10月より放送中のTVアニメ「takt op.Destiny」は、ベートーヴェンの「交響曲第5番ハ短調Op.67」──「運命」などクラシック楽曲の力を宿した、“ムジカート”と呼ばれる少女たちの戦いを描く近未来ファンタジー作品。DeNAと広井王子が原作を手がけ、今後配信を予定しているスマートフォン向けアプリゲーム「takt op. 運命は真紅き旋律の街を」とTVアニメの両軸で展開されるメディアミックスプロジェクトだ。
ナタリーでは現在「takt op.」プロジェクトの特集を展開中。第2回となる今回は、幼少期よりピアノを習っておりクラシック音楽に長年親しんできたという岩井勇気(ハライチ)にインタビューを実施し、第2話までを鑑賞してもらったうえでの感想を聞いた。アニメやマンガに造詣が深く、クラシック愛好家でもある彼の目に、果たして本作はどう映ったのか。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ
重そうな攻撃がしっかり重く見える
──岩井さんはアニメを観る際、事前の情報収集などはどのようにしているんでしょう。
アニメ作品は公式サイトにティザー映像がアップされるので、とりあえずはそれを観ますね。だいたいみんなティザーは気合を入れて作るじゃないですか。だから基本はどれもめちゃくちゃいい映像なんですけど、それで「これ、もしかして制作が間に合ってないのかな?」って感じちゃう作品は危ないなって(笑)。
──なるほど(笑)。今回「takt op.Destiny」を第2話まで観てもらいましたが、本編を観る前にチェックした情報は何かありますか?
制作会社は確認しました。MAPPAとマッドハウスですよね。その時点で「間違いないんじゃないかな」と。
──普段も制作会社は確認されるんですか?
そうですね。あと監督さんの名前も見ます。知らない監督だったら、過去に何を作った人なのか調べたり。
──「takt op.Destiny」では「魔法少女リリカルなのはViVid」や「GRANBLUE FANTASY The Animation」を手がけた伊藤祐毅さんが監督を務めているんですよね。今作については、率直にどんな感想を持たれましたか?
作画がすごいなと思いました。アニメの公式サイトやポータルサイトにドンと出ているキービジュアルがめちゃくちゃ気合入っていますけど、それに偽りはないなと。イラストから受けた印象がそのままアニメになっている感じがしましたね。
──この作品は音楽系アニメとも言えるし、バトルアクションもの、変身ヒロインもの、ロードムービーものなど、人によって「ここが肝だ」と思うポイントが分かれそうな作品ですよね。岩井さん的には、「takt op.Destiny」を“何アニメ”と定義しますか?
今のところはバトルじゃないですかね。ストーリーや設定についてはまだまだ謎が多いですけど、バトルの臨場感がすごくあるんで。まあ、まだ2話までしか観てないんで、現時点では言い切れない部分も正直あるんですけど……。
──バトルアニメ好きには薦められそうですか?
どうかな……。いわゆるバトル好きって、どんどん強い奴とか新しい能力の敵が出てきてインフレが起きていくような展開が好きな人も多いじゃないですか。この作品がそういう展開をするのかどうかもわからないんでアレですけど、バトルシーンの構図とか迫力はすごくいいと思うんで、そういう意味では薦められると思います。
──バトルシーンでは、具体的にどういう部分を魅力に感じました?
運命って華奢ですよね。その割に攻撃がすごく重たい。バトルではいつも「攻撃がちゃんと重たく見えるか」というところを見ちゃうんですけど、運命の戦い方にはちゃんと重さが感じられました。家のテレビではなく、もっといい環境で観たいなと思いましたね。映画館とかで観たらもっと迫力あるんだろうなと。
──大画面と、いい音響設備で。
そうそう、SEとかも含めて「ドスッ!」と感じたいんですよね。もちろん戦いのスタイルにもよるんで、必ずしも攻撃が重く見えればいいということでもないんですけど。軽い攻撃の表現がダメなわけじゃなくて、それが作中で“重い攻撃”ということになっていたらちゃんと重く見えてほしいという。僕はアニメーターじゃないんで、具体的に何をどうしたら重く見えるのかはわからないですけど(笑)、このアニメでは重さがちゃんと伝わってきたのがよかったですね。
今のアニメの画は全部きれいだから!
──実際、作画のクオリティはかなりのものですよね。先日の先行試写会でタクト役の内山昂輝さんが「今は視聴者の目が厳しくなっている」というようなことをおっしゃっていたんですけど、その要求に応えなければならない制作側は本当に大変だと思います(参照:「takt op.」の出来栄えに出演者もただただ圧倒、内山昂輝「厳しい目にも勝てる」)。
「きれいな画がヌルヌル動く」というのが当たり前になっちゃってるというかね。今は本当に、どの作品を観ても全部きれいなんで。あまりアニメに詳しくない人がたまたま観た作品のことを「画がきれい」みたいに褒めているのを聞くと、「いや、全部きれいだから!」って思っちゃいますね。
──我々のような受け手にとっては間違いなく幸せなことですが、作り手は相当しんどいだろうなとも思うんです。これはどの業界にも共通することだと思いますが、岩井さんはクリエイターとしては、そういった現状についてどうお考えですか?
全体的なレベルが上がること自体はいいと思いますよ。基準値は高いほうがいい。ただ、僕個人としてはアニメーション枚数の少ない、カクカクした動きでもいいんですけどね。「1枚1枚の画がどういうふうに連なってこういう動きになっているのか」を見たい気持ちもあるんで、たまにコマ送りで観たりすることもあるんですよ。
──アニメーションの“骨格”の部分を見たいと。
もちろん「すげえヌルヌル動いてんな」というのもめちゃめちゃ楽しいんですけど。カクカクしてたらしてたで「こういう動かし方か」という見方ができるんで、そういう作品も観たいですけどね。
──これだけハイクオリティが当たり前になっている世の中で、コマ数の少ないチープな表現が視聴者に受け入れられますかね?
そこに重点がなければいいんじゃないですかね。アニメーションの質以外のところに魅力があれば。シナリオがすごくいいとか、ギャグ系とかでカクカクした動きにマッチしたお話だったりすれば成立すると思いますよ。くだらないことをやっているのにめちゃくちゃヌルヌル動かしてもねえ……いや、それはそれで面白いですけど(笑)。
──つまり、もっといろんなあり方があっていいんじゃないかと。
僕はなんでも楽しめちゃうんですよね。
次のページ »
激しい曲か、ゆったりした曲か