映画「空の青さを知る人よ」長井龍雪(監督)×岡田麿里(脚本)×田中将賀(キャラクターデザイン)|“超平和バスターズ”の新たなチャレンジ

キャラデザが変化する過程、楽器を描く大変さ

──今回は描くキャラクターの年齢層も幅広いですが、キャラクターデザインはどんなふうに練られていったのでしょうか。

田中 全キャラクター通じてなんですが、今回「マンガっぽい絵柄にしたいな」って思いが自分の中ではあって。

岡田 やっぱりそうなんだ!

田中 「ここさけ」のときはややリアル寄りに、マンガ的なポイントをあまり付けずに描いたんです。今回は絵柄的には若干温度を上げたいなと思って、特に脇のキャラクターをマンガっぽくしようと。最初のアイデアはもっとピーキーに振っていて、そこから削っていったんですが、正嗣の目がその名残ですね。

──いわゆる“ジト目”的な、真ん中でばしっと切ったような目のデザインですよね。

田中 正道も最初はもっと髪の毛がもじゃもじゃしていました。あかねは、自分がストックしていたキャラクターデザインを岡田さんが気に入ってくれて。そういう意味ではけっこう自分の癖が乗っかってるキャラクターですね。

岡田 これしかない!と思ったんです。あかねの性格はかなり絵ありきですね。もう脚本を書き出していたんですが、「この絵だったらこういうセリフも言わせられるな」とかって。

田中 あかねのデザインは、最初はもっと幼かったんですよ。でも岡田さんの書くあかね像や、役者さんの声が乗っかったことでさらに印象が変わったんですよね。それでアニメ的なかわいい絵柄のキャラクターが、どんどん大人びていったというか。どのキャラクターもそうなんですが、あかねに関しては4人の中で一番、「あかねってこういうことなのか」って発見のなかでできあがったキャラだと思います。やっぱりなかなかアニメで30代の男女をちゃんと描くことってないので、慎之介とあかねの芝居を描くのは本当に楽しいですね。

──また作画の面でいうと、楽器や演奏の描写も予想以上にたくさんあったので、かなり大変だったんじゃないかと思いました。

長井 大変でした。

田中 想像以上に大変でしたね。

長井 申し訳ない気持ちでいっぱいです。

田中 いやいや(笑)。

──具体的に何が大変でしたか?

田中 演奏シーンはいわゆるロトスコープの手法を使っているので、描くべき動きは定まっていたんです。でも自分は全然楽器をやったことがないので、例えば何気なくベースを下げているときに手をどこに置いているのか、ストラップをどういう動きで付けるのか、楽器の経年劣化感をどこに表現したらいいのか、といった演奏以外の部分が難しかったですね。管楽器も出てくるんですが、作画監督に管楽器をやっていた方がいらっしゃって、見てもらったら「そのパーツには指を置かない」「そうは持たない」って指摘してくださって。そういう難しさっていうのは、やればやるほど感じました。

長井監督の愛されポイント

──本作は8年前にTVアニメの「あの花」を観ていた世代にもすごく響くんじゃないかと思いますが、皆さんは「あの花」から8年であるとか、今の時代においてアニメをどう届けるか、といった時代に対する意識は何かありますか?

長井 どうだろう? あんまりないような気がします。「あの花」の頃って今に続く深夜アニメの全盛期で、わかりづらい話やチャレンジングな話でも、深夜アニメならやっていいよっていう雰囲気が、たぶんちょっとあったんですよね。

──それは視聴者的にもなんとなくわかる気がします。

長井 そういうふうに自由にやらせてもらえる空気がずっと残ったまま、ここまで来られたような気がします。取り巻く環境も細かくは変わってるんでしょうし、自分も成長しててほしいなって思うんですけど、根っこは変わらずにきたのかなって。

──長井監督の根っこ的なものというか、例えば「空青」において、おふたりから見て「長井監督らしいな」と感じるポイントってどんなところなんでしょうか。

田中 やっぱり、感情をぶつけ合っているシーンのカメラの置き方がうまいですね。「空青」で言うと、しんのにあおいが気持ちをぶつけるシーンがあるんですが、ほとんどあおいの表情を映さずに、しんのにフォーカスをあてるんですよね。ああいうカメラの置き位置は面白いです。

岡田 あそこはすごく長井くんっぽいシーンだよね。シナリオはあおいが主人公という意識で書いてたんですが、コンテを見たときに、あおいがヒロインになっているなと感じたんですよ。もちろんあおいが描かれているんですけど、カメラの撮り方で想像とちょっと違う感じになったんです。もちろんいい意味で。しんのの心を、あおいが揺さぶっているのがよくわかるというか。

田中 外し方のうまさというか、表情を見せるのってひとつの正解ではあるけど、限定しちゃうものでもあるんですよね。長井さんは表情をそのまま見せるんじゃなく、それ以外のところでうまく表現する。

岡田 本当に、キャラの立ち位置ひとつにも気持ちがついているし、監督の考え方がついている。

田中 この人が一番雄弁なのは絵コンテなんです。絵コンテにすべてをぶつけるので、こんなに口下手なんですけど(笑)、やっぱりすごく信用できるんですよ。

長井 絵コンテ描いてるときはいろいろ考えてるんです(笑)。あまりにも僕がコミュ障で口下手なので、あとからどうこうすることがなかなかできないんですよね。だからなるべくコンテで全部言い切れるように、読んでもらったらわかるって状態まで持って行けるようにはしています。

岡田 どんなに難しい指示があっても、コンテのあがりが素晴らしいから「なるほど、この絵が欲しいなら仕方ない」って納得できてしまうんですよ(笑)。

長井 ありがたいです(笑)。