コミックナタリー Power Push - 月刊サンデーGX
10周年も攻めに攻める仮面編集長イチオシ新連載
GXの歴史は仮面とともにあり
──月刊サンデーGX10周年おめでとうございます。仮面編集長のお噂はかねがねうかがっていたのですが、まさか本当に仮面をかぶっていらっしゃるとは。
この仮面、実は2代目なんです。初代は瞳のところに銀のラメが入っていて、赤くメラメラ光る姿は格好よかったんですけど、前が見えなくて。歩くときはいつも人に手を引いてもらっていました。それを見えるように改良したものが、この2代目。
──一応「仮面編集長」をご存じない読者のために説明すると、島本和彦先生の「吼えろペン」に小室さん自身が極悪非道の編集者として仮面を被って登場しているわけです。GXの10年のうち、小室さんの仮面歴はどのぐらいになります?
コミックマーケットで初めて同人誌「うらじぇね」を作ったときだから、2002年にはプロトタイプの仮面が存在していたはず。仮面をかぶってのグラビア撮影という、悪ふざけとしか言えない企画があったのでよく覚えています。ちなみに当時の役職は「仮面デスク」ですね。それから「仮面副編集長」を経て、いまや「仮面編集長」。思えばずいぶんと長い時間を、仮面とともにやりたい放題してきました。
──やりたい放題(笑)。とはいえ、そういった他には真似できない勢いこそGXの魅力だと思います。
つんく♂になりたい!って言って「じぇねっ娘。」とかいう女性新人マンガ家ユニットをプロデュースしてみたり、そいつらに同人誌の売り子させたり。思い返せば、バカばっかやってますね。
──先ほどからたびたび同人誌の話題が上がりますが、商業の編集部が同人誌を作るというのも珍しいですよね。
あまりの反響の大きさに今でも社内で肩身の狭い思いをすることも。そのせいか、どこの出版社とは言いませんが「うらじぇね」を出した次のコミケから、似たような同人誌を出した会社もあるくらい。商業誌がこんなこと言うのもなんですが、同人誌は一番「GXらしさ」を出せる場所かも。
──GXらしさとは?
同人誌「うらじぇね」には、小学館のマークが表4にシャレで入っています。一部モザイクが必要な表現があったんですが、どうしてもモザイクは入れたくなくて……。小学館マークを削除するように言われました。しかし、同人誌が圧力に屈してどうするって突っぱねて……。大手出版社にいながら、こんなことが出来るのは少数精鋭のGXならではかと。
──そのアナーキーな同人誌の反響はいかがでした?
行列ができる大成功を収めました。それから同人誌作りは定番化して、おかげさまで閑古鳥が鳴いていたGXブースも今では毎回盛況を記録してます。差し入れを持ってきてくれる読者さんもいて、生酒を持ってこられたときはどうしようかと思いました。冷やしておかなきゃって、暑い暑いコミケ会場で大わらわ。読者から一升瓶もらう編集部なんて、他にありましょうか(笑)。
編集者は作家を預かっている
──特注の仮面に同人誌作り、と挑戦的な姿勢を貫くGXですが、その真骨頂はやはり連載マンガ。特に新人に関しては、浅野いにおさんなど次の世代を担う作家を多数輩出していますよね。
もともと私は週刊ビッグコミックスピリッツ編集部にいて、浅野君はそこに持ち込みにきていた新人だったんです。以来GXに異動後もずっと担当してきたのですが、なかなか気持ちのいいものが描けず悩んでいて。グルグルとした閉塞感のある作品が多かったので。あんたの感じてることは、読んでる人たちみんなが感じてること。でもマンガはエンターテイメントなんだから、その閉塞感を与えるのではなく、視点を変えればこんな見方もできるよねって、新しい見方を提案しなきゃダメなんじゃないって、言ったんです。それで仕上がったのが連載デビュー作の「素晴らしい世界」なんです。
──アドバイスというか、そこまでくると人生相談のレベルですね。ただの担当・作家の関係を超えた何かを感じます。
作家というのは生き方のひとつというか、相手は人間じゃないですか。実は浅野君は一度身体を壊して、救急車で運ばれたことがあるんです。深夜になって私が病院に駆けつけると、心細かったのか緊張の糸が解けたのか泣くんですよ。そのとき強く感じたんです。作家は預かりものなんだって。
──預かりもの……?
浅野君のお母さんは「素晴らしい世界」の一編「桜の季節」を読んで「この子のマンガ家としての将来を見てみたいと思った」と、病院でお会いした時に言ってくださった。私に、浅野君の未来を託してくれたんです。だから私は、作家の思いやメッセージを、ちゃんと作品に込めようと。適当なことはせず、きちんとパッケージして読者のもとに届けるのが使命だと思うようになったんです。
──GXに有望な新人が集うのは、そういった誠意が人を惹きつけているのかもしれませんね。
単純に、色モノ編集者揃いのハードルが低い雑誌だと舐められてるのかもしれませんよ。表向きは、やりたい放題の雑誌ですし(笑)。
あらすじ
南アフリカ共和国最南端の街・ケープタウン。そこには一人の天才的な技術を持つ楽器修理の専門家が住んでいます。彼女の名前はコーネリア・ボボ・ウォッシャー。彼女の手にかかれば、どんな楽器でもその音色を取り戻すことができると言われています。今日もまた世界各地からやっかいな楽器の修理依頼が飛び込んでくるのですが……。
彼女が直すのは楽器ばかりではありません。時には依頼者の心をも癒やすことがあります。依頼者の心に秘めた思いが、時を越え、国を越え、さまざまな障害を越えて、届けたい人の元に届くように……。 彼女の手にかかると、そんな小さな奇蹟が起きることがあったりするのです。さて、今回の依頼とは?
金宣希(キム・ソニ)
1973年ソウル生まれ。出版社でバイト中に「自分ならもっとうまく描けるかも」と思い立ち、25歳の時にマンガ賞に応募し受賞。応募作「アキ・タイプ」でデビュー。
尹仁完(ユン・インワン)
1976年ソウル生まれ。韓国にて梁慶一氏と組んで『デ・ジャヴ』で原作者デビュー。代表作に「新暗行御史」や週刊少年少年サンデー(小学館)に連載中の「ディフェンス・デビル」などがある。趣味はネットサーフィンとゲーム。
掲載作品
高橋しん「ヒミツキチ」/やまむらはじめ「神様ドォルズ」/宮下裕樹「正義警官モンジュ」/犬上すくね「あいカギ」/佐藤まさき「釣りチチ・渚」/高橋慶太郎「ヨルムンガンド」/榎本ナリコ「聖モエスの方舟」/尹仁完+金宣希「WESTWOOD VIBRATO」/真島悦也「コイネコ」/若狭たけし「仮面ボウラー」/花見沢Q太郎「REC」/松山せいじ「鉄娘な3姉妹」/金月龍之介+KOJINO「ぷりぞな6」/陽気婢「ドクター&ドーター」/楠桂「八百万討神伝神GAKARI」/イダタツヒコ「星屑番外地」