2人の人間の関係性をじっくり描くのが性に合っている
──「王国物語」の1巻には「アードルテとアーダルテ」の続編にあたる「アーダルテとアードルテ」と、とある国の国王とその側近が織りなす「王と側近」のエピソードが収録されています。作品を連作形式にしたのにはどういった理由が?
スケジュール的に定期的な連載は難しいと思っていたので、不定期でも読みやすく、柔軟にストーリー展開できる形にしました。私はBLを長く描いていますが、BLは連作形式が多く、作品の方向性の自由度が高いので、連作を描き慣れていたということもあります。ただ最初は連作というよりむしろ短編集のような形で考えていましたね。おいおい世界観がつながればいいかな、くらいの。
──では今後「アーダルテとアードルテ」や「王と側近」に登場したキャラクターが、別のエピソードに出てくるといった展開もあったりするんでしょうか。
そのあたりはいろいろ構想中です。
──ちなみに「アードルテとアーダルテ」「王と側近」はそのタイトル通り、どちらも2人のキャラクターの関係性を描く内容になっています。1人のキャラを主人公にするのではなく、キャラ2人を中心に描いているのにはどういった理由があるのでしょう。
いろいろな作品を描いてきて、自分は2人の人間の関係性をじっくり描くのが性に合っているのかなと。描いていくうちに群像劇になることはあるのですが、チームのように複数のキャラクターを一度に作るのが苦手なので。2人中心というのは、互いの立場やパワーバランスが変化することで関係性やストーリーが展開していくので、緊張感があって好きです。
──2人の関係性を描くということを念頭に置いた中で、「アードルテとアーダルテ」のアーダルテとアードルテ、「王と側近」の王と側近のハンはどのように生まれたんですか?
2本ともに読み切りのつもりで描いた話なので、キャラクターもストーリーからイメージしました。どちらの2人も、互いの存在によって互いが生きるか死ぬかという状況になっているんです。その中でアーダルテとアードルテは瓜二つ、王とハンはまったく正反対のビジュアルにしてデザインしていきました。
──アーダルテとアードルテの2人は、瞳の色が異なるというのが特徴ですね。
「アードルテとアーダルテ」はWebでフルカラー掲載だったので、その特性を活かすために目の色を変えることでキャラを見分けさせることにしたんです。あとはお伽話らしく美形にしようと。王は迫力のある美形という設定で、他人に有無を言わせない力を持っているタイプです。ハンは私の好きな眉なしの顔です(笑)。
──ではこれまで登場したキャラの中でお気に入りを挙げるとしたら、やはりハンですか?
そうですね。自分を御しているキャラが好きなので、ハンは好きです。思わせぶりな会話も好きなので、王とハンが話すシーンは気に入っていますし、 王はいつも過剰にいやらしい感じがあって、描いていて楽しいです。
描きたかったドラゴンは「ウマ」に
──中村さんは新作の執筆時には、取材旅行に出かけたり、資料を大量に集めると伺ったことがあるのですが、今回も取材は行われたのでしょうか。
昔はそうしていたのですが、今は時間が取れず……。「王国物語」に関して言えば、以前訪れたことのある外国を思い出したりしています。劇中では建物や内装が世界観を表す重要な要素なので、モスクや幾何学模様の資料を集めました。
──「王国物語」に登場する国はどこか特定の地域がモデルになっていたりするんですか?
せっかくファンタジーなので、あまりどこの国というイメージにとらわれないようにしています。建物や衣装は中東風ですが、鎧はヨーロッパのようだし、キャラクターの顔の造形もまちまちですね。
──キャラクターということで言うと、劇中に登場する「ウマ」という生き物だけが、現実世界には存在しませんよね。「ウマ」という名前を聞くと、やはり馬を想像してしまうのですが、なぜ「ウマ」は現在のデザインになったのでしょう。
ファンタジー好きとしてはいつかドラゴンを描きたいというのはあったのですが、ドラゴンとするのは少し気恥ずかしいし、人間の身近にある動物としてイメージしにくかったので「ウマ」にしました。あと、本物の馬を描くのが本当に難しいので……。
──(笑)。空想の生き物をデザインするにあたり、何か参考にしたものはありますか?
具体的に参考にしたわけではありませんが、「風の谷のナウシカ」のカイとクイや、「映画ドラえもん のび太と竜の騎士」のバンホーさんのシルエットには影響を受けていると思います。
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