アニメ「SHY」実樹ぶきみ×安藤正臣 | 女子中学生ヒーローを等身大に描くためのこだわりは? (2/2)

村瀬歩のアフレコに「ああ、ここにミェンロンいたわ」(安藤)

安藤 そういえば原作との解釈が違っていたことを思い出しました。シャイの相棒となるえびおさんのことを、僕は女性声優さんが声をあてるマスコット的な存在だと思っていたんです。だから「声優さんは大人の男性を想定してます」と言われたときに驚きました。ただ原作をよく読むと、確かにえびおさんはお母さんというより、世話焼きなお兄さんっぽいんですよね。だから杉田(智和)さんにいいお兄さんとして演じていただいています。

実樹 えびおが女性声優さんのイメージだったら、ジト目ではなくちゃんと目を開けたと思います。

安藤 あんな世をすねたような目にしなかったと(笑)。でも、えびおってちょうどいいキャラクターで、女性キャラクターが多い作品のなかで男性視点をギリギリ担保してくれているんです。原作だともう少し彼の出番を用意する予定だったんですよね?

実樹 そうですね。でも連載していくうちにそうならなかった。

安藤 その話を初めてお会いしたときに聞いて、それならとアニメ版ではえびおさんの出番を少し増やしました。僕も、女子会みたいな画面ばかりだと「自分がやっていていいんだろうか」とドキドキしちゃうので、えびおさんには助けられています。

TVアニメ「SHY」より、えびお(CV:杉田智和)。

TVアニメ「SHY」より、えびお(CV:杉田智和)。

TVアニメ「SHY」より、ミェンロン(CV:村瀬歩)。

TVアニメ「SHY」より、ミェンロン(CV:村瀬歩)。

──その役割は、ミェンロンでは難しかったですか? 男の子のキャラクターですが。

安藤 ミェンロンは、どう考えても作品中で一番かわいい子なので(笑)。描いているスタッフの間でもそういう扱いですし。声優は村瀬歩さんですが、そもそも女性声優さんにお願いする可能性も大いにありました。でも候補の1人として村瀬さんに声をあててもらったら「ああ、ここにミェンロンいたわ」という感じですんなり決まりました。

──実樹先生はアフレコに参加していたそうですが、印象的な声優さんはいらっしゃいますか?

実樹 私の中で一番ぴったり来ているのはスターダスト役の三木眞一郎さんです。

安藤 原作の時点から三木眞一郎さんをイメージしているとおっしゃってましたもんね。

実樹 あとはスピリッツの能登(麻美子)さんですね。すごくいい声と演技でした。

安藤 最近は怖い役や若手を引っ張るメンター的な役も多い能登さんですけど、僕のような40歳前後の人間が持っている少し前に能登さんが演じていたキャラクターのイメージに近い、かわいい面が出ていていいですよね。

実樹ぶきみ

実樹ぶきみ

──声優さんと言えば、メインの2人を演じる下地さんと東山さんに話を伺った際にお聞きしたことがありまして。惟子の名前は彼女が相手を思いやる気持ちが強いことから、感情や思考に関する漢字に使われるりっしんべんを部首に持つ「惟」を使ったものにしたとか。テルやほかのキャラクターのネーミングにも深い意味を込めているのでしょうか?

実樹 そんなに深い意味はないですよ。紅葉山テルという名前はシャイなので赤いイメージの紅葉と照れからですし。ほかのヒーローの本名も国のイメージっぽいものなので、たぶんその国の人が見たら変な名前だと感じるでしょう(笑)。

安藤 質問です! 氷を操るツィベタは「ちゅべたい(冷たい)」から来てますか?

実樹 そうですね。

安藤 本当ですか! 冗談で聞いたのに、まさかそうだったとは。

何をするにも恥ずかしくて勇気が出ない人にこそ観てほしい(実樹)

──実樹先生はPVや第1話などを見られて、どんな感想を持ちましたか?

