キャラよりも曲のイメージで絵を付ける
──「恋は戦争」で初めて初音ミクを描かれたときに「ツインテールで、青っぽい髪で」みたいな記号的な部分だけを残しつつ、シャープな印象の絵にされたのはなぜだったのでしょう。
曲を聴いた第一印象で、こういう感じだろうなというのがあったんです。あとは、コミケで渡した同人誌で自分の絵を見てもらった上で「次、お願いします」って言われたんで、じゃあ今回の曲に関しては自分はこれまでの方向性を変えなくていいんだなと思って、普段通りの描き方をしました。
──なるほど。初音ミクという、元からあったキャラクターからあえて逸脱させようと考えたせいではないんですね。
僕自身、そんなに初音ミクを描いたことがあったわけでもないので、あまりミクというキャラクターに対する固定観念がなかったんですよ。ただ、初音ミクの見た目というかビジュアル要素だけ残ってればあとは何やってもいいんじゃないかなとは思っていました。だからああいうものになったんです。それでも1作目はなるべく初音ミクの形を残そうと思って、衣装もわりとそのままにして描いたんですよ。やっぱりまだ、少なくともニコニコ動画には「初音ミク」っていうキャラクターが必要だと思ったので、そのへんは省けないかなと。でも、省けるんだったら省いてもいいんじゃないかなとは思いながら描いてましたね。だから2回目に絵を描いた「初めての恋が終わる時」という曲では「そろそろかな?」という感じで、ほとんどモノクロに近いくらい色を減らして、もうパッと見、ミクに見えるかどうかっていうぐらいの描き方をしたんです。あまりキャラクターに頼らないようにするというか、曲からのイメージのほうを重視しているんです。
──なるほど。1stアルバム以降、nagiさんのボーカルがフィーチャーされてからはどうなりましたか? 初音ミクを使わなくなって、どんな女の子を描くかをゼロから考えるようになったわけですよね。
いえ、nagiさんがボーカルをやることが決まったので、だったら絵もミク以外の女の子になるよなっていうだけですね。まあひょっとしたら女の子じゃなくてもいいかもしれないですけど。
──イラストの内容はどうやって決まるのでしょうか。
たいていは曲を聴いた第一印象でざっくりとラフを描いてみて、それをryoさんに見てもらって、OKって言われたらそのまんま描いちゃうみたいな感じです(笑)。あんまり細かいことは考えないというか、むしろイラストでどういう曲なのかテーマがわかりやすく伝わったらいいなと思って描いてます。
──じゃあ、曲の中に出てくる人物のキャラクター性も、そこまで意識しないですか。
そうですね、あまり小細工しないほうがいいんじゃないかと思って。あとスケジュール的にわりとピーキーで、提示されるスケジュールが「なる早で」だったりすることが多いんで、そんな小細工をしている余裕はないというか(笑)。
──nagiさんというボーカリストからキャラクターを作り出して描くということもない?
それはまったくないですね。ryoさんが想定している曲のイメージだけです。
──なるほど。それは初音ミクのときも同じだったのかもしれないですね。初音ミクというシンガーのイメージではなく、あくまで曲の中にある情景とか人物のイメージが重要だったと。
そうですね。クリプトンの作った「初音ミクというキャラクター」よりも、「ryoさんが使う初音ミク」っていう感じで捉えていたと思います。
難航したジャケットイラスト
──描く絵についてryoさんからディレクションはないんですか?
それは毎回ありますね。やっぱりryoさんの中に、曲に出てくる人物たちのイメージがあるので。だから「あの子はたぶん髪の毛が長いと思う」みたいなことを話してもらったりします。そうやって聞いたのを反映しながら描いてます。
──絵のアイデアがうまくまとまらないことはありますか?
いっぱいあります。自分が出したイメージとryoさんのイメージが合致しないことがあったりもするんで。実際、今回のアルバムのジャケットはかなり難航したんです。10曲ぐらい入ってるアルバムを総括したイメージを絵にしないといけないので、1曲に絵を付けるよりも難しいんですね。それに、今回はこのジャケットのラフを描くときにまだ曲が全部揃ってなくて(笑)。だから自分が「こうかな」と思うのとryoさんが「こうだと思う」というのが合致しなかったりして、「もうこれ以上は延ばせないんです!」っていうタイミングでもリテイクが来ました。
──この絵柄になったのはどういう着想で?
「Today Is A Beautiful Day」っていうアルバムのタイトルの印象からですね。1人の女性の一番華やかだった時期と、大人になった現在みたいな時間の経緯みたいなものをジャケットの裏表で見せられればいいかなと思って描いたんです。ジャケットの表が少女の絵で、裏に大人の女の人が描いてあるんです。
──ryoさんからは、どういう部分にリテイクが入るんですか?
いや、もう女の子の服の柄から色合いから……。最初にラフを描いたときは裏ジャケの大人の女の人が表になるイメージだったんですよ。大人と少女のポジションが逆になっていて。そうしたらryoさんが「少女が表のほうがいいかも」って言うんで、構図を入れ替えたんです。
──なるほど。最初と今では全然印象が違いますね。
もっと古い、最初に切ったラフはさらに違うんですよ。後ろを向いた女の子が並んでる絵で、自分的にはアルバムに収録されてる1曲ずつに登場する主人公をイメージして描いてたんです。すべて女子高生というか、なんか制服着た絵を描いてたんですけど、結局「別にみんな女子高生じゃなくてもいいよな」っていう話になって(笑)。じゃあ別の案にしようって話から、今の方向性になったんです。
CD収録曲
- 終わりへ向かう始まりの歌
- 君の知らない物語
- ヒーロー
- Perfect Day
- 復讐
- ロックンロールなんですの
- LOVE & ROLL
- Feel so good
- 星が瞬くこんな夜に
- うたかた花火
- 夜が明けるよ
- さよならメモリーズ
- 私へ
DVD収録内容
- 「君の知らない物語」×アニメ「化物語」コラボCM
- アニメ映画「センコロール」トレーラー映像
- PCゲーム「魔法使いの夜」トレーラー映像
- 「ヤングジャンプ」新増刊雑誌「アオハル」トレーラー映像
- 新曲「Perfect Day」Music Clip
初回生産限定特典
- supercellオリジナル全36Pフルカラーイラストブックレット封入
- supercellオリジナルデザインピック封入
- supercellオリジナルデザインケース仕様(illustrated by redjuice)
- 新曲ビデオクリップなどが収録されたDVD付き
初回限定盤イラストブックレット 参加イラストレーター
三輪士郎 / redjuice / huke / 宇木敦哉 / コザキユースケ / 優 / こやまひろかず / 粉冬ユキヒロ / なぎみそ / マクー / スガ
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター・デザイナーによって構成。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。2009年3月に発表したメジャー1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、ゴールドディスクに認定された。続く1stシングル「君の知らない物語」もアニメ「化物語」の主題歌に起用され大ヒット。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリース。
三輪士郎(みわしろう)
1978年生まれ、富山県富山市出身。1999年にウルトラジャンプ(集英社)掲載の「BLACK MIND」で商業誌デビューを果たす。現在は同誌に「DOGS / BULLETS & CARNAGE」を連載中。マンガ家としての活動のほか、イラストレーターとしても幅広いジャンルで活躍している。2008年からは音楽プロジェクトsupercellにイラストレーターとして参加。クールでスタイリッシュな絵柄で、マンガファンだけでなく音楽ファンからも人気を集めている。