コミックナタリー Power Push - 「帝一の國」
古屋兎丸×木村了(赤場帝一役)×三津谷亮(榊原光明役)鼎談
謀略うずまく学園政権闘争劇、完結!ラスト飾るお祭りを語り合う
昭和の日本を舞台に、中高一貫制の名門私立男子高で巻き起こる政権闘争を描いた古屋兎丸「帝一の國」。3度にわたる舞台化に加え、実写映画化も決定している同作が、4月4日発売のジャンプスクエア5月号(集英社)で最終回を迎える。
コミックナタリーでは原作の完結を前に、古屋と、3月27日まで上演されている舞台「【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス-」で赤場帝一役を務めている木村了、榊原光明役の三津谷亮の鼎談をセッティング。最終回を描き終えての思いや今だから語れる初期設定、原作の完結に先がけて物語のラストが明らかになるという舞台版の制作秘話、舞台の稽古場を訪れ演者と交流を深めているという古屋と木村、三津谷との裏話までを聞いた。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / 小坂茂雄 ヘアメイク / MARU(PINZORO)、杉野未香
完結の半年以上前に最終回までのネームを描き上げた(古屋)
──古屋先生は舞台の稽古場によく見学にいらっしゃっていると伺っています。この鼎談の収録前にも、稽古場に液晶タブレットを持ち込んでお仕事をなさっているのが印象的でした。
古屋兎丸 来れるときはなるべくお伺いしていますね。振り付けとかは僕が覚えるわけではないので皆がそういう練習をしているときは隅で仕事をして、通し稽古が始まったら見学するという感じで楽しんでいます。この舞台の稽古が始まってから、本番が終わるまでの1カ月は、自分の中ではお祭りだと思っていて。みんなが僕の作ったキャラクターを一生懸命演じてくれるのは、涙なしでは見れないんですよ。本番はできる限り全通したい勢いですから(笑)。
木村了 先生、作品への愛がすごいから。でもこの3人で改めてこうやって話すのは珍しいですよね。もともと僕は三津谷とはあんまりしゃべらないですけど……(笑)。
三津谷亮 ちょっと、ちょっと、ちょっと。しゃべってるでしょ! やめてよ、もう(笑)。
古屋 あはは(笑)。でも普段話すことは「体調大丈夫?」とか雑談ばっかりだよね。これだけハードなスケジュールだと、1回稽古に参加しなかっただけでも置いていかれちゃうでしょ?
木村 そうですね。急ピッチで作っているということもあって、風邪で休んだりしたら間に合わないという危機感をもってやっているので。
──「帝一の國」は4月4日発売のジャンプスクエア5月号での原作の完結に先がけて、今回の舞台で物語のラストが明らかになるんですよね。原作と同時進行で舞台も制作するのは大変だったんでしょうか。
古屋 喜安(浩平)さんが脚本を描き始めたのが、去年の10月、11月くらいだったので、8月くらいには最終回のネームをお渡しした覚えがあります。でも本当はね、3月発売のスクエアで原作が完結して、そのあとに舞台が上演されるという形になる予定だったんですよ。
木村 あっ、僕も最初はそう聞いていました。
古屋 ただ12巻に入っている、洗脳された光明を奪還しようとする回を描くのがすごく大変で。人はたくさん出てくるし、みんな喧嘩していて動き回るしで全然気が抜けない。だから本来1話にまとめる予定のところを、2話に分割させてもらったんです。その結果、原作より先に舞台が終わるという前代未聞の形になってしまい。
三津谷 そうだったんだ。でも「帝一」の舞台ってなんでもありという感じがするので、そのノリには合っている気がしますね。
木村 そうだね。舞台を観劇してから原作の最終回を読むと、もっと「帝一」が詳しくわかるという作りになっているので、どちらも見てほしいね。
「光明を首謀者にするつもりだった」と聞いて(三津谷)
──「帝一の國」は古屋先生のマンガの中でも巻数、連載期間ともに最長の作品になりましたが、当初予定した通りの形で最終回を迎えられたのでしょうか。
古屋 いや、「帝一」は本当に大変だったんですよね。
木村 本音が(笑)。
古屋 連載が始まった時点では第1話の内容しか考えていなくて。「帝一の國」の前に「幻覚ピカソ」という作品をスクエアで連載していたんだけど、その終盤を描いているときに、SQ.19という雑誌が創刊されるから、「そこで新しく連載をお願いします」と依頼されたの。連載している最中だし、締め切りまで2、3カ月しかないしということで、どうにでも転がせる面白そうな第1話を考えて。「幻覚ピカソ」は少年少女の悩みを解決していくという、少年誌に寄せた内容だったんだけど、担当さんに「次はもっと自由に描いていいです」と言われたので、思いっきり戦うマンガを描こうと。ただ僕が思い切って描くと、人がバンバン死ぬので。
三津谷 光明とか、ひどい死に方をしそうですね。
古屋 最終的に帝一も死ぬだろうね(笑)。まあリミッターを外すとひどい方向にいっちゃうから、自分の中で「人を殺さない」という制約を作って、それ以外は割と自由に描いて。あと新1年生を出すときは悩みましたね。どういうキャラクターを出すかで今後の話も全然違ってくるだろうし、無限の可能性がある。未来の自分に任せようと、とりあえずポンと出してみたんですよね。それがまさか、野々宮と高天原が過去に仲間だったなんて、自分でも思いもよらなかったというか。
