今、台湾マンガが熱い! 「2022 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」|メディアミックス、世界展開などマンガトレンド最前線を作るアジアンコンテンツの祭典に潜入

台湾マンガの目指す未来は?
TAICCA担当者にインタビュー

今年のTCCFでは、台湾で人気のマンガ7タイトルを集め、主に台湾企業向けにメディアミックスの可能性を探る提案会「IP in Focus:Taiwan Comics」も行われた。ほのぼのとした癒し系、ダークでシックな世界観で海外からも評価されたファンタジー、家族間のドタバタを描くコメディなどさまざまな作品が集まったが、そもそもそれらを生み出す台湾のクリエイターはどのような環境で作品作りをしているのか? 「IP in Focus:Taiwan Comics」の担当者である、葉子豪氏にインタビューを行った。

葉子豪氏

──葉さんから見て、台湾のマンガ家にはどういう特徴がありますか?

個人的に、彼らは観察眼が鋭いと思っています。さまざまな要素を貪欲に取り入れて、多元的なストーリーを練る方が多いですね。そもそも台湾は、地理的に重要な場所に位置しているので、オランダや中国、日本の文化に触れることも多いですから。

──なるほど。ストーリーの巧みさに加え、個人的には画力が高い作家も多い印象です。ちなみに、逆に「ここは弱い」と感じる点は?

読者の感想や市場のトレンドを、すぐに受け取ることができていないのではと思います。自分の描きたい作品は描けているけれど、読者のニーズはもちろん取り入れないといけませんし。制作に関する部分ですと、日本ではアシスタントを雇って描いてもらうような部分まで、台湾ではすべて1人で担当する人が昔から多いので、どうしても制作のスピードが遅くなって作品数も少なくなりがちです。海外から続々とたくさんの作品が入ってきていますし、いろんな仕事を分担して描いていかないと、海外作品と肩を並べることは難しい、と感じていますね。

──日本だとTwitterやpixivなどのSNSで発表する作家も多く、そこから人気を集めて連載化、もしくは書籍化というケースも多く見られます。台湾の作家はどのように出版社にアピールすることが多いんでしょう。

葉子豪氏。日本のマンガでは「呪術廻戦」「ブレイク ブレイド」が好き。

そこは日本とだいたい同じですね。2010年を境にいろいろと変化が生まれた印象ですが。2010年より以前はコミックマーケットのような同人即売会が一番メインで、当時もインターネット上で作品をPRする作家はいましたけど、そんなにたくさんいたというわけではありません。2010年以降はSNSを利用する人も増えて、そこで自分の描きたい作品のコンセプトを発表し、支持されたら描き続ける、というケースを見かけます。日本同様、SNSで人気になって出版につながった作品も多いですね。でも先ほどお話した通り、環境的な問題はあって……。海外の作品ほど売れないので、こちらの出版社は台湾産のオリジナルマンガにあまりコストを割かないんです。いい作品であっても作者がアシスタントや原作者を雇う余裕がなくて、すべて自分で描かざるを得ないこともままあります。

──そうして作品数が増やせない、という悪循環も生まれますね……。葉さんが所属しているTAICCAでは作品自体のPRを始め、広くクリエイターを支援している印象があります。作家にとってもありがたいことだと思いますが、一連の支援はどういう目的で行われているんでしょうか?

TAICCAとしてはいろんなプランを練っているんですが、それらの大元の考えとして、「1つのストーリーはどんどん成長していく」と考えているんです。初めはテキストベースで生まれた物語もマンガとして絵になるとわかりやすくなって、海外の人に読んでもらうことが容易になります。それから例えば、アニメとしてメディアミックスされれば、声や音が入ってもっと羽ばたいて行ける。アニメやドラマ、映画を1つの目的地として、マンガはいろんな可能性を作るための土台として捉えているんです。

──なるほど。

「IP in Focus:Taiwan Comics」の様子。
CCC創作集の展示ブース。

ですのでアシスタントの育成や、原作者もしくはシナリオライターとマンガ家をマッチングする、有力なライトノベルを原作としてマンガ家に紹介する、なども考えています。もっと面白い作品を作ってもらったり、作品数を増やしたりということを考えてはいるものの、なかなかすぐには難しいと思うので、そのプロジェクトと並行してメディアミックスも挑戦していこうとしています。

──「IP in Focus:Taiwan Comics」ではファンタジー、コメディ、サスペンスとさまざまなジャンルのマンガ7作品が登場しています。これらの作品はメディアミックスの可能性のある作品として、台湾内外のアニメ制作会社にアピールされていますが、どういう経緯で選ばれたんでしょうか?

