鈴木ジュリエッタが、花とゆめ(白泉社)にて新連載「忍恋」をスタートさせる。新作の主人公は忍者の女の子。2004年にデビューして以降、鈴木はこれまで「悪魔とドルチェ」のマユリ、「カラクリオデット」のオデット、「神様はじめました」の奈々生、「トリピタカ・トリニーク」の花果と、個性的な主人公たちを生み出してきた。
コミックナタリーでは、第1話執筆の合間を縫って鈴木にインタビューを実施。過去作の主人公を軸に作品を振り返るとともに、新たな主役・杏子の魅力、そして現在の鈴木のマンガ家としての思いに迫る。
取材・文 / 三木美波
ずっと最終回の気持ちで描いていた「悪魔とドルチェ」
──8月4日発売の花とゆめ17号から、新連載「忍恋」がスタートします。新作の進捗はいかがでしょうか?(※取材は6月下旬に行われた)
暗礁に……乗り上げています(笑)。
──いつも1話目は描くのに苦労なさるんですか?
そうですね、前作の「トリピタカ・トリニーク」もかなり苦しみました。
──新連載の主人公は、忍者の女の子だとか。このインタビューでは新連載を記念して、鈴木さんがこれまで発表してきた作品の主人公に焦点を当て、過去作から新連載までを語っていただければと思っています。最初は2005年にザ花とゆめ(白泉社)に掲載された「悪魔とドルチェ」。鈴木さんの初シリーズ連載作です。
ここまで昔の作品だと、逆に他人事みたいに思えて冷静に読めます。「神様はじめました」の最初のほうとかはもう、直視できなくて(笑)。
──「悪魔とドルチェ」は13年前の作品ですからね。主人公は、悪魔を呼び出せる女子高生のマユリ。母親から教わった悪魔使いの術を使ってお菓子を作り、ある日、大悪魔のビュートを呼び出してしまいます。マユリはどうやって生まれたキャラクターなんでしょう。
「悪魔とドルチェ」は読み切りの予定だったんです。マユリは友達がいなくて、親も海外赴任で1人暮らしをしているんですけど、これって読み切りで描きやすい設定で。
──と言いますと?
悪魔が家にいても親に隠さなくていいし、友達にも紹介しなくていい。相手役を人外のキャラクターにすると、最初はそのキャラと主人公がどう距離を縮めていくかを描くことが多いと思うんですが、私の場合、主役2人以外の周囲のキャラはどうしても邪魔になっちゃうから、読み切りだと閉じた世界にしちゃいがちなんですよね。
──そういう理由もあって、マユリには友達がいなかったんですね。瞳孔を開きながら一心不乱に自分では食べきれない量のお菓子を作ったり、そのお菓子をテーブルの上に並べてうつ伏せに突っ伏していたりと、ちょっと暗い一面もあって目が離せない子だと思いました。
そのシーン、なんか絵的に異様ですよね。でもこのシーンが描きたくて作ったお話なんです。その絵がパッと浮かんでワー!となって、みんなに見てほしい!と思って。
──1巻のあとがきにも、「女の子が我を失ってお菓子を作る話を描こうと思って描きました」とありましたね。「悪魔とドルチェ」を今ご覧になると、どんな感想を抱きますか?
シリーズものではあるんですが、全部読み切りなんです。次のエピソードを描くことが決まっているわけではないという前提で毎回描いていたので、特に1巻のエピソードは全部最終回の気持ちで描いてました。だからがんばったなあって。
──最終回の気持ち?
この回で終わってもなんの不満も生まれないという、全力投球の気持ちです。
「悪魔とドルチェ」の続きを描くとしたら…
──確かに毎回スッキリと終わっています。そういえば、花とゆめコミックスは単行本の折り返し部分にその作家のこれまでの作品と巻数が表記してありますよね。例えば「カラクリオデット」だったら「全6巻」と。「悪魔とドルチェ」はずっと「1~2巻」と続刊表記のままなのですが、これは続きを期待してもいいのでしょうか?
時間と機会があったら描きたいなあって思ってます。
──今の鈴木さんが「悪魔とドルチェ」を描くとしたら、どんな部分が変わると思いますか?
読み返したら、ビュートはずっと「お菓子、お菓子、お菓子」って言ってばっかりなんですよ。お菓子だから一見かわいく思えるけど、マユリのことを考えてなくてちょっとひどいなあって。だから続きを描くとしたら、ビュートがもっと愛情深くなって、マユリとビュートの恋愛が深まっていく様子を描くと思います。
──2017年の「白泉社即日デビューまんが賞」の講演で、鈴木さんは「投稿時代、恋愛をメインとしてストーリーが動く作品を描く自信がそんなになかった」とおっしゃっていました(参照:あきづき空太&鈴木ジュリエッタはファンタジーをどう描いてる?投稿者に伝授)。「悪魔とドルチェ」を描いていた頃、ラブストーリーに苦手意識はあったんでしょうか?
苦手意識は持ってなかったんですけど、今見ると描けてない……。でも当時は「恋愛描いてる!」と思ってたんです(笑)。ただ、苦手意識はなかったけど、マユリとビュートの仲を進展させたいという気持ちもなかったんでしょうね。2人の距離感がずっと同じまま話が進んでる。だから今描くなら、2人の着地点を決めて、それに向かって前進するように描くと思います。
──「悪魔とドルチェ」執筆時は同じ距離感で描いていた2人の仲を、今描くとしたら進めるというのは、鈴木さんの中で何かが変わった?
