「王国物語」特集 中村明日美子インタビュー|「いつか描くだろう」と思っていた初の長編ファンタジーで描写する 人間2人の緊張感ある関係性

劇場シリーズの新装版を出すならこのタイミングで

「Aの劇場 新装版」に収録されるカラーカット。

──では「王国物語」1巻と同時期に刊行される「Aの劇場」「Bの劇場」についてもお話を伺えればと思います。オリジナル版が発売されたのは2012年、2013年ですが、なぜ今回のタイミングで新装版を刊行することになったのでしょう。

元がフルカラー、ハードカバーで大判サイズの高額な本だったので、おいおいモノクロの小さいサイズで手に取りやすい価格のものを出そうという話は出ていたんです。「王国物語」はそもそも劇場シリーズがベースにあったので、こちらの1巻が出るのと同じタイミングで新装版を出すのがいいのではということになりました。

──劇場シリーズは2005年から2012年まで約8年間の連載でしたが、思い出深いタイトルはありますか?

「PARADE」とアリス少年のシリーズが好きです。

「Aの劇場 新装版」に収録されるカラーカット。

──「PARADE」はとある国へと嫁ぐことになった少女のエピソードで、アリス少年のシリーズでは女性の服を着るのが好きな少年が成長していく中での葛藤が描かれていますね。

「PARADE」はゴスロリというテーマから少し離れた感じがあるのですが、もともと国や民族の持つ独自の宗教観や世界観に興味がありまして、そういうものを入れ込めたと思っています。アリス少年は、ゴスロリな世界観と相性のいい「不思議の国のアリス」がベースになっていますが、そこに現実との齟齬に苦しんだり成長したりする、まさにゴスロリを愛する人たちの通る道を描くことができたのが良かったです。

ゴスロリ誌連載ならではのポイント

──「Aの劇場」に収録されている一番古いタイトルが2005年発表ということで、13年前の作品になりますが当時と現在とでお話の作り方や、絵の描き方などで変化があった部分はありますか?

初期の頃はやはり時間があったので、点描やカケアミなど画面の処理が手間のかかるものを使っています。

アリス少年シリーズの第1弾「CHILDHOOD'S END」シリーズより。

──収録されている作品はどれも衣装や背景がかなり緻密に描き込まれていますね。

あと、フリルやギャザーなどのシワをひたすら曲線で描いていたのですが、いろんな人の作風などを見て、時に直線でささっと描いたほうが張り感があってキレイに見えると学びました。お話の作り方はあまり変わっていないですね。

──掲載誌がマンガ誌ではなくゴスロリ専門誌ということで、作画ではどういった部分に重点を置いていたんでしょう。

必ず全身の見えるカットを入れるというところですね。あと、似たテイストの衣装は続かないように心がけました。

──今回新装版の刊行にあたって、それぞれに1作品ずつ新作読み切りが収録されると伺いました。「Aの劇場」に収録される読み切り「LES ÉTOILES ET LA LUNE」のネームを拝見したのですが、同じく「Aの劇場」に収められている「THE PEAL BLUE STORY」の前日譚となっています。既存作品の前日譚を描くことにしたのには、どんな理由があるんでしょうか。

「THE PEAL BLUE STORY」より。

「LES ÉTOILES ET LA LUNE」は子供を亡くしてしまった夫妻の物語ですが、「THE PEAL BLUE STORY」の本編だけだと夫は妻に暴力を奮うDV男という面しか描かれておらず、もちろん暴力はダメですが、彼なりに追い詰められていたというところは拾ってやらねばと思っていました。

──なるほど。新装版の刊行で「Aの劇場」「Bの劇場」を初めて手に取る読者もいると思いますが、最後にファンに向けてメッセージをお願いします。

既刊をすでにお持ちの方もそうでない方も、ゴスロリがお好きな方もそうでもない方も、お楽しみいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

中村明日美子「王国物語①」
2018年7月19日発売 / 集英社
中村明日美子「王国物語①」

コミックス 702円

Amazon.co.jp

Kindle版 667円

Amazon.co.jp

紫の瞳のアーダルテ。青い瞳のアードルテ。
一人は優しき皇子として光に包まれ、もう一人は幽閉の身として暗闇に潜む。
別々の道をたどる双子の宿命を描く「アードルテとアーダルテ」シリーズのほか、英雄とうたわれる美しい王と、彼に仕える謎めいた男の因縁を描く「王と側近」シリーズを収録。
はるか異国を舞台に綴られる、大人の寓話ファンタジー。

中村明日美子「Aの劇場 新装版」
2018年7月19日発売 / 集英社
中村明日美子「Aの劇場 新装版」

コミックス 680円

Amazon.co.jp

月光の力で魂を宿した磁器人形(ビスクドール)。ドレスに身を包み冒険に足を踏み出す少年“アリス”。吸血鬼狩人の弟子となった少女と、ロリコンの師匠。名もなき罪人と、望まぬ婚礼を控えた花嫁。
美麗な筆致で描かれる、極上の全17編。

中村明日美子「Bの劇場 新装版」
2018年8月17日発売 / 集英社
中村明日美子「Bの劇場 新装版」

愛しい人に贈り物を届ける少年の聖夜の奇跡。身体の変化に怯える少年“アリス”と、彼を永遠に愛するウサギさん。幽閉された敵国の姫と、砦の兵士との密やかな交流。街角に立つ“幸福な王子”と、少年少女の恋。
読む者の心を揺さぶる、至高の全14編。

中村明日美子(ナカムラアスミコ)
中村明日美子
1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。