実樹 原作で描いていないことをやってくれているのはうれしいです。例えば1話冒頭の電車のシーンとか。原作で足りていないところを補ってもらえて、「そうそう、本当はこれが見たかったんだよ」と思わされています。

安藤 いやー、うれしいです。原作にない部分を足すのって一番苦しいし、怖い部分なので。そういうのは原作の流れから外れてしまわないか、あと原作ファンから「違うんじゃないか」と言われそうでやっぱり怖いですから。

──第1話の冒頭は、原作では世界観の説明から始まってその後にヒーローショーでシャイが登場しますが、アニメではその間にテルが電車で移動して遊園地に行くシーンが挟まれています。そんなふうに、原作から流れを変えてでも足さなきゃいけない場合があるんですね。

安藤 はい。やっぱりアニメというフォーマットになったときに、どうしても尺の都合とかいろいろありまして。今挙げていただいた第1話の冒頭は、ヒーローショーでいきなりシャイが登場するより前に、テルが恥ずかしがり屋ということを説明しつつ、彼女のようなヒーローたちも日常に馴染んでいる世界ということを説明したくて、電車移動のシーンを追加しました。

実樹 そんなふうに全体的にシナリオをうまくつなぎ合わせてくれていて。私はヒーローっぽい戦闘より、細々した心理描写などが好きなので、そこをいい感じに埋めてもらえてうれしいです。

安藤 アニメを作っているとどうしてもいろんな背景や設定を考えちゃうんですよ。原作ものは特にそういう行間を解読していくのが楽しいんです。そもそもキャラクターがどんな感情で動いているか、どうしてそんな行動をするのかある程度掴んでおかないと、集団作業する中で他人に指示しづらいですから。やっぱり作業する人それぞれに原作を読んだ際の印象があるので、「ちょっと違うな」というものがあがってくることもあります。例えば原画マンに「俺が描いた表情のほうがいいじゃないか!」と言われたときに、自分がやりたい方向性や正しい感情ラインを理路整然と説明できないといけませんし。

TVアニメ「SHY」キービジュアル

TVアニメ「SHY」キービジュアル

──原作もののアニメの真髄が垣間見えた気がします。最後に、アニメ「SHY」をどんな人たちに観てほしいか教えてください。と言ってもキービジュアルには「全世界が注目!」と書いてあるので、世界中の人に向けているとは思うのですが。

安藤 本当だ、恐ろしいことが書いてあるな(笑)。

実樹 「SHY」は特に海外でウケている印象があります。個人的には注目されるのが苦手なので、日本語でコメントなどがあるといろいろ考え込んでしまうんです。でも英語だと読み解くのに時間がかかるぶん素直に受け入れられるのでちょうどいいです。

安藤 原作がストレートにヒーローものなので、世界のどこでも受け入れられるんでしょうね。自分が今まで作ってきたアニメは男性に向けた作品や特殊な作品も比較的多かったですが、「SHY」に関しては女性も含めていろんな人が別け隔てなく楽しんでいただける作品なので、できるだけまっすぐのストレートを投げたいと思って作っています。だからシャイに感情移入するような若い子も含め、男女関係なく多くの人に観てほしいです。

──改めて、実樹先生はどんな人に観てほしいですか?

実樹 私と同じように、何をするにも恥ずかしくて勇気が出ないような人達に観てもらい、「よし、やるか!」と思っていただけるとうれしいです。

実樹ぶきみと安藤正臣。

実樹ぶきみと安藤正臣。

プロフィール

実樹ぶきみ(ミキブキミ)

2016年に「第2回 NEXT CHAMPION 新人まんが賞」新人大賞を受賞。2019年に週刊少年チャンピオン(秋田書店)で「SHY」の連載をスタートさせた。単行本は20巻まで刊行されている。

安藤正臣(アンドウマサオミ)

アニメーション監督、演出家。これまでの監督作品に「WHITE ALBUM2」「がっこうぐらし!」「クズの本懐」「ハクメイとミコチ」など。

※記事初出時、キャプション内の安藤正臣監督の氏名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2023年9月27日更新