南勝久原作によるTVアニメ「ザ・ファブル」は“ファブル”と呼ばれる天才殺し屋が、佐藤明と名を変えて1年間の殺し屋休業生活を送る物語。明が一般人として生活しようとするも、さまざまなトラブルに巻き込まれていくさまを描く。アニメは4月6日より2クール連続で放送され、9月25日にBlu-rayのVol.1が発売された。
コミックナタリーではBlu-rayの発売を記念した特集を展開。明役の興津和幸と、原作ファンからの人気も高い「宇津帆編」の鍵を握る佐羽ヒナコ役・安済知佳にインタビューを実施した。ヒナコが物語の鍵を握る宇津帆編にまつわる収録エピソードや、2クールを振り返って改めて感じたキャラクターの魅力などを語ってもらった。
取材・文 / 伊藤舞衣撮影 / ヨシダヤスシ
「ザ・ファブル」あらすじ
幼少期から殺し屋としての英才教育を受けた殺しの天才・通称“ファブル”。ある日彼は組織のボスから「1年間誰も殺してはならない」という指令を受け、人殺しをしない新たな生活を送ることになる。佐藤明と名乗り普通の生活をしようと心がけるが、平穏な日常の中に蠢く不穏な空気が明を放ってはおかない。明の身元を引き受けた真黒組や、周囲の人々のトラブルに明は巻き込まれていく。
明は捉えようとすればするほど逃げていく存在(興津)
──アフレコも終盤を迎えているTVアニメ「ザ・ファブル」ですが(インタビューは6月下旬に行われた)、改めて物語の印象をお聞かせいただけますか。
興津和幸 最初に原作を読んだのはアニメ化が発表される前で、面白くて一気読みしました。その後オーディションのお話をいただいて、また一気読みして。役が決まってからも収録に合わせて読むんですけど、そのシーンの後の展開を確認しながらまた一気読みしたりして(笑)。
安済知佳 私もオーディションに向けて原作を読んだのですが、緊張感とゆるさの塩梅が絶妙で、面白くて一気に読み進めました。
興津 うんうん。そうやって繰り返し読んでいるうちに、明という役を演じるうえで、感じるものがどんどん増えていきましたね。毎回読むたびに違う発見や新しい印象があって、本当に奥深さを感じる作品だと思います。
──話が一段落するたびに、明が考えていたことが垣間見える瞬間がありますよね。
興津 そうなんですよ。明があのときはこうだっただろ、みたいなことを普通に言うときがあって、「あそこが布石になって後の展開につながるのか!」と後で気づかされることが多いですね。だから原作もアニメも、何度でも楽しめる作品だなと思います。
──ここまで明を演じられて、改めて明にどんな印象をお持ちですか?
興津 最初は明に対して「よくわからない男」という印象を持っていました。なので、本人が意図しないところで周囲の笑いを取っていたりする姿を見て、面白い人だと素直に思っていましたね。
──演じられるうちに印象が変化したと。
興津 そうですね。新生活の中で明に新たな感情が芽生えていくのを感じながら演じていました。演じている僕はその感情がなんなのかという答えを見つけているんですけど、明はまだ見つけられていなくて。明の中では“生まれただけ”の感情をどう声で表現していけば、「ザ・ファブル」というアニメの中で明が活きてくるんだろうと考えさせられましたね。
──わかりやすい例をあげると、夢中で絵を描いているけどそれが“楽しい”とか“好き”だと理解していないところとかですかね。
興津 そのあたりはかなりわかりやすいほうで、それ以外にもたくさんちりばめられているんですよ。特に僕の中で印象的だったのは、明が身近な人物の死に遭遇したエピソードです。これまで覚悟のうえで命のやり取りをして生きてきたはずなのに、実際に自分の身近な人が死ぬことで初めて生まれた感情があったんじゃないかなと。明は休業中で暇なわけですから、今まで自分がやってきたことについて、すごく真面目にいろんなことを考えたと思います。
──2クールを通して、感情の変化が感じられますよね。
興津 表には出てきにくい芽生えたばかりの明の感情を、受け手がどう捉えて何を感じたかというのが大切だと思っていて。僕も明を理解したと思いきやまだ新しい発見をする瞬間があるので、捉えようとすればするほど逃げていく存在だなって、2クールを演じて改めて実感しました。
立ち向かうヒナコの姿に、憧れすら感じる(安済)
──安済さんはヒナコをどんな人物だと思われますか。
安済 オーディションに向けていただいた資料に、ヒナコが鉄棒を使って立つ練習をしている姿が掲載されていたので、その印象がとても強いです。諦めない強い子という印象を持っていました。
──今でもその印象は変わりませんか?
