カネコアツシの最新作「サーチアンドデストロイ」1巻が、4月5日に発売された。同作は手塚治虫「どろろ」を原作に描かれる近未来SF作品。手塚治虫の生誕90周年を記念して創刊されたマンガ書籍・テヅコミ(マイクロマガジン社)で連載中だ。
コミックナタリーでは単行本の発売を記念し、手塚治虫「どろろ」のファンを公言する人気ライター・マフィア梶田へインタビューを申し込んだ。「手塚作品で一番好きなのが『どろろ』なんです」と、原作に人一倍強い思い入れを持つマフィア梶田。サングラスの奥で鋭く光る彼の目に、「サーチアンドデストロイ」はどう映ったのか。1万字を超える大ボリュームで、原作「どろろ」への愛と「サーチアンドデストロイ」の期待を語ってもらった。
取材・文 / 鈴木俊介 撮影 / 星野耕作
新しい「どろろ」を見せてくれるんじゃないか
──主にゲームライターとして活躍されているマフィア梶田さんですが、今日は手塚治虫マンガに造詣が深く、特に「どろろ」がお好きな方としてお話を伺えたらと思っています。
手塚作品で一番好きなのが「どろろ」なんです。今日はこういう機会をいただけて本当に光栄ですね。それに、カネコアツシ先生の作品では「デスコ」を愛読しているのですが、まさかカネコ先生が「どろろ」のリメイクをされているとは存じませんでした。驚いたのと同時に、すごく興奮しています。
──実際に「サーチアンドデストロイ」を読まれての第一印象は?
いやあ、とにかく画力がすごい! カネコ先生も手塚先生も、どちらも絵にパワーがあるし、独自の世界観を持っていらっしゃるじゃないですか。正直なところ、最初は強い個性同士をぶつけたら、混ぜすぎた絵の具が汚い色になっちゃうみたいに、うまく混ざらないんじゃないかと思ってたんです。でも、全然そんなことはなかった。大変なものが生まれてしまいましたね。まさか「どろろ」をここまで自分の世界観で再構築できるとは。「さすがカネコ先生だ」と思いましたし、ある意味すごく安心したんです。
──安心した、というのはどういうことでしょう。
「どろろ」って、今までにもけっこうリメイクされているんです。俺はそのほとんどを読んでいるけど、残念ながら本当に満足させてくれる作品には出会ったことがない。でも「サーチアンドデストロイ」はカネコ先生の独自解釈が強いので、過去の「どろろ」リメイクが、偉大なオリジナルに縛られて自由にできなかった、いわば鎖みたいなものが引きちぎれてる(笑)。だから今、「これ、もしかしたら俺に“新しい『どろろ』”を見せてくれるんじゃないか」っていう期待がものすごく大きいですね。
──「どろろ」のリメイクでありながら、原作の「どろろ」に縛られていない作品になっていると。
そうそう。これはカネコ先生じゃないとできねえだろうなって思ったんですよ。テヅコミさん、これは本当にいい仕事をされたなと。受けてくれたカネコ先生はもちろんそうですけど、目を付けられた編集部の方もすごいですよね。普通思いつかないですよ、カネコアツシに「どろろ」を描かせようなんていうのは。
手塚マンガには人生のすべてが詰まってる
──梶田さんは手塚作品の中でも特に「どろろ」が好きということですが、何か特別な思い入れがあるんですか。
これはたぶん、自分の幼少期の体験が重なっているんです。実は自分、子供の頃は病弱で、しょっちゅう入院とかしていて。退屈な病院生活を紛らわせるために親父が持ってきてくれたのが手塚マンガだったんですね。その中でも強く印象に残ったのが「どろろ」でした。どうしてそんなに「どろろ」が響いたのか。自分でも分析は難しかったんですけど、まず「どろろ」ってロードムービーのテイストが強いんですよね。百鬼丸とどろろが、当てもなく……って言っちゃうと違うかもですけど、ただ妖怪を探して旅をしていて、どこかを目指していたりとか、次はここに行こうと決めたりとか、そういう話じゃない。どろろだって「刀が欲しいから」っていう建前で百鬼丸に付いていくじゃないですか。その放浪感が、自由に出歩けなかった自分にはとてもうらやましいものに見えました。それともう1つ、百鬼丸は魔物に全身のパーツを奪われていて、体が不自由。俺も「なんでこんな体が弱いんだ」って、自分の体を憎んでたんです。風邪をひけば毎回のように肺炎になるし、医者には「今夜が山です」とか言われたこともあるし(笑)。
