TVアニメ「イエスタデイをうたって」 藤原佳幸監督×古屋遙(宣伝プロデュース)×ユアネス・古閑翔平(主題歌)インタビュー|人の“揺らぎ”を鮮やかに描き出す、不朽の青春群像劇

誰もカロリーを制御しようという気がない

──インタビュー後半では本作の主題歌にスポットをあててお話を聞いていきたいんですが、まず本作はオープニングがないんですよね。

古屋 はい。それは監督のご希望なんです。

藤原 「尺をください」ってお願いしました(笑)。アニメの尺に対する適切なシナリオの分量って、だいたい経験知でわかるんですが、本作の場合は同じシナリオの分量でも、会話していないところの間がもっと必要だと思ったんです。1分30秒あれば間が調節できるなということで、最初にお願いしました。

──そしてエンディング曲は1話から6話までがユアネス「籠の中に鳥」、7話から9話までがさユり「葵橋」、10話・11話が原作タイトルの元となったRCサクセション「イエスタディをうたって」のカバーと変わっていきました。

第1話から第6話までのエンディングプラン。

古屋 本作は群像劇なので、エンディングでも群像劇をしていきたいと思い、藤原監督にエンディングの構成や演出についてご提案させていただきました。6話までは1話ごとにフィーチャーされる登場人物が変わっていって、7話目から陸生と榀子の間柄が変化していく、そして10・11話で群像劇が加速して動き出し、いわば修羅場のような場面が出てくる。そういったアニメ本編の展開に合わせて、エンディングも変えていきました。そういった「本編をどう広げられるか」という演出的な視点に加えて、「どう話題を作っていくか」という宣伝的な視点もありました。

──とはいえ、オープニングをなくして尺を増やせば、それだけ描く枚数も増えますし、エンディングを3曲用意するということで、3倍の労力がかかるわけですよね。

藤原 しかも1話から6話までのエンディングもちょっとずつマイナーチェンジしているので、3倍以上です。誰もカロリーを制御しようという気がないんですよ(笑)。みんな足し算で作っていって、自分の首を絞めてます(笑)。

──それだけ作品愛のあるスタッフが集まってるんですね。ちなみに古屋さんは今回エンディングを中心に宣伝も関わられているということですが、そもそも映像演出系のお仕事をされていて、アニメの宣伝が本業という感じではないですよね。

古屋 そうですね。実写ドラマの宣伝やミュージックビデオの制作、例えば大河ドラマ「おんな城主 直虎」のオープニング映像やグラフィックなどを担当しました。「イエスタデイをうたって」に関して言えば、普段アニメをあまり観ない人にも刺さるポテンシャルがある作品だと思ったので、エンディングに実写の要素を盛り込んだり、音楽で複数の入り口を作るすることで、アニメ好き以外の方にも興味を持ってもらえるきっかけを作れればと思いました。

藤原 キービジュアルもアニメとは違うセンスを感じました。

古屋 ありがとうございます。キービジュアルは“フランスの実写恋愛映画”をテーマにしていました。

──ちなみに監督には「実写っぽくしたい」という意図はありましたか?

藤原 実写っぽさというか、“生っぽさ”というのはあるかなと思います。「今、ここで感情がちょっとだけ変化した」というような微妙なニュアンスを表現したいというのはあったので、劇伴は控えめにしたり。キャラクターの芝居に関してもすごく上手な人ばかりだったので、「(陸生役の)小林(親弘)さん、今舌打ちしたな。じゃあ作画も足しておこう」とか、息を吸う芝居があったら動きを足したりしてましたね。

映像と曲が100:100で活きるエンディングに

──エンディング曲についても1曲ずつ伺えればと思いますが、まずユアネスの起用の経緯について教えてください。

古屋 群像劇の主題歌という事で、今回劇伴を担当されたagehaspringsさんや音楽プロデューサーと話をしていく中で、ユアネスさんの楽曲を聴く機会があって。「日々月を見る」という曲で、葛藤や心情が丁寧に描かれた歌詞、優しい歌声と雰囲気に惹かれました。古閑さんの歌詞は非常に物語性があって、かつ男女両方の視点で書かれている。作品に寄り添える映像的な曲作りができる方だと思ってお願いしました。最初にデモとして弾き語りの音源をいただいて、それも皆さんに聴かせたいくらい素敵なんですよ。そこからさらに1話ずつアニメ本編の内容に合わせて、映像と曲の構成を微調整しながら作っていきました。

