コミックナタリー Power Push - 鈴木志保

鈴木ワールド凝縮の一枚絵、誕生の瞬間を動画でお届け

去る7月31日、「船を建てる」などで知られる鈴木志保が、京都・恵文社一乗寺店にてライブペインティングを行った。描かれたイラストは、キャンバスへと仕立てられ、東日本大震災チャリティオークションに出品されている。

コミックナタリーは、このライブペインティングに密着。当日の動画を、鈴木へのミニインタビューと併せてお届けする。

取材・文/坂本恵

ライブペインティングの模様を動画でお届け

壁に貼られた約1400mm×1000mmの画布に、色とりどりのポスカで自身のキャラクターを描き続けていく鈴木。独特な曲線が生み出される瞬間を、ぜひ動画で堪能してほしい。なお描かれた画布は、恵文社一乗寺店にて8月15日まで展示中だ。

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自分の心を整理するために「何かしなくちゃ」

──2時間のライブペインティング、お疲れさまでした。

ライブペインティングで描かれたイラスト

(絵を見ながら)結構いっぱい描きましたねー。描いてるときはもう、2時間で描けるだけ描こうとしてました。できた! と思ったら予定してた時間ぴったりで。

──ジャストでしたね。会場のお客さんも、16時ちょうどにはっと夢から覚めたみたいな感覚に襲われたように見えました。この絵は東日本大震災のチャリティオークションに出品されるとのことですが、まずチャリティに参加した動機を教えていただけますか。

あの地震が起きた直後は、もうただただ呆然としてしまっていて何もできなかったんです。それが4カ月経って、ようやく「ああ、何かしなくちゃ」という気持ちになれて。でも、それはもしかしたら自分のためかもしれない。

──自分自身の気持ちに整理をつける、みたいなことですか?

インタビューの様子

そう。……って言っちゃったら、ボランティアをされてる方々に「なんだよ自分の心のためか」って怒られるかもしれないんですけど。でもすごく正直に言えばそういうことなんですよね。自分自身の心をまず守らないと……。

──そうしないと精神の安定が取れないというか。

直接被害を受けたわけじゃないのに、私ごときが呆然として何も考えられませんなんて言う資格はないのかもしれないって思ってたんですけど。でもそういう気持ちが、時間が経ってちょっとずつ癒えてきて。ようやく何かできるかも、という気持ちになれたという感じですね。

「パレード」から「集合」へ

──今日描かれた絵についてお聞きしたいのですが。

自動書記のような感じで何も考えずに描いたので……。

──構図もまったく考えずに臨まれたんですか?

そうです。そもそもライブペインティングというもの自体が初めてで。考えてもしょうがないなと思ったので。キャンバスを目の前にして、出てくるものを描こうと思って描きました。

──まさにライブですね。

ライブペインティングで描かれたイラスト

ええ、まさに。そうですね……(絵を見て)あっ、真ん中、このノラとおにぎりが持っているたんぽぽを見ると、お互い手が交差して差し出し合ってますね。手の位置も一緒で。

──本当ですね。それが中央にあって、絵の主核になっています。

あと四つ葉のクローバーを交換しあってるのもいますね。

──助け合い、みたいな意味なんでしょうか。

うーん、何も考えずに描いたので、意味なんて全部後付けですけどね(笑)。でも心の奥底には、何かあったんだと思います。何か渡したり、交換したり。その辺りがキーポイントな気がします。

──この絵では、キャラクター同士が向かい合っているのが多いですね。

割と好きなコンセプトとして「パレード」っていうのがあって。みんな同じ方向を向いて進んでいく。でも今回の絵は、逆サイドから受け止めるキャラがいるので、パレードじゃなくて集合って感じがする。

ライブペインティングで描かれたイラスト

──鈴木ワールドのいろんなキャラクターが集まっていますが、一番大きく描かれているのがカラスです。

カラスは「にんぽぽ」では怖い存在なんです。しましまという“こにゃこ”を連れていってしまう。確かにこの絵でカラスはノラやしましまの後ろに、闇の象徴としてぬおーんと存在する感じで、怖く感じますね。なんでこんなに大きく描いたんだろう……。

──鈴木さんのマンガって、優しくてかわいらしいキャラクターがエッジィな世界にいる感じがしますよね。決して甘いだけの作風じゃない。やはりここでのカラスは、そういう現実の象徴として存在しているような気がします。

そうだ! それですね。本当なら、大きさとしてはミシュランマンが一番でかいのに(笑)。

ライブペインティングの様子ライブペインティングの様子

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鈴木志保「にんぽぽ123」1巻 / 2011年6月23日発売 / 800円(税込) / 講談社 / モーニングKC

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あらすじ

主人公・ノラは「にゃこ」と呼ばれる種族のベイビー。優しい夫婦に拾われて、幸せに暮らしていたが、ある日突然「別の世界」にアクセスしてしまう。そこは、人や建物が失われ、すべてが崩壊した世界だった。ノラは道端の「にんぽぽ」を片手に、大切なパートナーを失った「おにぎり」や、にゃこ族の「がおー」たちとの絆を深めてゆく。自分が何者なのかすら、知らぬまま──。

鈴木志保(すずきしほ)

鈴木志保

青森県生まれ。1992年から1996年まで、長編「船を建てる」を連載。ほか代表作に「ちむちむ☆パレード」「ヘブン…」などがある。現在はモーニング・ツー(講談社)にて「にんぽぽ123」を、月刊コミック@バンチ(新潮社)で「たかが千年」を連載中。