──へええ……。今の梶田さんからは想像がつかないですけど、そんなに体が弱かったんですね。
親も面倒を見るのは大変だったでしょう。でも、百鬼丸は不自由な体でありながら、まったくそうは見えないんですよね。全部のパーツが人工物にもかかわらず自由自在に動かせるし、戦えばめちゃくちゃ強い。特殊能力と言ってしまえばそれまでですけど、そういうのを見てすごく憧れました。それに百鬼丸のヒーロー像って、俺がそれまで触れてきたヒーローの中でも異質だったんです。だって腕とか足とかないんですよ(笑)。
──今で言うならダークヒーロー寄りのキャラですよね。腕の仕込み刀で妖怪を斬り倒して。
そうそう。昔から俺、妖怪とか怖い話とかも大好きで。手塚先生のマンガにも、そういったエピソードっていっぱいあるじゃないですか。その中でも「どろろ」で描かれてる妖怪とか、妖怪退治の話って、すごく独自性が強いものに感じて、斬新だと思ったんですよね。それこそ冒頭から、百鬼丸の後をズルリズルリと草履が付いてきて、その草履を斬るとドバーッと血が出てくる。子供心に寒気を感じるほどおぞましい描写だし、よくわからなくても怖い存在をにおわせるじゃないですか。その後の、橋のところでゴミの塊に取り憑いた死霊が襲ってくるシーンも、ひたすら怖かったんですよね。だって、襲われた人間が溶かされて骨になっちゃうんですよ? 同じ妖怪ものの中でも、こういったものを見たのは「どろろ」が初めてでしたし、それに対して一歩も引かず戦う百鬼丸の姿にも惹かれました。これらは表面的なもので、掘り下げたらもっと出てくるかもしれませんが、こうした理由で「どろろ」は自分の中に強く残ってるんでしょうね。それこそ手塚マンガはいっぱい読みましたけど、一番好きなものって聞かれるとなんでか「どろろ」を挙げちゃうんです。
──入院生活が長かったりすると、例えば「ブラック・ジャック」とかには憧れませんでした?
当然、憧れましたよ。こんな医者がいれば俺の身体なんかちゃちゃっと治してくれるんだろうなって。結局、手塚作品には人生のすべてが詰まってるんですよ。多感な幼少期に病気で長期入院を繰り返して、人生というものを学ぶ機会を奪われて……その空白の時間を、学校や教科書の代わりに埋めてくれたのが、俺にとって手塚マンガであり「どろろ」だったんです。
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不完全さも含めて愛おしい
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「捜し出し、破壊しろ!!」
手塚治虫の名作「どろろ」を大胆にアレンジした、カネコアツシ渾身のSF異形譚がここに開幕!!
内戦後──兵士や労働力として大量に生産されたクリーチャーと呼ばれるロボットが街に溢れ、あるものは路上に、あるものは裏社会に身を置き、市民との軋轢を生んでいた。
ある夜、盗みを働きヤクザクリーチャーに捕らえられた孤児ドロの前に、一見、人間ともクリーチャーともつかない少女が現れる。
獣の毛皮を身にまとい、怒りに満ちた眼差しで親玉キックに襲いかかる少女。
その機械の四肢には、最強の武器が装備されていた……!
手塚治虫生誕90周年記念マンガ書籍「テヅコミ」にて掲載された「サーチアンドデストロイ」が待望の単行本化!
©カネコアツシ
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- マフィア梶田(マフィアカジタ)
- 1987年10月14日生まれ、中国・上海出身。フリーライターとして、ゲームサイト「4Gamer.net」や声優情報誌などで記事を執筆している。また「杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン」「RADIO 4Gamer」などでラジオパーソナリティとしても活躍。そのほか「シン・ゴジラ」に出演するなど俳優としても活動の場を広げている。「GOHOマフィア!梶田くん」ではマフィア梶田を“材料”に、「ポプテピピック」の大川ぶくぶが4コママンガを執筆。