「スクライド」「コードギアス 反逆のルルーシュ」シリーズなど、濃密な人間ドラマと迫力ある映像表現を兼ね備えた数々の傑作アニメを世に送り出してきた谷口悟朗監督。彼が総監督を務める新作「スケートリーディング☆スターズ」が、1月から放送中だ。個性豊かな男子高校生フィギュアスケーターたちの頂点に君臨するのが、圧倒的カリスマ性を誇る神童・篠崎怜鳳(しのざきれお)。彼を演じる神谷浩史は、謎めいた篠崎の内面をどう捉えたのか? 「猛烈にスポ根少年マンガ」だという「スケスタ」の見どころを聞いた。
取材・文 / ひらりさ 撮影 / 入江達也
「個性的なアニメになるだろうな」と思いました
──1月から放送中のオリジナルアニメ「スケートリーディング☆スターズ」。最初に作品の話を聞いたときの印象を教えてください。
あの谷口悟朗監督がまったく新しいフィギュアスケート競技の作品を作るということで、「個性的な、変わったアニメになるだろうな」と思いました。オーディションに参加して出演が決まったのですが、キャラ表をいただいた時点では、「これは20代の方たちが中心の作品になるだろうから、自分はどうだろう……」という印象でしたね。
──フィギュアスケート自体にはもともと詳しかったんでしょうか?
特定の選手の方を応援しているとかはなくて、世界選手権などが放送していたら日本代表を応援するという程度で、それほど詳しくはないです。ましてや「スケスタ」で描かれるスケートリーディングは、既存のフィギュアスケートとも違ったスポーツ。どんな映像になるのかも当初は全然わかっていなかったです。アフレコでは、振り付けを担当されている方たちが床の上で踊っている実写映像を観て、イメージを膨らませて……というやり方でした。
──実際に完成したスケートリーディングの映像を観たときの感想を聞かせてください。
「すごい! J.C.STAFF!」の一言に尽きます。氷上での演技シーンはアニメーターさん方による作画ですからね。
──想像以上のスピードと、きめ細やかな表現でキャラクターが舞い踊るので、本当に驚きました。学校ごとの演技の特徴も、見事に表現されていて。
アニメにおけるスポーツ表現って、どこまでリアリティを出すかとても難しいと思うんですよ。例えば本作でいうと、ジャンプや着地など、氷上での演技中の息づかい表現を入れるか入れないか検討中である、というお話をアフレコ収録時にお聞きしました。そうしたものが入っていると動きのリアリティだったり、力加減が伝わりやすくはなるんだけど、泥臭さが出過ぎてしまう部分もある。結果、「スケスタ」ではそちらには行かず、優美で美しい、この世界独特のものを表現するほうに振り切った、ということだと思います。なので我々は息づかいなどのアドリブは一切入れていません。
篠崎のウィークポイントについて谷口総監督からヒントをもらった
──その中でも他の追随を許さない、圧倒的な演技を見せるのが神谷さん演じるカリスマ・篠崎怜鳳です。どんな気持ちでオーディションを受けたのでしょうか。
実は篠崎と、彼の異母弟であり、主人公の1人でもある流石井隼人の2役を受けさせていただいたんです。先ほど言ったように、想定年齢だけでなく、谷口さんの作品やキャラクターを自分はモノにできるだろうか、という意味でも、なかなか手強いオーディションになるだろうと考えていました。ですから、いざ篠崎の役をやらせていただける、となったときは意外な気持ちもありました。
──神谷さんによる流石井、という演技が存在していたんですね……! 篠崎は、これまでに神谷さんが演じたキャラクターの中でも、か細さとかわいらしさがある声で、意外性がありました。
あえて周りに聞こえているのか聞こえていないのか、ギリギリのところを意識していますね。相手に自分の言葉を届かせようとしていないのが、篠崎なのかなと。
──オーディションは、どんなイメージで臨みましたか。
テープで演技を録音してお送りするテープオーディションの形式で、マネージャーとも相談しながら演技プランを考えたのですが、篠崎はやはり大変でした。本編でもそこまでしゃべるキャラクターではないですし、シンプルに天才肌、というのが第一印象だったので。役が決まった後、アフレコに入る前に、谷口さんから篠崎の話をいろいろとお聞きして、「なるほど」と思った部分もありました。
──主要キャストを集めて谷口さんご本人が説明を行った前打ち合わせですね。以前、前島絢晴役の内田雄馬さん、流石井隼人役の古川慎さんの対談を取材した際にもその話が出ました。篠崎については谷口さんからどんな言葉があったんでしょうか?