木村 その場その場で考えていくんですね。
古屋 そう。「こういう展開になったってことは……、このあとまさか光明が洗脳される?」みたいな感じで(笑)。
三津谷 そうなんですね。前に先生とお話したときに「最初は光明を裏の首謀者にしようかと思っていた」っておっしゃってたじゃないですか。だから原作で光明が洗脳されたとき、その設定がまだ残っていて「やっぱり裏で光明が全部操っているんじゃないか」なんて考えて。
木村 深読みして。いい読者だね。
三津谷 兎丸先生に遊ばれてる!って思いながら(笑)。
古屋 でも1話を描いたときは本当に光明のキャラは定まってなかったの。ほら、顔とかもちょっと怪しくて裏切りそうな感じがするでしょ。
三津谷 あっ、ホントだ。
古屋 「もしかしたら裏切るんじゃないか」っていう要素を残しつつ描いていたんだよね。キャラが定まったのは、2話目でノートに丸文字や猫のイラストとかを描かせたあたり。これで「光明って、かわいい子だ」と思って。
三津谷 へー、古屋先生ってキャラクターについて最初から設定を決めているわけではないんですね。
古屋 こういうキャラクターが多い作品でガチガチに設定を固めちゃうと、描きにくくなっちゃうから。ただ帝一だけは主人公ということで、しっかりとキャラクターを定めて描いていましたけど。
木村 帝一はすごく愚かな人間ですけど、そこがまた愛らしくて魅力的ですよね。真面目にアホなことをして、一番人間味に溢れている。
──ただ連載の終盤で帝一は、光明との一時的な別れを経て達観しましたよね。
木村 まあそれが原作や舞台のラストでどうなるかというところは、楽しみにしてもらいたいですね(笑)。
三津谷 すごく意味深な言い方(笑)。
古屋 やっぱり大事な人を失うと、人間誰しも一時的には聖人になるじゃない。「自分はなんて愚かな人間なんだ」って。でもそれが時が経つとどうなるかということだよね。
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- 古屋兎丸「帝一の國」 / 発売中 / 集英社
- 1巻 / 473円
- 13巻 / 514円
時は昭和──。数多くの政治家や官僚を生み出す超名門校・海帝高校で、赤場帝一はその頂点である生徒会長を目指していた。奮励の甲斐あり、次期生徒会長候補者の1人に選ばれた帝一は、虚偽を交えて生徒を先導するライバル・東郷菊馬の陣営に対し腹心の榊原光明を潜入させるも、捕えられ逆に洗脳されてしまう。光明の変わり果てた姿に責任を感じ、死すら覚悟した帝一は一大決心をする。そして運命の生徒会長選挙当日を迎え……。ジャンプスクエア連載の学園政権闘争劇、最終巻の14巻は5月2日発売。
- 舞台「【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス-」2016年3月17日(木)~27日(日)AiiA 2.5 Theater Tokyo
- 「【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス-」
キャスト
木村了、入江甚儀、三津谷亮、吉川純広、谷戸亮太、細貝圭、冨森ジャスティン、市川知宏、佐藤永典、佐藤流司、原嶋元久、瀬戸祐介、大河元気(映像出演)、井上小百合(乃木坂46)、樋口日奈(乃木坂46)、平沼紀久、今奈良孝行、竹内寿、中谷竜、ぎたろー、大堀こういち
古屋兎丸(フルヤウサマル)
1994年にガロ(青林堂)より「Palepoli」でデビュー。以後、精力的に作品の発表を続け、緻密な画力と卓越した発想力、多彩な画風で、ヒット作をコンスタントに発表する。主な著書に舞台化、映画化を果たした「ライチ☆光クラブ」をはじめ、「インノサン少年十字軍」「幻覚ピカソ」「人間失格」など。現在ジャンプSQ.(集英社)にて「帝一の國」、ゴーゴーバンチ(新潮社)にて「女子高生に殺されたい」をそれぞれ連載中。「帝一の國」は3度にわたり舞台化されたほか、実写映画化されることも決定している。
木村了(キムラリョウ)
1988年9月23日生まれ、東京都出身。2002年、ジュノンスーパーボーイコンテスト特別賞の受賞をきっかけにデビューを果たす。これまでの出演作にドラマ「ウォーターボーイズ2」「のだめカンタービレ」や、映画「ヒートアイランド」、舞台「ライチ光クラブ」「學蘭歌劇『帝一の國』」シリーズなど。
三津谷亮(ミツヤリョウ)
1988年2月11日生まれ、青森県出身。俳優集団D-BOYSメンバー。ミュージカル「テニスの王子様」2ndシーズン・不二役で人気を博し、以降、多数の舞台で活躍。近年の出演作品に、「SHOW BY ROCK!! MUSICAL」「幽悲伝」、てがみ座第11回公演「地を渡る舟」など。2016年5月から6月にかけて、キャラメルボックス2016公演「また逢おうと竜馬は言った」で主演を務める。特技の一輪車では2000年、2004年の世界大会で優勝した。