コミックナタリー Power Push - タテコミ
小池一夫「やっぱり来たか」と到来を予感 縦スクロールで読むスマホ時代のマンガ
電子書籍のレンタルサイト・Renta!が、スマートフォン向けの新たなマンガコンテンツ「タテコミ」をリリースした。紙と同じ見開き方式でマンガを読むにはスマホ画面は小さすぎる!という問題点と向き合い、マンガを1コマずつ切り出し縦スクロールで読めるように再配置する試みだ。
コミックナタリーでは、この電子書籍の世界で誕生した新しい表現「タテコミ」に注目。常にマンガの未来を見据え、ソーシャルメディアなどで鋭い意見を発信する小池一夫に「縦スクロールで読むマンガ」の解説を依頼した。「タテコミ」という言葉に対して「やっぱり来たか」と口を開いた小池。その真意とは……?
取材・文 / 小林聖
ここが魅力! タテコミ3大要素!
- スマホの操作に慣れているユーザーにとって、視線の移動は上下が基本。表示に縦スクロールを採用したタテコミでは、従来の横へ流れていく形式よりもテンポよくマンガが読み進められる。紙をめくるような本能的な楽しさが、画面のスクロールでも味わえる。
- 紙では読みやすい見開き形式のマンガも、画面が小さいスマホで読もうとしたらチマチマしてうんざり……。タテコミではコマやシーンを1つずつ切り出し、端末の画面サイズに自動で横幅を調整。細かいセリフもストレスフリーで読める。
- 紙ではコストが掛かり過ぎる、全ページフルカラーという贅沢もデジタルでは実現! アニメやゲームと比較しても遜色のないビジュアルが楽しめる。
縦スクロールマンガは「めくり」の連続
──タテコミはスマートフォンで読むのに最適化する狙いで、従来のマンガを縦スクロールに置き換えたサービスです。小池先生は縦スクロールのマンガについてどうお考えですか?
当然の流れ!とは思わないけど、タテコミというサービスの話を聞いたときは「やっぱり来たか」とは思いましたね。紙のマンガをそのまま電子化するのが読みやすい場合もあるけれど、縦スクロールのマンガのよさというのも確かにある。そういうマンガの描き方というのも(自身が主催する)キャラクターマン講座でいずれ教えていかないといけない時代が来るとは思っていますから。この間、某Webマンガサービスの会社が出している、Webマンガ創作の教本を研究のために入手したら、冒頭から「キャラクターが大事です!」「キャラクターを起てよう」とか書いてあって、僕が40年間教えていることが連々と書いてありました(笑)。どれだけ表現方法が変わっても、キャラクターが大事だということは変わらない。僕の考えが間違ってなかったな、と思いましたよ。
──変わらないものがある一方で、縦スクロールになると変化する部分というのはなんでしょうか?
日本のマンガは、右から左へ進んでいくのが主流ですよね。この形が一般的なのは、実は日本と台湾くらい。ほかの国は左から右に流れていくのが普通なんです。左右が違うだけで読み方は全然変わるのに、これが今度は1コマずつ縦に流れていくとどうなるか。まず面白いのは、心をつかむような気になるセリフが出てくるとスクロールする指が止まるんです。人間には感情があって、それが身体にも伝わる。人差し指は、特に感情が集まりやすい。何かを選ぶとき、気になるものを触るとき、みんな人差し指を使うでしょう? 紙のマンガではこう……本を持って、めくって、そういう動作のために手を全部使っていましたが、縦スクロールマンガの場合は人差し指1本で進んでいく。それで、ハッとする場面になると自然と指が止まる。
──指で感じている、と。
そう。心で感じたものは指先に伝わるんです。
──指先でコマを追っていくスタイルになると、演出も変わってくるのでしょうか。
右から左にページをめくっていく紙のマンガは、基本的にキャラクターも右から左に向かって動いていた。だからキャラクターを追っていくという読み方が主流だったわけです。縦スクロールの場合は上から下ですが、ずっとキャラクターに下を向かせてはいられませんよね(笑)。そこで重要になってくるのが「言葉」の要素。スクロールでは(フックとなるような)セリフで物語が引っ張られていく。だからね、シンプルな会話劇でも結構面白いものになるんですよ。僕も自分の講座の生徒に、簡単な縦スクロールマンガの原作を書いたことがあってね。武士と彼を斬りに来た人間の話で「お前を斬る」「イヤだ。そもそもなぜ斬られなきゃいけない」「なんでもだ」っていうような会話劇。すごくシンプルなんですが、縦スクロールだと自然に読み進められるんです。セリフを読む、指先を動かして次のコマに進む、その繰り返しのテンポが気持ちいい。
──なるほど。今までは見開き単位で「めくり」がありましたが、1コマずつ進む縦スクロールのマンガだと毎回「めくり」が続くような感覚ですかね。
その場合、会話が非常に重要になってきます。僕はよく「受けゼリフはするな」と言っているんです。「今日はいい天気ですね」「そうですね」みたいな、相手の意見やセリフにそのまま答えるようなものは、マンガではしてはいけない。高橋留美子も、デビュー以来ずっと守っていると言っていましたが、そのような面白い会話を書く技術が必要ですね。お笑い芸人のコントや漫才のように、会話がどんどんスクロールで続いていくんです。こういう掛け合いみたいな表現は、紙のマンガよりも、縦スクロールマンガに向いている。マンガもLINEみたいな形になる。逆に複雑な構図や人がたくさんいる場面なんかは、スマートフォンで見せるのは難しいですよね。画面自体が小さいわけですから。せいぜい1コマにつき、キャラクターが入るのは3人くらい。登場人物が多ければ画面を“引き”(広角の画)にしなければいけませんが、スマートフォンだとそれも見づらい。そもそも景色と人物の両方を入れようとか思わず、背景は取っ払って描いてもいいかもしれません。
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電子書籍レンタルサイト・Renta!による、スマートフォンでの読みやすさを重視した縦スクロールで読むマンガ「タテコミ」。上から下に縦スクロールでスイスイ読める!細かいセリフも読みやすい!しかも全作品フルカラー!
映画化され話題となった「奴隷区 僕と23人の奴隷」、2巻で累計15万部を突破した「もののべ古書店怪奇譚」、アニメ化もされた「リコーダーとランドセル」など、掲載作品はプロ作家による人気作品が多数。Renta!掲載の約12万タイトル全てのタテコミ化を目指して、ラインナップは順次増加中!
タテコミ配信作品
- 紺吉「もののべ古書店怪奇譚」
- 小西幹久「リィンカーネーションの花弁」
- オオイシヒロト・岡田伸一「奴隷区 僕と23人の奴隷」
- ももしろ・上森優「オオカミ王子の言うとおり」
- 東屋めめ「リコーダーとランドセル」
- ほか
小池一夫(こいけかずお)
作家。マンガ原作者。1936年秋田県生まれ。1970年「子連れ狼」(画:小島剛夕)の執筆以来、小説、マンガ原作、映画・テレビ・舞台の脚本、作詞など幅広い創作活動を行う。代表作に「首斬り朝」「修羅雪姫」「クライング・フリーマン」など多数。1977年よりマンガ作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾、多くのクリエイターをデビューさせる。1999年には大阪芸術大学教授、2005年にはキャラクター造形学科の初代学科長に就任。退任後の現在も後進の指導にあたっている。2004年には米国アイズナー賞の「マンガ家の殿堂」(The Will EisnerAward Hall of Fame)入りを果たす。2010年よりTwitterを開始。2016年8月、現代版劇画村塾「小池一夫キャラクターマン講座」第10期を開講。