コミックナタリー Power Push - 髙橋ツトム
リスペクトを込めて、弾き語りのように描いていく
残響
BLACK-BOX
髙橋ツトムがビッグコミックスペリオール(小学館)にて連載中の「残響」は、とある工場町で暮らす主人公の智が、隣人の元ヤクザに「自分を殺してくれ」と依頼を受けるところから始まる物語。一方、月刊アフタヌーン(講談社)で執筆している「BLACK-BOX」は、人殺しの父と兄を持つ青年・凌駕が主人公のボクシングマンガだ。
2作品の単行本第2巻が同時発売されたことを記念し、コミックナタリーでは髙橋にインタビューを行った。それぞれ自身が好きなものへ、リスペクトを込めて描いているという2作品について聞く。
取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 三木美波
- 「残響」登場人物
- 「BLACK-BOX」登場人物
髙橋ツトムインタビュー
売れないと思ったけど描きたかった
──「残響」の2巻、「BLACK-BOX」の2巻の同時発売ということで、まずはそれぞれの作品についてお聞きしたいと思います。「残響」はどういった経緯で生まれた作品なんですか?
描き始めたきっかけは、2014年に高倉健さんと菅原文太さんが亡くなったことです。2人が亡くなったのがあまりにもショックで。「仁義なき戦い」とかそういったテイストのものを描きたくなって、ヤクザが暴れるとか、凶悪なエッセンスを持つ作品のイメージがふつふつと湧き上がってきた。そのときにスペリオールの担当さんと、「この気持ちは残しておかないといけないよね」「やりましょう」と話していたのが始まりでした。最初は読み切りとして描いてたんだけど、だんだん面白くなってきちゃって。やっぱり俺はいつでも「残響」みたいなテイストの話は描いていたいんだよ。最初のスタート(デビュー作の「地雷震」)がああいう感じだから。
──闇を感じるような作品といいますか。
俺ももう27年くらいマンガを描いてるけど、そういう作品は大好きだし、自分の中からなくすのはよくないっていう感覚もあってさ。「残響」は病的に暗い人間が、どうやったら人生を楽しめるのかってことを描きたくて。劇的に世界が変わるような“ダウン方向のギフト”が手に入ったときに、その子の人生はどう変わっていくのか。“ダウン方向のギフト”っていうのは、智の場合、拳銃なんだけど。全然プラスにはならない道具が手に入ったときに、その人の人生がどう動くのか……っていうことが描きたかった。でも……これは言っていいのかわかんないけど、「残響」は担当さんに「全然売れないと思うけどやらせてくれ」って言ったんだよね。
──「売れないと思った」?
俺の感覚なんだけど、「残響」みたいに主人公がうっすらとした目的でダラダラとどこかへ向かって、そこで事件に巻き込まれて……っていうロードムービー的な話の作り方って、マンガには向かないと思うんだよね。今の時代ってマンガもスマホで読めたりいろんな楽しみ方があるからこそ、スピード感がないとダメだと思う。読者に飽きられちゃうし、それこそドラッグのように衝撃的なことを重ねていくっていうやり方になっていく。だからそうじゃない「残響」は、「売れないと思うけど、これは描きたいことだから」って話してたんだよね。
──でも「残響」も、智がどこへ向かっていくのか、毎回ドキドキしながら読んでいます。2巻には掲載されていないですが、今のスペリオール本誌(9号・13話)での展開にも驚きました。
もともと3巻で完結させるというのは決まっていたので、物語が佳境に入った今は特に動きのある展開になってますね。ラストまで読んでもらえると、タイトルの意味がわかってもらえるんじゃないかな。「あ、そういうことだったのか」と。
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- 髙橋ツトム「残響(2)」 / 2016年5月23日発売 / 小学館
- 650円
- Kindle版 / 540円
とある工場町で、漫然と日々を過ごす智(さとる)。彼が暮らす安アパートの隣室には、元ヤクザの老人、瀬川が住んでいた。
ある日、智は瀬川に「500万渡すから、自分を殺してくれ」という依頼を受ける。
躊躇する智だったが、瀬川から、智の中に巣喰う狂気を見抜かれ、彼自身の心にも変化があらわれはじめ…!?
- 髙橋ツトム「BLACK-BOX(2)」 / 2016年5月23日発売 / 講談社
- 691円
- Kindle版 / 540円
父親は殺人罪で服役中。兄も殺人で捕まった“殺人一家”の次男、石田凌駕。凌駕本人にも兄が捕まった殺人の関与が疑われている中、獄中の父親の「指令」のもと、ボクシングのプロテストに挑む──。
髙橋ツトム(タカハシツトム)
1989年、モーニング(講談社)に読み切り「地雷震」が掲載されデビュー。1992年より月刊アフタヌーン(講談社)にて同作の連載を開始。殺人課の刑事を主人公に据え、犯罪者の心理を巧みに描写するハードボイルドな作風で好評を博した。2001年より週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載を始めた「スカイハイ」はテレビドラマ、実写映画化されるヒットを記録。ほか代表作に「鉄腕ガール」「SIDOOH―士道―」など。2015年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「残響」を、月刊アフタヌーン(講談社)にて「BLACK-BOX」を連載している。