完璧に見えるけれど、彼もある種のウィークポイントを持っている人間。そのウィークポイントについて谷口さんからヒントをもらい、そこをとっかかりとして、僕の中の篠崎を作り上げていきました。その核心は、ここではまだ言わないでおきたいですね。彼の内面が回を追うごとに見えてくるのが「スケスタ」の面白さでもあると思うので、ぜひアニメを観て感じとっていただきたいです。前島目線で物語を追っていると、もしかしたら見逃すかもしれませんが。
彼に共感できる人ってなかなかいないんじゃないかな(笑)
──「スケスタ」本編は、現在、日本中の強豪校が集まるグランプリシリーズの真っ最中。先日放送された第8話「王者」では、前島・流石井擁する戌尾ノ台高校と、篠崎の所属する聖クラヴィス学院高校との接戦が描かれました。そこでの篠崎の言動には「クールな天才に見えたけど……けっこう本能的な人間なのか」という驚きがありました。
まさに篠崎が前島を気に掛ける理由でもあると思うんですけど、実は彼は、前島と共通する部分も持っているんですよね。前島が自分をまだコントロールできていないのを流石井が口八丁手八丁で導いていくのに対して、篠崎は自分で自分を徹底的にコントロールできているだけで。
──以前はシングルの王者で、高校からスケートリーディングに転向した篠崎。聖クラヴィス学院で浮いていないのかな……と思いましたが、メンバーと統率の取れたチーム演技を見せたのも意外でした。
彼自身は1年生だし、チームを率いるといったことはキャプテンの氷室に任せて、自分との戦いに集中しているのかなと思います。「チームの中心に君臨する」ことだけをやっている。
──作中では、チームメンバーの倉吉があれこれと世話を焼くことで、周囲との関係が成り立っていますよね。アフレコでは、聖クラヴィスのキャストと何か話をすることはありましたか?
特に学校のメンバーで、というのはなかったです。昨年の早い時期のお仕事だったので、幸い、アフレコはみんな集まって収録することができたのですが、とにかく男ばかり大人数で、どこに誰がいるかわからない状態(笑)。僕はずっと内田くんと古川くんの間に座っていたので、ほかの方たちもそうですが、同学校のキャストで固まる、という感じではなかったですね。でも、それが篠崎の立ち位置的にも自然だった気がします。
──篠崎と自分が似ているなと思う部分はありますか?
いえ、ないです(笑)。彼に共感できる人ってなかなかいないんじゃないかな。口数が少なくて自分についての言語化をしないところも、全然違いますね。僕は、言い訳しちゃうし、人とコミュニケーション取りたいですし。……あえていうなら「必要なことはやる、必要ないことはやらない」というスタンスは、ちょっと理解できるかもしれない。篠崎は自分がやるべきことだけに集中しているので。
──なるほど。自分以外のすべての人間が眼中にないように見える篠崎ですが、弟の流石井と対面するシーンでは、揺らぎがあるようにも思います。
篠崎としても、肉親である流石井に関しては、ほかの人とは違うんでしょうね。具体的にこういうところが違う、とはなかなか説明しにくいですが。篠崎の中には、ONとOFFがあって、自分の才能を発揮している場面と、そうでない日常では全然違うんですよね。でもこのON・OFFってあくまで篠崎基準の話で、ほかの人からは全然わからない。スケートにかかわるものに関してはONモードなんですけど、流石井の前だとそれがちょっとずれる感じなのかなと思います。
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久遠寺は学校名からしてインパクト大