古閑 初めてのアニメ主題歌だったので、全力で曲を作るのはもちろん、これまでと違って、自分が納得するだけではダメだと思っていましたね。映像と曲が、100:100でお互いのよさを出せるよう、どうしていくかをすごく考えました。

古屋 1話から6話でそれぞれフィーチャーされるキャラが違うんですが、「籠の中に鳥」の歌詞は毎回同じ歌詞が流れていても、それぞれのキャラの目線のように感じられるんですよね。それがすごく素敵だと思っていて。

古閑 ありがとうございます。エンディングは余韻をあずかる大事なところでもあるし、ましてや1話で流れるエンディングって、次を観るかそこで観なくなるかを握るものでもあるので、観ている方がしっかり感情移入できる歌詞じゃないといけないと思っていましたね。アニメ主題歌だと、歌詞から物語の展開や意図を読み取る人もいるじゃないですか。なので、原作を読んで気になったセリフを全部書き出していって、それをどう抽象的に表現できるか考えて、練り込んでいきました。

──すごく手がかかってるんですね……!

古閑 あとはヒロインが2人いるので、どっちかに僕が肩入れをしてしまったら、観る人が曲に引っ張られてしまうかもしれない。そこはフラットに捉えられる歌詞にしなきゃいけないというのは、特に心がけました。またヒロインだけでなく、主要なキャラクターでいえば、男女2人ずつ計4人いるので、歌詞のどの一説を切り取っても、それぞれのキャラクターの立場から意味を汲み取ったり解釈できるような言葉になるように、丁寧に書かせていただきました。

──また「籠の中に鳥」は、全編「イエスタデイをうたって」の映像を使ったミュージックビデオも公開されていますよね。

古屋 放送の1クール前に全話仕上がっていることはアニメ業界では稀なケースで、しかもクオリティがすごく高いので、どんどん映像を出していこうということになったんです。オンエアが始まってすぐに公開したんですが、実は1話から12話まで、すべての話数のカットを使っているんですよ。

藤原 原作も完結していますし、冬目先生の作品って結末や展開を知っているからつまらなくなるというものではないので、その過程の空気感や、言葉に言い表せない微妙な心の動き、そういったところがちゃんと出せれば、魅力が損なわれることはないと思ったんです。とはいえアニメの構成上、「次どうなるのか?」という引きは、あざといぐらい作ってますけど(笑)。

──特に後半は毎話「ここで終わるのかー!」ってなりました(笑)。続いて、7話以降のエンディングをさユりさんにご依頼された意図はどんなものだったのでしょうか?

古屋 1話から6話までに登場人物が出揃って、7話から陸生と榀子の関係が進展して、晴を応援したくなるような展開に変わっていく中で、その裏側で晴は何を感じているんだろう?という部分を、エンディングで補えないかと思ったんです。さユりさんの今までの楽曲から、片思いで本当はつらいけど、強気なスタンスを崩さないという、晴との共通点を感じて楽曲の書き下ろしからお願いしました。

古閑 僕も同じ作品に曲を書いた立場として、「こういう歌詞を書くんだ」という発見がありました。女性目線での歌詞の書き方は、どうしても自分では感じ取れない部分もあるし、女性が歌うから聞き取りやすいメロディもあったりするので、その表現がすごくいいなと思いました。

藤原 晴ちゃんの存在感がエンディングで増していって、いじらしく思えるのがすごくよかったです。

──そして10話からの「イエスタディをうたって」の使用は、事前の告知もなかったので、視聴者にとってもサプライズだったかと思います。

古屋 実はこの曲は、海外配信版のために作られていたんです。2月の先行上映会で一度だけこの曲を流したんですが、そのときも原作ファンの方からうれしいというお声もあって、クライマックスに向けたサプライズとしてご用意したものでした。原作タイトルの元となった曲でもあり、原点回帰ができればと。カバーは、TaNaBaTaのあにーさんにご依頼をさせていただきました。サプライズ的に発表されたので、歌っているのは誰?とたくさんの問い合わせをいただいて。歌声だけで見抜かれた方も多数いらっしゃいました……!

──最終話がどのように締めくくられるのかも楽しみです。では最後に、藤原監督から最終回を控える視聴者に向けてメッセージをいただければ。

藤原 そうですね……。アニメで描かれていないエピソードがいっぱいありますので、ぜひ原作のマンガを買っていただけたらと思います。とにかく、あっちこっちで原作を布教して回っているんです(笑)。そしてアニメと原作を見比べてもらえたら、また新たな発見をしてもらえるんじゃないかと思います。