鈴木ジュリエッタインタビュー|“読者の欲望を刺激したい” デビューからこれまで描いてきたヒロインを振り返って得た答え

オデットにとって、恋愛は学ぶべき感情のひとつでしかない

──キャラクターの関係性といえば、オデットに好意を向けていた後輩の柚木村、ぶっきらぼうながら頼れる先輩の朝生、高性能アンドロイドのトラヴィスやクリスの誰とも最終的に恋仲にならなかったのは、どんな理由からですか?

オデットと柚木村。

「カラクリオデット」のテーマは、オデットが人間の心を1つひとつ学んでいく、というもので。恋愛は学ぶべき感情のひとつでしかなかったので、作品のゴールにはならなかったのかなあと今にして思います。

──6巻のあとがきに「一番好きなキャラは柚木村だったのでオデットとくっつける気満々でしたが、あまり人気なさげだったのでやめてみたり」と書かれていました。

くっつけようと思ってた柚木村への応援より、「朝生がんばって!」って意見が多かったので、オデットは柚木村に振り向かない、と決めました。朝生はお兄さんというか、憧れ的な位置付けだったので、もし仲が発展するとしても数年後なイメージがあります。

──最終回の朝生の卒業式で、オデットが自分の感情を朝生に伝えていたことに成長を感じた読者も多かったのではないでしょうか。アンドロイドのオデットを描くときに気を付けていたことはありますか?

「カラクリオデット」カラーイラスト

涙が出たらアンドロイドっぽくないかなと思って、泣かせないようにしていました。

──あ、でも最終回で泣いてますね。

は! 本当だ、泣いてる……。あ、第1話でも泣いてました。

──“あんまり”泣かせないって感じでしょうか。

そうですね(笑)。ちょっとは泣かせちゃったんですが、オデットは基本的に無表情なので、少女マンガでよくある、山場に感情が昂ぶってブワーって泣くシーンにすごく憧れてました。そのフラストレーションから生まれたのが「神様はじめました」の奈々生かもしれないです。

ガンガン前に進んでくれる子が描きたかった「神様はじめました」

──奈々生の名前が出たところで、「神様はじめました」についてもうかがいます。2008年から2016年まで8年間連載し、単行本は全25巻を刊行。家を失った女子高生・奈々生と、20年以上も主に家出されていた狐の神使・巴衛のラブストーリーです。奈々生というキャラクターは、どうやって生まれたんでしょうか。

「神様はじめました」1巻

さっきも言ったように、感情があまりに表に出ない割に素直だったオデットの反動なのかも。奈々生は生活苦だったこともあり、人をちゃんと疑えるし、草を食べても生きていくようなたくましさもある子です。ガンガン前に進んでくれる強い主人公にしたくて、奈々生になりました。

──8年間描く間に、奈々生はどんなふうに変わったと思いますか?

最初はきつい子だったのに、それこそ神様みたいないい子になったなあって(笑)。巴衛がご飯から何から用意してくれる至れり尽くせりの男なので、奈々生の貪欲さが薄まってトゲが取れたんでしょうね。結果的に、全然怒ることがなくなってしまって……。

──怒るという感情は、鈴木さんにとって重要ですか?

そうですね。“怒る”って相手にぶつけるものだと思うんですけど、自己主張のひとつですし、何に怒るかは大切にしています。「神様はじめました」では巴衛が怒るので、奈々生がだんだんのほほんとした子になっていきました。

──確かに奈々生は笑顔の印象が強いですね。前作のオデットが無表情なのにたまにする切ない顔や、奈々生の豊かな表情など、鈴木さんのキャラクターはどれも表情が魅力的です。

入りきって描くんです。

──キャラクターにですか?

「神様はじめました」カラーイラスト

ええ。キャラクターが笑ってたら笑顔で描きますし、「ううう」って苦しい顔のときは自分の顔もそうなるから苦しくなる(笑)。そういうマンガ家さん、結構多いんじゃないかな。だから重くてつらい話をずっと描かれてる作家さんはすごいなあって思います。

──鈴木さんは暗い表情で描いていたエピソードはありますか?

ラストの近く、奈々生と巴衛が2人暮らしするために、奈々生ががんばってお金を貯めるあたりです。心が苦しくて。

──え、あれはかなり前向きなエピソードかと……。

私だったら、楽しい神社を出て一文無しの巴衛と2人暮らしするの嫌だなって(笑)。でも奈々生がそこに夢を持って「がんばる!」ってやってるから、「いいの? まだ10代なんだよ?」と思いながらも描きました。

──鈴木さんは大人の意見をお持ちだったけど、キャラクターが勝手に動いたと(笑)。でも巴衛はちゃんとミカゲに500年分の給料を請求して、身一つだった状態からは脱しましたね。

そう、500年分の給料として黄金の招き猫を渡しました。たぶん換金したら何千万かはあるので、しばらくは生きていける。

──鈴木さんの気遣いだったんですね。

やっぱり奈々生だけががんばるんじゃなく、巴衛も稼いできてくれないと(笑)。

めんどくさいマンガって思われたくない

──「神様はじめました」は全25巻と長編ですが、かなりサクサクと読めることも特徴だと思います。鈴木さんはマンガを描くうえで、どんなことを意識していますか?

あんまり意識していないんですが、担当編集から「写植がすぐ終わる」とは言われます。

──セリフやモノローグが少ないということですね。

セリフがないシーンも。

セリフがあんまり多いと「読んでくれるかなあ」って不安になるんです。字を読むのってめんどくさいから、めんどくさいマンガって思われたくない。だから大事なところにセリフを置いて、あとはキャラクターが表情で語るように。でもセリフがいっぱいワーッてあるのに面白いマンガもあって「いっぱいあってもいいんだ!」ってよく揺れ動きます。

──あはは(笑)。コマ割りのカメラアングルもバリエーション豊富だと思いました。バストアップや表情のアップだけではなく、アオリやロング、立ちポーズなども使って、画面構成に活気があるというか。

バストアップを3コマ以上続けたり、同じ場所にキャラクターがずっといたりすると、不安な気持ちが湧いてくるんですよね。なんかしなきゃ、させなきゃって強迫観念が……。でもこれもさっきのセリフと同じで、バストアップで続けて語らせるほうが読みやすいという面もあるし、動きすぎるとうるさいと思われるかもしれない。このあたりは本当に難しくて、バランスを見ながら試行錯誤してます。

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鈴木ジュリエッタ(スズキジュリエッタ)
2004年、「星になる日」でデビュー。代表作「神様はじめました」は全25巻が刊行され、アニメ化とミュージカル化も果たした。新連載「忍恋」が、8月4日発売の花とゆめ17号(白泉社)にてスタート。