ウルトラジャンプ(集英社)で「DOGS / BULLETS & CARNAGE」を連載し、洗練された絵柄とハードなストーリー展開で人気を集める三輪士郎。マンガ家としてはもちろん、イラストレーターとしても古くから活躍を続け、多くのファンから支持を受けている。
彼のマンガ家以外の顔として、サウンドコンポーザーのryoを中心とした音楽プロジェクトsupercellでの活動がある。hukeやredjuiceらとともに美麗なイラストを描き下ろし、ニコニコ動画に投稿した楽曲は大ブレイク。音楽とイラストが融合するまったく新しいエンタテインメントとして注目され、メジャーデビュー後にリリースされた作品は累計35万枚を売り上げた。
マンガ家としてもイラストレーターとしても十分な実績を持つ三輪が、なぜsupercellに参加することになったのか? 何を表現しようとしているのか? 2年ぶりのニューアルバム「Today Is A Beautiful Day」でジャケットを担当した彼に、supercellでの活動のすべてを語ってもらった。
取材・文/さやわか
最初は「プロがしゃしゃり出てきて」と言われた
──三輪さんがsupercellに参加された経緯は何だったのでしょうか。
ryoさん(supercellの中心人物で楽曲制作者)がニコニコ動画に「メルト」という曲を投稿した少し前から、自分も初音ミクの動画を観ていて。それで「メルト」で使われてた絵が知り合いの119さんの絵だったので、興味を惹かれて聴き始めたんです。
──ryoさんの音楽を最初に聴いた時に、どう感じられましたか?
初音ミクの動画がまだそんなに多くなかった頃で、機械音声を人の声に近づけて歌わせるのがなかなか難しい中で、曲の出来がずば抜けてよかったんですよね。あと僕はドラムが気持ちいい曲が好きなので「メルト」のドラムはすごい印象的でした。それでその直後のコミケで同人CDがリリースされたので、ちょっと見に行ったときにryoさんと初めて会いました。自分もコミケに出てたので、作った同人誌を差し上げたんですけれど、そしたら「次の曲の絵が決まってないんですけど、どうですか?」ってその場で言われて(笑)。「あ、やります」って即答しましたね。それが2008年前の年末で、年が明けてからぼちぼち打ち合わせして、2月22日に「恋は戦争」の動画を投稿しました。supercellの活動としては、それが最初です。
──当時「曲に対して絵を付ける」ということの新しさはあったんでしょうか?
どうなんでしょうね。曲のための絵を用意するっていうことは、自分はわりと自然にやりましたし、なんか気がついたらみんなそういうことをやってたっていう感じがありますね。当時は、今クリプトンさんがやってらっしゃる「ピアプロ」のようなシステムが普及していたわけではないんですが。ryoさんが「メルト」に使った119さんの絵は、壁紙サイトに勝手にアップロードされていたやつの無断使用だったんですけど(笑)、逆に言うとその時期はまだそれしか手段がなかったんだと思うんですよ。音を作る人も、どうやって絵を描く人にコンタクトすればいいのかわからないところがあったと思うんで。今はピアプロやpixivがあるから、曲を作る人と絵描きさんのやりとりが昔よりもやりやすくなって、みんな活動しやすくなったんじゃないかなと思いますね。
──まだ曲とイラストを組み合わせるという形式は黎明期だったんですね。
そうですね。そういう意味では、今は活動に対する受け取られ方もだいぶ自然になりました。僕がsupercellで描き始めた頃は、やっぱり「プロがしゃしゃり出てきて」みたいなことも言われましたし(笑)。あと仕事のほうでも「何やってんすか」みたいなお叱りを受けるのが定番でしたね。それに比べると、今は昔よりもみんなが受け入れてくれるようになった気がします。
──なるほど。編集者なんかからすると、最初は妙な遊びに熱中しているように見えたのかもしれないですね。
そうですね。まあ、締め切りが切羽詰まってるときの部屋の片付けと似たような感じなんですけどね(笑)。仕事としての義務感のないもののほうが、縛られることがないというか。
supercellの家長はryoさん
──マンガ家の皆さんが同人サークルで同人誌を作る一生懸命さにも似てるのでしょうか。
そうですね。そのへんは似てると思います。というか、たぶん同種のものだと思いますね。でもニコニコ動画に曲を投下していた段階では、そこまでサークルとして活動してるっていう感じはなかったですね。それに結局、曲を作るのはryoさん1人で、僕ら絵描きは1曲につき1人だけセレクトされる形なんで、サークルみたいなものとは少し違いますよね。常にコンビ活動だけど、絵描きだけ何人かいる、みたいな。カプセル怪獣的に「今日は君に決めた!」っていう感じですね(笑)。ただ曲によって担当する絵描きの傾向はあるんです。「この曲ツンツンしてるから三輪さんじゃない?」みたいな感じで。まあメジャーデビューしてからは曲調に合わせて絵描きが選ばれているというより、わりとローテーションが決まってるんですけど。
──絵を描く人が複数になったのはどういう経緯だったんですか?
