ナタリー PowerPush - 太田垣康男 機動戦士ガンダム サンダーボルト

宇宙開発ドラマの手練が取り組む 大人が血湧き肉踊るガンダム

サイド4の瓦礫がこんなに少ないわけがない

──時代的には1年戦争を描かれると伺ったのですが。

作品の舞台「サンダーボルト宙域」を描いた1シーン。大量のデブリと稲光が混ざり合う絵面からは、見るからに危険な香りが漂う。

もっとピンポイントで、ソロモン戦からア・バオア・クー戦の間の、すごく短い時期ですね。

──(宇宙世紀0079年の)年末も年末じゃないですか。宙域的にはどの辺りですか?

サイド4が元あった場所を舞台にします。このマンガの世界では「サンダーボルト宙域」と呼んでるんですが。

──なるほど、作品タイトルは宙域の名前なんですね。

そうです。サイド4は1年戦争の緒戦でぶっ壊れてしまったので、残骸がたくさんあるはずなんです。そういう残骸が集積してるエリアのことを暗礁宙域と呼ぶんですけど、アニメやさまざまなガンダム作品を観ていても、描かれてる瓦礫や破片の量がそれほど多くない。そんなはずはないだろうと思っていて。

──スペースコロニーがひとつ壊れてるんですもんね。

や、サイド4ってスペースコロニーの寄せ集めなので、ひとつどころじゃないですよ。だから、その辺りには小さい破片から巨大なビルの残骸まで、猛烈な数の瓦礫が漂ってるわけです。その中にはコンクリートだけじゃなく、金属もありますよね。

──あ! 帯電してるってことですか。

本当に起こるかわからないですが、宇宙空間にそれだけあると帯電するんじゃないか、と。で、その帯電した電気がそこここで雷のようにバリバリッと稲光を放っているから「サンダーボルト宙域」と呼ばれている、という設定です。

──聞くからに入っていきたくないエリアですね。

厄介ですよ。舞台をどこにするかはかなり悩んだんです。アクションシーンをやるときには場面設定ってすごく大事ですから。

──場所で戦い方が決まっちゃいますよね。

ええ、月面で戦闘するなら舞い上がる砂がすごく大事になってくるし、何もない宇宙空間なら光を先に見つけた方が勝つ。じゃあ暗礁宙域はというと、隠れ場所がいっぱいあるわけです。物陰から物陰へ、機動性が高いものが勝ちますよね。息を潜めて待っているだけだとマンガ的に面白味がないので、動きやすくて、しかも場所そのものが危険な感じがしていいなと思ったんです。

近代戦以前の騎士道の世界をガンダムで

──や、もうそのエリアを想像するだけで読みたくなります。いい舞台ですね。

あと民間人や一般人がいない。そこも今回意識したところです。

──というのは?

ジオン軍に所属する主役級キャラクターの登場シーン。

ガンダムをやるからには、やっぱりアクションシーンで派手に戦ってほしいわけですよ。一方で僕の中には、どうしても反戦意識というものがあるんで、逃げ惑う人々とか戦争難民ってファクターが入ってくると、単純には盛り上がれなくなっちゃうんです。

──「兵器かっこいい」と「戦争罪深い」っていうのは、なかなかいっぺんには描けないですよね。

これまで自分のマンガでは、兵器をかっこよく描いても、実際のところそれは殺戮の道具なんだ、それをかっこいいって思うのはどうなんだ、っていう問題提起をしてきたわけですよ。だけど、今回ばかりは「ガンダムなんで! ごめんなさい」という(笑)。

──単純にかっこよくいかせてくれ、と。

だからサンダーボルトで描く戦争の姿は、近代以前の戦争に近いと思います。騎士道精神とか、侍の一騎打ちみたいな。それと現代の戦争とは根本的に違うんで。

──その違いというのは具体的に言うと?

近代戦は結局のところ、より多くのものを殺した方が勝ち、という身も蓋もないところがありますけど、昔の戦争って鍛え抜いた者同士が技を戦わせるものだったはずですよね。今回描きたいのはどちらかというとそっちの戦争なんです。

──じゃあ騎士のような、戦闘のプロフェッショナルが、主人公。

はい。連邦とジオン、それぞれに主役を置いて、その2人の戦いの話になります。ただ、2人とも20歳前後の青年です。というのも熟練兵とか年上の連中って、この時期にはもう戦争でどんどん死んでしまっているはずなんですよ。

──だいたいがルウム戦役までの半月で、連邦軍の8割が壊滅したと言われていますもんね。

なので、若い人間ばかりが戦争に送られるというファーストの世界観に合わせて作っています。学徒動員とかやらないと数が間に合わないんです。

ビッグコミック スペリオール8号 / 2012年3月23日発売 / 特別定価 320円(税込)/ 小学館

  • ビッグコミック スペリオール8号 表紙
「機動戦士ガンダム サンダーボルト」
作品解説

宇宙世紀0079年。スペースコロニーの残骸(デブリ)が放電を続ける通称「サンダーボルト宙域」では、連邦軍とジオン軍による激しい戦闘が行われていた。先の見えない閉塞感の中出撃する連邦の兵士達の中で、そんな状況を謳歌するMSパイロット、イオ・フレミング。そして彼らを待ち受けるジオン軍の狙撃手、ダリル・ローレンツ。宇宙という戦場で、彼らの運命は、どのように交わるのか。太田垣康男とガンダムがタッグを組んだ、渾身の集中新連載ついに開幕!!

太田垣康男(おおたがきやすお)

アーティスト写真

1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」など。2001年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始し、現在も連載中。2012年3月より、長年ファンであったガンダムを題材にした連載「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。