今回ラインナップに並んだ7作品は、台湾のマンガ出版協会の賞を獲得したり、海外で評価されたりしたものや、Webマンガサイト・CCC創作集のランキング上位に入ったものですね。映画会社はストーリー自体が市場で好まれそうかどうかで、映画化するか考えることもあるんですが、こちらとしては作品の将来性をデータとしても示したいと思っています。

──具体的にはどのようなデータでアピールしていく予定ですか?

これまでは読者側に「この作品はこんなに読まれているんだ」と視覚的にわかるデータがなかったので、実際に人気作品がどれぐらいのPVを得ているのかわかりにくいという問題点がありました。今チャレンジしているのは、例えばCCC創作集なら人気ランキングに加えて、「いいね!」された数を表示したり、男性向けや女性向けなど細かくジャンル分けをして人気作を紹介したり。そうしてわかりやすくデータ化したものも、メディアミックスの提案の材料になればと思っています。現在、台湾のマンガは正直ビジネスとしてあまり市場が大きくないので、今回の「IP in Focus:Taiwan Comics」を通じて、「台湾産マンガにこんなに面白いものがある!」「メディアミックスの可能性を秘めている!」と台湾内外の企業にアピールしていきたいですね。

これから映像化されるかも?台湾の人気マンガを先取り

「IP in Focus:Taiwan Comics」にて、メディアミックスの可能性を秘めた7作品が企業向けに紹介された。以下ではラインナップ中、「IP in Focus:Taiwan Comics」に参加した記者が注目する、アニメやドラマの原作としての魅力を備えた3つの人気作を紹介。イベント内で感じた各作品のメディアミックスの“芽”も解説する。この機会に、台湾のマンガトレンドに触れてみよう。

「台灣特有種(TAIWAN ENDEMIC SPECIES)」ビジュアル ©台灣特有種/茜Cian/CCC創作
茜Cian「台灣特有種(TAIWAN ENDEMIC SPECIES)」

台湾・新竹に住む人々は、12歳の誕生日を迎えると、自分のパートナーとして肉団子の妖精を授けられることになっている。人間とお風呂に入ったり、一緒に干し柿を食べたり、彼らに乗って学校に行ったりと、人々の生活に寄りそう肉団子たち。しかし小学6年生の主人公・アシンは、まだパートナーが自分のもとに来ておらず、楽しそうに肉団子と遊ぶ友達がうらやましくなってしまい……。

記者メモ
「子供たちが台湾の風土を感じられるアニメとして観てみたい」

ハイテク産業が盛んで“台湾のシリコンバレー”と呼ばれながら、ローカルな風情も残る都市・新竹。現地の人々に親しまれている肉団子「貢丸(ゴンワン)」の妖精が子供たちの成長に寄り添う、というファンタジー要素が大きな魅力となっている。また、現在連載中の第2シーズンには貢丸に限らず、台湾の各都市の名物が妖精として登場するとのことで、世界観の広がりを感じた。イラストも優しいタッチで親しみやすく、子供たちが台湾の文化に触れられるアニメ作品になれば、日本を始め世界各地でファンを獲得できるだろう。

「瘋狂母親(CRAZY MOTHER)」ビジュアル ©瘋狂母親/萩葵亞/CCC創作集
萩葵亞「瘋狂母親(CRAZY MOTHER)」

マザコン夫と離婚したばかりのユジエは、ある日母親から驚愕のお願いをされる。それは、弟・ホンの結婚を阻止したい母のため、彼女の葬式を開いてほしいというもの。実はホンは同性の恋人との結婚を望んでおり、そのため母と衝突して家を追い出されていた。しかし台湾の伝統的な葬儀は1週間かけて行われる。母の“決死”の企てにホンはどう反応するのか。

