コミックナタリー PowerPush - 週刊少年サンデー
「サンデーの未来にどんなことが起きても、すべて僕の責任です」週刊少年サンデー新編集長が語る、“作家を育てる雑誌”への回帰
今年7月、出版業界をひとつのニュースが駆け巡った。長きにわたりゲッサンの編集長を務めていた市原武法氏が、週刊少年サンデー(ともに小学館)の編集長に就任したという。8月19日に発売された週刊少年サンデー38号には、市原氏の所信表明が掲載されている。
あだち充をはじめとする作家を長年担当し、新人育成に力を注いできた市原氏。ゲッサンを率いて、石井あゆみ「信長協奏曲」など数々のヒット作を世に送り出してきた。コミックナタリーは生粋のサンデーっ子だったと語る市原氏に、編集長就任の心境を伺うべくインタビューを敢行。また改革とも呼べる、新たな編集方針についても詳しく聞いた。
取材/安井遼太郎 文・撮影/熊瀬哲子
絶対になんとかしなければならない
──ゲッサンの編集長からサンデーの編集長へと異動の打診を受けたときは、どういった心境だったんでしょうか。
ゲッサンは自分の責任において集まってもらった作家さんたちと作った雑誌だったので、離れることは大変無念でしたし、つらいことではありました。だけど僕は小学生の頃から生粋のサンデーっ子で。今のサンデーの現状にまったく満足していなかったんです。サンデーがなければこの会社に入っていないし、あだち充というマンガ家さんがいなければ、おそらく小学館の入社試験を受ける気も起きなかったと思います。なので自分の愛する雑誌を任されたというのは宿命を感じましたし、絶対になんとかしなければならない、という強い気持ちがありました。
──先ほど「現状に満足していない」と言われましたが、具体的に今のサンデーにどういった印象をお持ちでしたか?
「週刊少年サンデー」というマンガの文化というか、風土といいますか、そういったものが好きなマンガ家さんや読者の方というのは、今もいっぱいいると思うんですよね。ただこの10年くらいは、そういったものを継承していく新人や若い作家さんたちがチャンスをもらえていなかった。それが低迷の最大の原因だったと思っています。
──これからは新人を育てることに注力するということでしょうか。
生え抜きの新人作家を育成して輩出するという雑誌に戻さないと、未来はないと思っています。とはいえサンデーの歴史を作ってきた作家さんたちに対する敬意も忘れてはいけない。現状のサンデーにおけるもうひとつの問題として、今までサンデーを支えてきてくれた作家さんたちを本当に大切にしてきたのかということも感じていて。結果サンデーから離れていかれた作家さんたちもいるので、そういった方々に戻ってきていただかないといけないということも考えています。藤田和日郎先生、西森博之先生、久米田康治先生。この3名には一刻も早く帰ってきてほしいと思っています。
葛藤なんて何もない
──市原さんが編集長になったことで、編集の方針としてどういったところに変化が生まれるのでしょうか。
改革の中枢として、新人作家さんの読み切りのネームから連載企画のネームまで、全部僕1人でOKかボツかを決定することにしました。普通マンガ雑誌の編集部には月例賞に送られてきた作品を読む班があって、一次選定もその班が行うんですが、それも全部やめまして。月例賞の選定も含めて、マンガに関わるすべての決定は僕1人だけでやります。
──おお。
今も作家さんたちへの挨拶に回っているところなんですが、「サンデーはどういう基準でマンガを選んでいるのかわからない」という声をよく聞くんです。なので「今後は僕の独断と偏見と美意識で決めます」ということを明確に伝えています。「これからのサンデーの運命に関しては、どんなことが起きようとすべて僕の責任です」と。つまらなくなった場合にも、それは全部僕のせいです、と。
──それって勇気のいる判断だと思うんですが、プレッシャーは感じないんですか?
感じないですね。
──編集長として葛藤したりとか。
葛藤なんて何もないです。つらいとか悲しいなんて気持ちも一切ない。楽しいですよ、毎日。まあ、睡眠時間は厳しいですが(笑)。
──(笑)。実際問題、週刊マンガ誌のすべての企画を1人で目を通すというのは、物理的に可能なんですか?
可能です。それしかやらなければいいんです。なので本来編集長がやるべきさまざまな業務は、心強い味方である副編集長2人に任せています。
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- 週刊少年サンデー38号 / 2015年8月19日発売 / 270円 / 小学館
- 週刊少年サンデー38号
2015年38号ラインナップ
佐倉準「湯神くんには友達がいない」/草場道輝、原案協力:本田圭佑「ファンタジスタステラ」/原作:堀祐介、作画:山仲剛太「アンペア」/田中光「レタス2個分のステキ」/ひらかわあや「天使とアクト!!」/田口ケンジ「姉ログ」/藤沢とおる「おいしい神しゃま」/浦山慎也「リオンさん、迷惑です。」/一色美穂「さえずり高校OK部!」/渡瀬悠宇「アラタカンガタリ~革神語~」/バコハジメ「ドリー・マー」/コトヤマ「だがしかし」/青山剛昌「名探偵コナン」/田中モトユキ「BE BLUES!~青になれ~」/空詠大智「競女!!!!!!!!」/原作:西森博之、漫画:飯沼ゆうき「何も無いけど空は青い」/片桐了「tutti!」/東毅「電波教師」/大高忍「マギ」/福地翼「サイケまたしても」/松江名俊「トキワ来たれり!!」/高橋留美子「境界のRINNE」/萬屋不死身之介「キャラクタイムズ ゴールデン」/原作:七月鏡一、作画:梁慶一「AREA D 異能領域」/満田拓也「MAJOR 2nd」/若木民喜「なのは洋菓子店のいい仕事」/二階堂ヒカル「ヘブンズランナーアキラ」/土星フジコ「戦争劇場」
市原武法(イチハラタケノリ)
1974年生まれ。1997年、小学館に入社。少年サンデー編集部に配属され、あだち充、田辺イエロウ、モリタイシらを担当。2010年よりゲッサンの編集長を務め、新人作家の育成に力を注いできた。2015年7月、週刊少年サンデーの編集長に就任。好きなテレビ番組は「水曜どうでしょう」。