安済 原作を読んで、ヒナコを演じて、改めてその強さを感じました。ヒナコはすさまじい境遇の中で、かなりの絶望、屈辱、いろんなものを味わっているので、彼女の中で“負”の期間もあったと思うんです。でも佐藤との出会いをきっかけに、それを乗り越えてどうにか希望を探そうとしている。一生懸命「私は弱くない」って立ち向かっている姿に、私は憧れすら感じますね。
──2クール目の終盤では、その強さを感じられるエピソードがあるので改めて注目したいですね。収録時に印象に残った出来事はありますか?
安済 たくさんありすぎて難しい……! でも第23話の収録は思い出深かったですね。
──ヒナコが宇津帆に対して思い切った行動を取る重要なエピソードですね。
安済 台本やVチェックをしているときはもちろんヒナコに共感しますし、つらい気持ちやいろんな感情が一気に湧いてくるんですが、涙は出なかったんです。でも、収録前のテストで宇津帆役の藤(真秀)さんの言葉を聞いた瞬間、思わず涙が溢れてしまって。
──どんなシーンのセリフだったんでしょうか。
安済 宇津帆がわざとヒナコを挑発するシーンです。言葉だけで捉えると一見安っぽくも感じる煽り文句なんですが、藤さんの演じる宇津帆には言葉の力みたいなものがあって。その演技に心をえぐられて、突き落とされるような屈辱感だったり、絶望だったり、1つの言葉では表せないいろんな感情が湧き上がってきたんです。いくつもの感情が押し寄せてきた驚きで涙が止まらなくなって……。
──感情が昂ぶってしまったんですね。
安済 それだけテストで泣いたから本番では大丈夫だと思ってたんですけど、本番でもまた泣いちゃいました。その日は「藤さんってすごい、そして恐ろしい」と思いながら帰りましたね。
──今回は悪役を演じた藤さんですが、普段はどんな方なんでしょうか?
興津 悪役とは全然真逆ですよね。
安済 そう! 普段はすごく物腰柔らかくて、謙虚で優しくて、そしてお茶目で……。だからこそ宇津帆とのギャップがすごいんです。藤さんの言葉の力っていうのが、本当に宇津帆の魅力をさらに増幅させたと思います。
──映像を観るのが楽しみです。
安済 私もです! あと印象に残ったことと言えば、やっぱりジャッカルさんと共演できたことですかね!
興津 そこなの!?(笑)
安済 「ザ・ファブル」がアニメ化されると聞いたときに、誰がジャッカル富岡の声をやるんだろう、どうやって演じるんだろうと思っていて。声優が福島潤さんで驚いたんですけど、アニメを観たらイメージにしっかりハマっていて「うわあ、ジャッカルだあ!」ってなって(笑)。
興津 ははは(笑)。キャスト陣もジャッカル富岡役の福島さんに対する期待値はすごかったですね。現場に福島さんがいらっしゃると「ジャッカル先生!」ってみんなが迎えていました。
安済 私は役柄的に共演することはないだろうなと思っていたんですよ。でもジャッカルが出演しているテレビを観ながら佐藤がヒナコと電話をするシーンがあって、そこで間接的に共演が叶いまして。
──間接的にということは、スタジオでは会えなかったんですね。
安済 そうなんですよ。本番は別録りだったんですけど、ジャッカル富岡の音声がスタジオで流れた瞬間に「生ジャッカルだ!」って感動して!
興津 “生”ではない(笑)。しかもそのときのジャッカルのセリフがド下ネタっていう。
安済 そうなんです(笑)。ヒナコとしては狙われている佐藤を心配して、宇津帆にバレないように話をするっていうけっこう緊迫したシーンだったので、空気感のギャップがすごく印象に残りました!
興津 僕としてはそのシーンにぜひ注目してほしいですね。なぜ明がヒナコに電話したかが、けっこう大事なポイントだと思っているんですよ。
──と言いますと?
興津 明が着替えているときにズボンから出てきたヒナコの電話番号を見て電話をかけるシーンで、なんの気なしにサラっとかけたように見えるんですけど。でも、なぜ電話をかけたのか、明が何を思っていたのかを、アニメを見返しながら考えてほしいなって思います。
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気持ちを切り替えたいときに2人がするルーチンは