このときは、少女マンガを読む方が何を求めているのかよくわかってなかったんでしょうね。やっぱり2人が同じ距離でキャイキャイやってるだけじゃなくて、2人の仲がどうにかなってほしいと思いながら読む方が多いと思うんです。客観的に見れるようになったという点では、マンガ家として成長したのかもしれません。
ロボットの首は取れると思ってた?「カラクリオデット」
──次は「悪魔とドルチェ」と同じく、2005年にスタートした「カラクリオデット」です。天才科学者に作られたアンドロイド・オデットが、自分と人間の違いが知りたくて学校に行き、正体を隠しながら学園生活を送ります。
これも最初はザ花とゆめの読み切りとしてプロットを作ったんです。結局花とゆめに掲載されて、続きを描けることになってうれしかったんですけど、ロボットのことを全然知らなかった。読者の方から「このアンドロイドはロボット三原則に則ってない」と言われて、「何それ……」って(笑)。
──SF作家のアシモフが唱えた、「人間に危害を加えない」「人間の命令に服従する」「自己防衛する」の三原則ですね。確かにオデットは自分で自分の首をもいじゃったり、博士の命令に従わずに自分の目に暗視カメラを入れたりと自由です。
アラレちゃんの首がピューって取れるからロボットは首が取れると思ってたんです。
──あはは(笑)。そもそもアンドロイドの女の子が主役の少女マンガって珍しいですね。
読み切りだと、何も知らないアンドロイドのような、まっさらなキャラクターってすごく描きやすいんですよ。例えば映画でも「主人公が記憶喪失です」で物語が始まると、主人公の見るものがすごく新鮮だから観客を引き込みやすいじゃないですか。
──なるほど。「カラクリオデット」は読み切りを経て連載化しましたが、大変だった点はありますか?
学校で学生が何をしているのかわからなかった。
──勉強でしょうか。
それだとストーリーが動かなくて。「昼休みにお弁当食べてる以外、みんな何してるんだろう」「どうしよう、ネタが浮かばないから、学校を爆破していいかな」ってよく言ってました(笑)。あとずっと読み切りばかり描いていたので“読み切り脳”になってて、物語の積み重ねが難しかったですね。連載でページが使えるから、もっとキャラクターの関係を進めたり変えたりしないといけなかったんですけど、そういうのをどうに積み重ねていけばいいかわからなくて。3巻に収録された14話で初めて引きを作ったんですけど、「すごい! 引きだ!」って自分でドキドキしました(笑)。
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オデットにとって、恋愛は学ぶべき感情のひとつでしかない
- 花とゆめ17号
- 8月4日発売 / 白泉社
-
雑誌 370円
-
鈴木ジュリエッタ、待望の新連載「忍恋」が開幕! 現代に残る隠れ里。杏子は忍びの選抜試験を受けることになるが……。現代忍者ラブコメディ、表紙&巻頭カラー45ページで登場!
花とゆめ×コミックナタリー連動企画
花とゆめ17号にも、鈴木ジュリエッタが新作への意気込みを語ったインタビューを掲載!
- 鈴木ジュリエッタ「悪魔とドルチェ①」
- 発売中 / 白泉社
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Kindle版 432円
小倉マユリがママから教わったのは、悪魔の召喚方法と甘いお菓子の作り方。ある日、いつものように召喚したら、現れたのは上級悪魔のベルゼビュート!! 些細なことで呼ばれたビュートは大激怒。でも、マユリの手作りお菓子に一目惚れして……。
- 鈴木ジュリエッタ「カラクリオデット①」
- 発売中 / 白泉社
-
Kindle版 406円
天才科学者・吉沢博士に作られたアンドロイド・オデットは、見た目は普通の女の子。自分と人間との違いを知りたくて高校に通い始めたけど、アンドロイドであることは学校のみんなには内緒。友達ができたオデットは「普通の人間と同じようになりたい」と、博士に身体を改造するよう求めるが……?
- 鈴木ジュリエッタ「神様はじめました①」
- 発売中 / 白泉社
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父親が家出し、住む家もなくした女子高生・桃園奈々生の前に現れた怪しい男。「奈々生に家を譲ろう」という男の言葉を信じて彼の家を訪ねると、そこは廃神社! 怪しい男の正体は、土地神・ミカゲだった!! 奈々生は神社を譲られるかわりに、神様の仕事を任されてしまって!?
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鈴木ジュリエッタが「神様はじめました」の次に描くのは“少女西遊記”! 舞台は中国・唐。とある村に玄奘法師と暮らす少女・花果が法師様を助けるために、都・長安へ旅に出る! 少女の成長を描いた大冒険の幕が上がる!
- 鈴木ジュリエッタ(スズキジュリエッタ)
- 2004年、「星になる日」でデビュー。代表作「神様はじめました」は全25巻が刊行され、アニメ化とミュージカル化も果たした。新連載「忍恋」が、8月4日発売の花とゆめ17号(白泉社)にてスタート。