しる(redjuice)さんとhukeさんを僕が紹介したんですよね。自分がsupercellに参加したのはコミケで挨拶したときの流れでそのままですけども、1曲ごとに絵描きが変わるのも面白いかなと思って。
──supercellの活動の中にいろいろな絵描きを登場させたかった?
そこまで考えていたわけじゃなくて、暇そうにしてる奴を連れて来ようと(笑)。まあ、たぶんhukeさんもしるさんも全然忙しかったと思うんですけども「ちょっと悪ふざけして遊びませんか」みたいに声をかけて。
──今後また声を掛ければ人が増えたりするんですかね?
どうなんですかね? ていうか今回のニューアルバムでも描いている人が増えてますしね。そのへんはryoさんが興味を持ったら、みたいな感じですね。ryoさんが家長ですから。
CD収録曲
- 終わりへ向かう始まりの歌
- 君の知らない物語
- ヒーロー
- Perfect Day
- 復讐
- ロックンロールなんですの
- LOVE & ROLL
- Feel so good
- 星が瞬くこんな夜に
- うたかた花火
- 夜が明けるよ
- さよならメモリーズ
- 私へ
DVD収録内容
- 「君の知らない物語」×アニメ「化物語」コラボCM
- アニメ映画「センコロール」トレーラー映像
- PCゲーム「魔法使いの夜」トレーラー映像
- 「ヤングジャンプ」新増刊雑誌「アオハル」トレーラー映像
- 新曲「Perfect Day」Music Clip
初回生産限定特典
- supercellオリジナル全36Pフルカラーイラストブックレット封入
- supercellオリジナルデザインピック封入
- supercellオリジナルデザインケース仕様(illustrated by redjuice)
- 新曲ビデオクリップなどが収録されたDVD付き
初回限定盤イラストブックレット 参加イラストレーター
三輪士郎 / redjuice / huke / 宇木敦哉 / コザキユースケ / 優 / こやまひろかず / 粉冬ユキヒロ / なぎみそ / マクー / スガ
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター・デザイナーによって構成。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。2009年3月に発表したメジャー1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、ゴールドディスクに認定された。続く1stシングル「君の知らない物語」もアニメ「化物語」の主題歌に起用され大ヒット。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリース。
三輪士郎(みわしろう)
1978年生まれ、富山県富山市出身。1999年にウルトラジャンプ(集英社)掲載の「BLACK MIND」で商業誌デビューを果たす。現在は同誌に「DOGS / BULLETS & CARNAGE」を連載中。マンガ家としての活動のほか、イラストレーターとしても幅広いジャンルで活躍している。2008年からは音楽プロジェクトsupercellにイラストレーターとして参加。クールでスタイリッシュな絵柄で、マンガファンだけでなく音楽ファンからも人気を集めている。