記者メモ
「家族間で議論が生まれる実写ドラマ化に期待」

TAICCAが運営するWebマンガサイト・CCC創作集で連載され、第1話を公開してまもなくクリック数1位を獲得し、SNSを中心に人気を博している「瘋狂母親」。ジャンルとしてはホームコメディではあるものの、物語の本質はLGBTQにまつわる世代間の意見の食い違いだ。台湾では現在LGBTQにまつわる議論が盛んであり、LGBTQ作品に特化した動画配信サイトも生まれている。例えば各家庭で親子揃って、鑑賞しながら意見を交わせる実写ドラマになれば、日本でも今以上に多様な性への理解度を高める一助になりそうだ。

「永夜山(AREMENGAN)」ビジュアル ©永夜山 / 食夢蟹 / 黃踹 / 原動力
食夢蟹、黃踹「永夜山(AREMENGAN)」

台湾・花東の山岳エリアを舞台に展開する、タテ読みのサイコサスペンス。ある日プロの登山家を含む男女7人が山に入るも、突然の嵐に巻き込まれ、洞窟に閉じ込められてしまう。嵐が過ぎ去ると7人のうち1人が行方知れずとなり、5人が亡くなっていた。5人の死因はそれぞれ異なり、洞窟には唯一の生き残りである自閉症の男性と、1台のボイスレコーダーが。警察の捜査が難航する中、洞窟内で「秘密が明かされて初めて夜が明ける」というメッセージが見つかる。そして謎めいた8人目の人物も登場し、謎が深まっていく。

記者メモ
「ハラハラドキドキのホラーゲームや、迫力の実写映画にぴったり」

「IP in Focus:Taiwan Comics」では作品関係者が「ホラーゲーム化」という展望を語っていた。ホラーゲームは現在、ゲーム実況者に人気のジャンル。洞窟という密室、謎が謎を呼ぶ展開、そして殺人という要素を含んだ「永夜山」がゲーム化されれば、配信者と視聴者が恐怖しながらものめり込んでいくさまが、今からでも目に浮かぶ。また人間関係が複雑に絡み合うサスペンスながら、原作の第1部は全20話で完結していることから、同イベントでは「実写映画にしやすい作品」という意見も。人気の韓国Webtoonが多数実写化されている昨今、台湾のクリエイターたちも韓国の名作ドラマのような質の高い映像作品を生み出すことに注力している。台湾タテヨミ作品はまだ未開拓ながらも、すでに注目を集めている「永夜山」をスクリーンで観る日は近いかもしれない。

取材を終えて

TCCF開催地での取材を経て一番強く感じたのは、現地でマンガ・アニメ産業に関わる人々が、台湾のみでの作品展開に留まらず、広く海外へと作品を送り出したいという、グローバルな野心を持っているということ。TAICCA職員・葉氏のインタビュー中にもあった通り、さまざまな国に囲まれている台湾のクリエイターが海外のカルチャーを柔軟に取り入れ、また逆に作品を送り出すことを目指すのは、不思議なことではないのだろう。

取材期間中には台北市内の書店を巡る機会もあり、日本の書店で店頭を飾る人気作品も数多く見かける中、それらと肩を並べるほどの技量を持った素晴らしい台湾マンガが大きく棚を飾る店舗も。葉氏曰く、台湾のオリジナルマンガの市場はまだ小さいとのことだが、十分に海外と戦える力を秘めていると感じた。

なおTAICCAの振興施策の1つとしてKADOKAWAとの協業を例に挙げたが、TAICCAとしては、今以上に海外企業と積極的に協力し、クオリティの高いマンガ・アニメ作りに活かしていきたいという。特に日本の出版社、アニメ関連企業とのパートナー関係を強く望んでおり、来年のTCCFにもたくさんの企業に参加してほしい、としている。今年1月に受賞作品が発表された第15回国際漫画賞では、台湾のクリエイターが多数入賞するなど、マンガシーンで熱い視線を集め始めた台湾。もしかすると、コンテンツビジネスにおいて、“宝の山”は意外とご近所にあるのかもしれない。