小さい頃から手放せない、我が家の“主”
──本を読む以外だと、林原さんの日常生活でスヌーピーはどんなところに関わっていますか?
小さい頃から手放せないのが、我が家で“主(ヌシ)”と呼んでいるぬいぐるみ。昔は自分との対話みたいな形で使っていて、Twitterのない時代に独り言のようなものをつぶやくような相手だったんです。「今日はあんなことがあった、こんなことがあった」と報告すると、まるで原作のスヌーピーの口調を借りて助言や解決策が自分の中から聞こえてくるんです。
──そんな主からの言葉で印象深かったものというと?
あるとき、ぬいぐるみの体がもうボロボロで、腕のところから中の綿が見えちゃってたんですよね。なんか悲しくなっちゃって「あんた、古くなっちゃったね」なんて話しかけながらほつれを縫ってたら、「人間も同じなんだけどね。体はボロボロになっても、ここ(心)は変わらないよ」って言葉が私の心の中に響いてきて。あの言葉は自分が歳を重ねてみて、本当にその通りだなと改めて感じます。10代の頃と変わらない自分が20代にいるし、20代の頃と変わらない自分が30代にもいる。50歳になるって、とんでもなく世の中のことがわかるようになると思ってたけどそうじゃない。見える世界は変わるけど、体ってただの入れ物なんだなということを教えてもらいました。
──今でも、そういうアドバイスみたいなものが降ってくることはありますか?
集中豪雨みたいな雨がワッと降ったとき、家の屋根がものすごい音を立ててけっこうな間うるさかったんです。家族と「いつまで降るんだろうねえ」とか言ってたら、“ヒゲくん”と呼んでいるスパイクのぬいぐるみが「お屋根があるだけありがたい」って言っているようで。私も声優なので、家族の前でぬいぐるみに声をあてることとかもあるんです。それをアテレコしてみせたら、うちの娘も「確かに……」って納得してました(笑)。
──あはは(笑)。今も再現してくださってありがとうございます。
あと最近は、家にオラフのグッズがあふれていて。娘が好きなキャラクターなんですけど、ユニバ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行ったクラスの友達がお土産で買ってきてくれたりして着実に増えていってますね。すでに自分が持ってるのとかぶっちゃうこともあるんですけど、構わずうれしそうにしてるので私の血を継いでるなと。オラフと結婚したいとか言ってるのは、何言ってんだって感じですけど(笑)。
全巻セット、お子様にいかがでしょう
──2月下旬、復刊ドットコムから「SNOOPY BOOKS 全86巻 豪華ボックスセット」が刊行されます。これは1987年に角川書店から発売された「SNOOPY BOOKS 55周年記念復刻版 全86巻」の復刊版なんです。いわば、林原さんがお持ちになっている鶴書房の初版「PEANUTS BOOKS」の復刻の復刻というか。
パッケージとか表紙とか、若い世代の人たちが好きそうなデザインだなと思います。鶴書房のはブルーの背表紙で、内容の濃さに比例して重厚感がある感じ。こちらはもう少しポップで、スヌーピータウンショップとかで「わー! シャーペンかわいー!」って言ってるような子たちも手を伸ばしやすい感じというか。「えー何? こんなにいっぱいお話あるのー?」みたいな感じで読み進めてもらえたらいいですね。
──林原さんは初版を山崎さんから譲り受けましたが、ご自身がこれをプレゼントするとしたらどなたを選びますか?
そうですね、読み聞かせみたいなことをサークルで行っている知人にあげたいなと思います。いつもの場所に置いてもらって、そこに出入りする子供たちがいつでも読めるようにできたらなって。
──どんな世代でも楽しめますよね。
かつての私みたいに歯抜けで買ってた人が一揃えして、お子さんとかお孫さんと一緒に読んでみるとか。お互いに食いつくところが絶対違うと思うんですけど、それはそれで面白いんですよね。世代をつなぐ意味でも、大人の方はお子様にいかがでしょう。誰も死なないし、怪我しても治るし、穏やかな日常が流れていて。全86巻もあるので、百科事典のような感覚で楽しめると思います。
スヌーピーに一言声をかけるとしたら……
──スヌーピーマニアの林原さんに、「ピーナッツ」の世界の魅力をずばり一言でまとめてもらってよいでしょうか。
……温度、でしょうか。冬はアイススケートをして、秋は枯れ草が山盛りになって。スヌーピーの世界には季節の移り変わりがあります。あのファサッとした枯れ草に入るのって気持ちいいだろうなってずっと憧れていて、学校の社会科見学で枯れ草から腐葉土を作る施設に行ったときにやらせてもらったのを思い出します(笑)。
──(笑)。
その季節感ってスヌーピー特有な気がします。あとは手を握ってポッとなったり、スヌーピーの鼻先が冷たかったり、ウッドストックの毛がわさわさしてたり。季節があって、キャラクターに体温を感じる。それが私にとっての「ピーナッツ」の魅力ですかね。彼らは年齢的な成長こそしないですけど、そういう意味で止まっている感じがしないというか、生きてる気がします。
──なるほど。最後に、2020年で70周年を迎えるスヌーピーに、何か声をかけるとしたらどのような言葉になるでしょうか。
スヌーピーに言葉をかけるとしたら……「『それは暗い嵐の夜だった』の小説が出るといいね」って(笑)。
──あはは(笑)。小説家になりきって、タイプライターでよく打っている物語の冒頭ですね。一度だけ出版が叶ったらしいですが、たった1冊のみだったという。
いつも出だしを打ってるところでオチがついちゃうので(笑)。いつか全部、読めるといいなって思います。
いつのまにかスヌーピーのグッズが増えてしまったという林原が、
自宅から持参したアイテムの一部を自ら紹介!
- 「スーパー スヌーピーブック」
-
1985年に角川書店から発売された、ピーナッツ生誕35周年の記念本なんですけど、知らないエピソードがたくさん載ってて、舐めるようにして読んだなあ。初めてお小遣いで買ったスヌーピーグッズで、そういった意味でも“記念本”です(笑)。
- 「PEANUTS BOOKS」全86巻セット
-
これが山崎たくみくんにもらったもの。「本当に欲しい人のところに行くほうが幸せだから」って言ってくれたのは、普段の自分もこうありたいなって思わされました。
- 主(ヌシ)
-
洗濯は何度したかわからない、グレーのぬいぐるみ。身振り手振りをつけるのもお手の物です。子供ができてからは、これで泣き止ますこともしばしば。私が死んだときは、一緒にお棺に入れてねって頼んでます(笑)。
- 「スヌーピーの初恋物語」
-
あとがきに、恋とスヌーピーを絡めたエッセイを寄せています。オファーを受けたときは、「そんな難しいこと……」と思ったんですけど。
- テレフォンカード
-
テレフォンカード集めが趣味でした。ラジオをやるようになってイベント会場の土地で買ってきたり、ファンの方がプレゼントしてくださったり。もう今はない三和銀行のカードがあるのも時代を感じますよね。ちなみに三和銀行は通帳とカードの絵柄がスヌーピーだったので、親に頼み込んで口座を作ってもらったのを覚えてます。
- 「SNOOPY BOOKS 55周年記念復刻版 全86巻」
-
角川書店から発売された全巻セットです。「SNOOPY BOOKS 全86巻 豪華ボックスセット」はこれの復刻ということなんですね。
- マクドナルドのハッピーセット
-
世界中の衣装を着たスヌーピーのフィギュア28体セットは、ファンの人からもらったもの。収納ボックス付きで、組み立てると雛人形のようにフィギュアを飾ることができるんです。