代的な要素もファンタジー色も入れられるし、この題材もらえねえかなぁ」と思っていて(笑)。
小室 もともと2人は日本橋ヨヲコさんのところにいたアシスタント仲間なんです。コザキくんは同年代だけどひと足先にデビューしていて、2人はお互いに仕事を手伝いあってたから、宮下くんの次回作は「コザキくんにキャラクターデザインをお願いしたい」と以前から思っていたんです。
宮下 それでコザキさんに話をしたら、「オリジナルに左右されずに、好きに使っていいよ」と。
──コザキさんは気前がいいですね。キャラクターを使うに当たって何か条件を出されたりしましたか。
宮下 特にないです。カラス女を含め全体的にキャラのデザインをやりなおしてもらったりして。
小室 ネームの第1稿、第2稿も見てもらって意見交換してました。
宮下 自分とは違うセンスがひとつ入ることによって、「そういうやり方もあるのか!」といった発見があるので、今のところはすべてうまくいっています。いずれお金のことで揉めるんでしょうけど(笑)。
小室 揉めるくらいビッグコンテンツに育ってくれればいいけど……。
宮下 あくまで夢の話ですよ! そこまでの作品になったらうれしいですね。
キャラクターに弱点を作る理由
──コザキさんのホームページには、「宮下さんはキャラクターに命を吹き込むという事に関して非常にハイレベルな人」とありました。今回の連載にあたり、元のキャラクターにどのような肉付けを?
宮下 まず、大島田に新たに弱点を付け加えたいと。
──なぜ「まず弱点」なんでしょう。
宮下 弱点があると人間らしさが出るというか、作っていく上で話を転がしやすいという考えがありまして……まあ一種のクセかもしれません(笑)。今回の題材は都市伝説ですから、普通に考えたら主人公は霊感があったほうがいいんです。だけど今回は、まったくシックスセンスのない女の子として描きました。
──いちばん大切な要素が欠けているんですね。
宮下 ええ。そんな大島田と、もともと妖怪のカラス女がコンビになることで、足りない部分を補い合いながら、元の作品にはないドラマ要素やキャラクターのバックボーンを入れていければと思っています。
──キャラの造形は小室さんとの打ち合わせの中で練り上げていったんですか?
小室 基本的にはお任せです。上がってきたものに私が茶々を入れる感じ。コザキくんがキャラクターを使っていいって言ってくれたから、今回は連載前に見えてる部分が多くてラクでしたね。
──助走期間は短かった?
小室 具体的に話を詰めたのは今年に入ってからですから、短かったです。宮下くんに編集部に来てもらって、今後の展開なんかも話し合いつつネームを書いてもらって。
──編集部でネームを?
宮下 小学館のブースだと仕事がはかどるんです。家だとサボってしまうので……。編集部の行き先ホワイトボードに僕の名前プレート作ってくれたので、何日出社、みたいに書き込んでます。スタッフかよっていう(笑)。
掲載ラインナップ
「東京カラス」宮下裕樹+コザキユースケ / 「デストロ246」高橋慶太郎 / 「書生 葛木信二郎の日常」倉田三ノ路 / 「マンけん。」加瀬大輝 / 「恋愛ディストーション」犬上すくね / 「浜田ブリトニーの漫画でわかる萌えビジネス」浜田ブリトニー / 「星の少女たち 聖モエスの方舟・帰還篇」榎本ナリコ / 「イーヴィル・イーター」永福一成+KOJINO / 「コイネコ」真島悦也 / 「REC」花見沢Q太郎 / 「ジャジャ」えのあきら / 「ビストロ・パ・マルの事件簿」近藤史恵+原尾有美子 / 「ゆりてつ~私立百合ヶ咲女子高鉄道部~」松山せいじ
宮下裕樹(みやしたひろき)
石川県出身。大学卒業後アシスタント経験を経て月刊サンデーGX(小学館)に原稿を持ち込み、2002年にGX新人賞佳作を受賞。その後、2004年にGX8月号掲載のホラー読み切り「ポラピレドン」にてデビューを飾った。同年12月号より「正義警官モンジュ」を連載開始。同作は全12巻が刊行された。そのほか主な執筆作品に月刊!スピリッツ(小学館)にて連載されていた「強制ヒーロー」、ヤングキングアワーズ(少年画報社)にて連載中の「リュウマのガゴウ」など。 2012年、GX6月号より新連載「東京カラス」をスタート。